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第四話

 期限は一週間、付け焼き刃でもなんでもするしかない。

 魔物を狩り、戦利品で防具を整える。

 二割とはいえ、そこらで手に入る装備でエルガーの攻撃は良いところ三回までだろう。

 強度よりも軽量化を意識し、あくまで急所を防ぐだけに留める。

 回復薬は王都や大きな街でなければ買えないため、止血剤だけ買っておく。

 指輪は……やめておいた。

 ルナもまさか二時間で隣町までいけるとは思っていないだろう。

 気苦労が絶えないなか、無駄に心労を溜める必要もない。

 魔法は元々不得手なため、後回しにしているが、身体強化などの自己バフは必要不可欠だ。

 ある意味、一番やりくりに苦労しているのは魔力だろう。

 先天的に量が多くないため、地道な努力と装備品で補ってきた。今はどちらも足りない。

 村から町までの移動程度なら効率化で誤魔化せるがエルガーとの戦闘となるとそうもいかない。


(いくらしてもし足りないな……)


 あっという間に時が過ぎ、ルナの誕生日は明日へと迫っていた。

 勝算は高い。頭ではわかっているが、失敗できないというプレッシャーが全身にのしかかる。

 肩、腕、手首、腰、膝、足首と部位の調子を確かめながら深く息を吐く。


「ルナか」


 振り向かず名前を呼ぶ。

 気配への敏感さもだいぶ取り戻せた。

 エルガーはしないだろうが、不意打ちへの警戒は一人で戦う上で必要不可欠だ。


「兄さん、今ちょっとお時間ありますか?」


 来たかと心の中で呟く。


「もちろん」

「では、あちらで……」


 ルナについて行き、村の裏手側、人通りの少ない場所で木の切り株に腰をかける。


「明日、私の誕生日です」

「覚えてるよ。欲しいものがあるんだよな」

「はい……その、指輪が欲しくて」


 ルナは俯き、恥ずかしそうに小声で言う。

 思い出と被る。

 あの時は、ルナもまだまだ子供だなと思ったものだ。


「指輪か。ルナに似合うのを買ってあげるよ。後でダイタクのところに行こうか」


 あえて、村の雑貨店の名前をあげる。


「い、いえ、折角の誕生日なのですから特別なのが良いです。町で買ってきてくれますか?」

「ルナも一緒に?」

「兄さんに選んで欲しいんです。私の目を気にしないで」


 やはり、ルナは俺一人だけで町に行かせたいらしい。


「ルナ、どうして俯いてるんだ? こっちを見てくれ」

「…………どうしたんですか、兄さん。似合わないですよ」

「自覚はある。ただ、14歳最後のルナの顔を見たいんだ」


 ルナは今はちょっとと拒否する。


「それより、朝一番に指輪をもらいたいんです。お母さんからお金はもらってますので、町で一泊して明日帰ってきてくれませんか?」

「今日中に帰ってこれるよ」

「無理ですよ。町まで何時間かかると思ってるんですか」


 ルナは頑なだ。

 未来を知る身としては何故、何を知っているとの疑問が浮かぶ。


「ルナの側にいたいんだ。誰よりも早く誕生日おめでとうって言いたい」

「……本当に兄さんですか? キザすぎて気持ち悪いです」

「むしろ、ルナこそどうしたんだ? いつもは一番に祝わないと怒ってたじゃないか」


 寝ている俺を叩き起こしてまで、おめでとうと言わせた時もあるぐらいだ。


「色々、あるんです」


 まるで振り絞るような声だった。

 この一週間、家にいる間はルナの近くにいたが、日に日に雰囲気が暗くなっていった。


「せめて、顔を見てからじゃないといけないな」


 むしろ、過去の俺は何故平然と村を出れたのか。

 ルナの変化に微塵も気づけなかったのか。

 あまりの鈍感さに苛立ちを覚える。


「……酷いです」

「はっはっは、俺は酷い男なんでな」


 復讐のために生きていたから……だけでなく、意識していないところでもよく不評を買っていた。

 どうにも、他人への気遣いが欠けているようだ。


「兄さん、本当に変わりましたね」

「変わらないといけなかったんだ」


 俺の言葉にルナは顔を上げる。

