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第六話

「兄さん、こっちこっち!」

「落ち着けー、こけるぞー」


 子供じゃないですとルナは頬を膨らませる。

 エルガーとの戦いから約半日、俺とルナは隣町に来ていた。

 憂いが晴れたルナは浮き足立っており、そのまま飛んでいきそうだ。


「これください!」

「まいどあり!」


 ルナの代わりに代金を払う。

 誕生日の主役なのだから好きに食べなといったが、これで五品目だ。

 その細い体のどこに入るのやら。


「……えっち」

「なんでだよ」

「腰回り見てたから」

「判定が理不尽だ」


 文句言わないと意見は封殺されてしまう。

 まあ、ルナが楽しそうなので良いとしよう。


「はい、あーん」

「あーん」


 これも五回目だった。

 最初は抵抗したが、するだけ無駄だと諦めた。

 疲労困憊な身体に甘みは沁みる。


「大丈夫?」


 目ざとい。左腕を軽くさすったのを見られたらしい。


「少しな。傷は塞がってるし、筋肉痛みたいなものだ」

「絶対違うと思います」

「大差ないよ」


 なんならエルガーから受けたダメージよりも、自分の動きで負ったものの方が重い。

 全体的に筋力も魔力も足りない中、無理をしたのだから当然だが。

 限界を超えた肉体を気力のみで動かしている。

 折角、迎えた誕生日を俺の看病で終わらせるわけにはいかない。


「それより、あれも美味そうじゃないか? 食べようぜ」

「……良いですね。食べましょう!」


 ルナも俺の意図を汲んでくれる。

 遠慮しませんよとウインクし、再び食べ物を購入しに行く。

 焼きたてのパンの香りが鼻腔をくすぐる。


「しかし、活気づいてるなあ」


 村を滅ぼされた後、逃げるようにして王都へと向かったため、時間感覚としては五年ぶりの祭りだった。

 閑散とした田舎と違い、商人の通り道となっているため人が集まる。

 大陸各地を渡り歩く商人が露店を開いているため、物珍しいものがたくさんあった。

 中には取扱注意の危険物もあり、何故だかルナは引き寄せられる。


「あ」

「お嬢ちゃん、こいつは美容液っやつでーー」

「はいはい、いりませんいりません」


 ルナの襟首を掴み、露店から遠ざける。


「あれは、肌を綺麗にする代わりに魔力をごっそり持っていかれる薬だ。やめておけ。つか、ルナはまだ必要ないだろ?」

「女の子はいくつだって肌が気になるものなんです。……ですが、あれはやめておきます。兄さんの言うごっそりって怖いので」


 多少とはいえ、エルガーとの戦いぶりを見たルナは俺を半ば変人と位置付けていた。


(戦場だと腐るほどいるんだけどな)


 極まれば、敵も味方もある種の変態ばかりになる。

 ルナにはまだ早いか。


(いや、知らない方が幸せか)