 髪に隠れ、表情は見えないが俺の胸の内を覗こうとしているようだった。


「どうしてですか……」


 どう答えたものか。

 素直に全てを話すわけにはいかない。

 信じてくれるかもしれないが、結局はルナ一人で逃げてくれることはないだろう。

 俺たち家族だけで逃げる選択肢もない。

 後腐れがないようにするためにも、ここでエルガーは叩く必要がある。


「ルナを守るために」


 無意識に口にしていた。

 ルナが立ち上がり、隠されていた顔が明らかになる。


 目は腫れ、泣いていたのがわかる。

 唇は青く染まり、不安に押しつぶされそうなのがわかる。

 頬は赤くなり、熱を帯びているのがわかる。


「どうして」


 俺は、俺はこんなルナを置いて村を出たのか。

 自分のやらかした事実に打ちのめされる。

 呼吸が浅くなり、唇が震える。


(どうしようもない。どうしようもないよ、俺からお前は)


 ルナの目は悲しみに満ちていたが、その奥に小さな光を灯していた。


「どうして」


 ルナが再び問う。


「……ルナを守るため」

「理由を聞いてるの!」


 弾かれたようにルナが叫ぶ。

 ここまで感情的なルナは初めて見たかもしれない。

 嘘をつく場面ではなかった。


「……夢を見たんだ。お前を失う夢を」

「ッ!?」


 ルナが息を呑む。

 その意味するところはわからない、


「……あの日?」


 ルナが肩を抱き、震える。


「大人になったって」


 そうだと頷く。


「毎日早く起きるのも、剣を振るのも、本を読むのも……全部?」


 続けたのはたった一週間だ。

 本当はもっともっと前からやってなければ、本気にならなければいけなかった。

 そうしたら、あの日、ルナは俺に助けを求めたかもしれない。


「兄さん……!」


 ルナが俺の胸元へと飛び込んでくる。

 嗚咽をあげ、体を震わせる。

 そんなルナを抱きしめ、頭を優しく撫でながら、


「大丈夫だ。俺が絶対に守ってやるから」

「兄さん……兄さん……」


 しばらくの間、ルナは泣き続けた。

 落ち着いた頃には、日は傾き始め、村を夕陽が染め上げていた。


「……嫌な夢を見るんです」


 ここ一か月ほど、ルナは悪夢に襲われていたようだ。

 最初は遠くから誰かが近づいてくるだけだったが、どんどん近づいてき、ついには見える範囲にまで来てしまったと。


「所詮夢だと言い聞かせていたんです。でも、どうしても夢には思えなくて……」


 近づいてくる人物がエルガーかはわからない。

 けれど、確かにルナは今日命を落とす。

 ただの夢とは一蹴できなかった。


「魔法の中には予知夢ってやつがあると聞く。もしかしたらそれかもな」


 とはいえ、使える奴など見たこともないが。

 ルナはこくこくと頷く。


「でも、やっぱり夢だから逃げようなんて言えないし……」

「まあ、信じてはもらえないよな」


 信じるのは良くて家族だけだ。


「それに私を追いかけてきてるから」

「逃げても無駄だと」

「だから、兄さんだけでも町にいってもらおうかなって」


 何故、俺だけ。父や母はと思ったが、どうやら二人にも声はかけていたらしい。

 ただ、俺とは違って良い言い訳がなかったため、説得できなかったようだ。

 ……むしろ、俺の察しが悪いだけで二人はルナの不調に気付いていたのかもしれない。


「でも、兄さんも夢に見てたなんて思わなかった」

「ま、まあな」


 夢と言うか現実と言うか。

 曖昧な笑みを浮かべるしかない。


「……不謹慎かもしれないけど、ちょっと嬉しい」

「え?」

「兄さんが変わっちゃったって寂しかった。でも、私の為だったから」

「ははっ、俺が変わるとかルナのためしかありえないだろ?」

「〜〜〜っ!」


 当たり前のことにも関わらず、何故だかルナは驚き、嬉しそうに口元がにやける。

 大概、ルナも俺のことがわかっていないなと笑う。


「だから、大丈夫だ。兄ちゃんに任せときな」


 ルナが安心できるようにと、満面の笑みで強く胸を叩くのだった。


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