 学園に入学できたら視野も広がるだろうが、それでも前線には出てほしくない。

 命のやり取りなど知らず、幸せになって欲しいと願うのは兄とした当然だった。


「それより、そろそろ指輪探さないか?」


 パンを食べ終わったところで提案する。

 帰りのことも考えるとそろそろ目星をつけたい。


「……指輪だけど」


 ルナが懐に入り込み、上目遣いで俺のを見る。


「兄さんの手作りが良いんだけど……ダメ?」

「別に構わないけど……」


 自慢ではないが器用な方であり、小物作りなど得意としている。

 とはいえ、本職と比べては所詮素人。

 満足してもらえるだろうか。


「やった! 兄さんの手作りならどんなのだって最高です!」

「大袈裟だなあ」


 本当に嬉しそうなルナを見ると照れ臭くなる。


「じゃあ、宝石を探さないとな」


 土台の材料はすぐに手に入る。

 腕に絡むルナを連れ、材料が売ってある露店をめぐる。

 やはり、既に加工されている物が多く、売っているのはクズ石ばかり。

 それを、もしかしたら希少な石かもと売っているのだ。

 もはや詐欺だろう。


「兄さん、あれは?」


 ルナが指差した先には青白い鉱石があった。

 名札には“竜の涙?”と曖昧な表記がされている。

 竜とは別の大陸におけるドラゴンの名前であり、こちらのそれとは違い、言語を操る個体もいる。

 そんな彼らの涙は一部が宝石となるとの伝説があった。


「これは……」

「お客さん、お目が高いですね! 今日限定、見逃せば二度と手に入らない極上の逸品ですよ! 飾るもよし、舐めるもよし、もちろん加工して装飾品にするのも一興!」


 まじまじと竜の涙を見ていると、商人が揉み手をし、セールストークをしてくる。


「な、舐める?」


 ルナが引き気味に呟く。

 確かに愛好家の中には舐めるが大好きな奴もいる。


「本物なら貴重も貴重だよな。本物なら、だけど」

「もちろん本物……と信じています」

「金額は……十万ヘカ、ね。どうにも中途半端な値段だな」

「本物なら一千万、いえ一億の価値がありますので……! お買い得もお買い得! よ、女神へカニティ様に愛された男!」


 よいしょが雑すぎる。

 背中に隠れたルナが裾を引っ張ってくる。

 すっかり興味は失せたらしい。


「どうせ偽物ですよ。それに高いし」


 ルナの言い分は至極真っ当なものだ。

 だからこそ、こんな時間まで売れ残っているのだろう。

 見た感じ売れ行きは悪そうだ。となると、どうしてもこれは売っておきたいはず。


「いやー、悩むなあ」

「兄さん!?」

「あーもうお上手ですね! 今ならこちらの商品もおつけしますよ!」


 出されたのはインゴット、見た感じ合金だろうか。

 加工すれば土台にはちょうど良さそうだ。触った感じ魔力も通しやすい。


「こちら、とあるドワーフが作った……とされる貴重なインゴットです! ここらでは手に入れることなどできませんよ!」


 後半は嘘ではないだろう。

 胡散臭さに隠れているが、体つきといい、雰囲気といい、旅慣れている。


「うーん、もう一押し欲しいなあ」

「もちろんもちろん、勉強させていただきます!」

「じゃあ、これで」


 手をパーにし、商人に見せる。

 瞬間、笑顔のまま固まり、大量の汗が顔を濡らす。


「じょ、冗談がお上手ですね……。流石に半額には……」


 まあまあと商人と肩を組み、囁く。


「竜の涙特有の紋様がないよな。あれが本物って本当に言えるのか? しかも、見たところあまりの固さに加工を断念しただろ。削り出しすら大変なのに、よくもまあベラベラと話せたもんだな」

「っ!?」

「俺の親父はまあ鍛治職人でよ。国に献上してた過去もあって、顔が広いわけ」


 半分嘘だが、商人には見抜く術はない。


「紋様すら知らない半端者か、分かった上で売りつけようとした本物か、アンタはどっちだ?」

「…………」


 商人は苦渋の色を浮かべ、ゆっくりと項垂れた。


「五万ヘカで……」


 料金を支払い、やー良い買い物ができたと満足していると、


「兄さん、そんなお金どこから……」

「貯めてた」

「本当に……?」

「本当」


 怠け者の時ですらルナの誕生日のために貯金ぐらいはしていたのだ。

 正確には貯めていた額だけでは足りなかったが、この一週間魔物や獣の素材を卸していたのが功を奏した。


「これで指輪が作れるぞ」

「綺麗ですけど……偽物なんですよね?」

「どうだろうな。まあ、綺麗なら良いじゃないか」


 さらっと嘘をつく。

 この竜の涙は本物だ。

 もちろん、紋様の話も嘘ではない。

 一般的に知られている竜の涙には独特の紋様がある。

 しかし、竜の種類によって違う特徴が出るのだ。

 青白い鉱石は特徴的な魔力経路が見受けられる。


「持ってみろ」


 ルナに渡す。


「どうだ? 何か感じないか?」

「うーん……雷?」

「ははっ、良い感じだろ?」


 エルガーの時を鑑みるに、ルナの魔法使いとしての素質は群を抜いているようだ。

 特に魔力を込めた様子もないのに、魔力経路の形を言い当ててみた。

 もしかしたら、歴史に名を残す人物になるやもしれない。

 兄バカと言われるかもしれないが、ルナの前途に心が躍る。


「この金属も魔力を通しやすいみたいだし、良い指輪になるぞ。学園でも使いやすいはずだ」


 魔力を阻害する石で作ったら、ろくにつけていられないだろう。

 その点、これらで作れば助けこそすれ、邪魔はしないはずだ。

 加工は大変だが、“斬”を応用すればそれほど苦戦するまい。


「……うん、ありがとう」

「どうしたよ、試験が不安なのか?」

「それもあるけど」

「他にもあるのか?」


 ルナは言いにくそうに、


「だって、兄さんと離れ離れになっちゃうし」

「それは……そうだな。確かに、寂しいな」


 俺とは違ってルナは村から出たことがほとんどなかった。

 というか、俺だってあんなことがなければ村で生きて村で死んだだろう。


「……ねえ、兄さん」


 なんで指輪を欲しがったと思うとルナは問う。


「ルナは昔から指輪が好きだったけど、今回のとは違うのか?」

「そ、そうだったっけ?」

「十歳の誕生日も手作りの指輪を欲しがったぞ」

「え、えぇ……」


 ルナはショックを受けたのか、恥ずかしそうに頬をかく。


「……うん、そうだね。意味は変わらないかな。でも、今回のは特別」


 変わらないけど特別……全く思いつかない。

 表情から察したのか、ルナは苦笑する。


「今回の指輪はここにつけるの」


 そう言って左手の薬指を見せる。

 それが意味することは流石にわかる。


「お、おい」

「か、勘違いしないで」


 しかし、ピシャリと斬られる。


「これは予防なんだから」

「予防?」

「学園には貴族もたくさんいるらしいから、ほら言い寄られたら断るの大変だし」


 凄い自信だなとは笑えなかった。

 確かに、ルナは村一番の美人であり、性格も良く、頭も良い。

 加えて魔法使いの素質も高いとなると……。


「確かに、悪い虫がわんさか湧きそうだな」


 だから、指輪で牽制すると。

 貴族の中には家柄を鼻にかけ、平民を好きにできると思ってる奴がいる。

 事実として知っているため、ルナの懸念は正しいと深く肯定する。


「流石に婚約者がいる子に迫る奴はいないと思うが……いない、はず……いない、よな?」

「し、知らないけど」


 何故、考えが至らなかったと頭を叩く。

 俺の知っている信用できる貴族は数人しかいない。

 しかも、今の俺とは縁もゆかりもないのだ。

 後ろ盾になってもらうことは難しいだろう。


「やば、心配になってきた」

「に、兄さん?」

「くっ、どうすれば……いっそ、俺も王都に住むか?」

「っ! 来てくれるの!?」


 寂しさを抱えていたルナが食いつく。

 寮はあるものの、希望すれば通いもできると聞く。

 俺が住むならルナも来るだろう。


(王都に行く? でも、そうなると……)


 考えを巡らせたところで気づく。

 別に困ることなど何もないと。

 エルガーの分身体は倒したのだ。復活にするにしても相応の時間がかかる。

 勇者たちによる魔王攻略の旅まだ始まっていない。そもそも、俺が参加する必要もない。

 既に未練は絶ったのだ。


(むしろ、これから何をするかって話か……)


 個人的に恩を返したい人はいる。過ぎ去った未来であり、相手は俺の顔も知らないのだが。

 ただ、それだけだ。それ以外にやりたいことはない。


「仕事はどうにでもなるか……」


 最悪、魔物を狩れば生活費は稼げる。

 これでも最強の剣士と呼ばれた身だ。力仕事も人並み以上にはこなせる。


「よし」


 ルナを見る。

 期待に満ちた視線に口元を緩め、


「俺も一緒に王都に行くよ」

「〜〜〜っ! 兄さん大好き!」


 寂しがりやの妹は、猫のように体を擦り付けてくるのだった。


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