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第十一話

 ルヴェルト魔法学園は、大賢者ルヴェルトによって創立された。

 純粋な魔法の探究を求めたルヴェルトは、権力の介入を嫌がり、当時魔の大地と呼ばれた土地を選んだ。

 多くの同志が集まり、ルヴェルトが亡くなる頃には立派な街ができていたという。

 死後も彼の志をついた者たちによって学園は運営されていたが……。


「何を思ったか当時の王様が王都ごとやってきたんだ」


 優秀な人材が多くいたからか、集う民が多かったからか、何にせよ学園ありきで今の王都は作られた。

 当然、反発も強かったが、世代を重ねるのごとに自然とかしていった。

 生まれた頃から城があれば、それが普通となる。

 そのため、元の王都があった東の大地には城跡が残っている。


「とはいえ、理念は残ってるから一応身分の差は問わないとされているんだ」

「一応、ですか」

「王都の一部になっちまったからな。どうしたって影響はあるさ」


 貴族街、平民街、スラム街などと区分があることからもわかる。


「ルナだって話には聞いてたんだろ?」

「まあ、先生がおっしゃってましたから」


 先生とは、ルナを学園へと誘った人物であり、教鞭を振るっているらしい。

 ふらっと村に現れて、ルナを弟子にして以降、手紙のやり取りしかしていないため、面識はそれほどなかった。


「虫除け云々もか」

「ええ、平民を妾にしようとする方がそこそこいるらしく」


 平民であれば気軽に“遊べる”と思っているのだろう。

 選民意識こそあれ、ゲスではない貴族が多い中、本当にどうしようもない奴らもいる。


「困ったら生徒会役員や風紀委員を頼れば良いと言われました。もしくは、兄さんを連れて来いと」

「俺を?」


 前者はともかく、俺は学園内のトラブルには対応できないが。


「理由はわかりませんが、兄さんを壁にする方法があるとか」

「別に壁になるのは良いけど……」


 文字通り壁にされるのではないかと少し怖い。

 そもそも、先生とやらは俺を見るや否や「才能なし」と切り捨てた人だ。

 よく覚えていたなとすら思う。


「言いましたね? 約束ですよ?」

「詰め寄ってくるなよ……」


 言質とりましたと言わんばかりのルナの笑顔が怖い。


「それもこれも受かったらの話ですけどね」

「そこはまあ心配してないけど」


 学園の試験など何一つ知らないが、不思議とルナが落ちる気はしない。

 今もこうして学園に向かいながら雑談に興じるぐらい余裕もあるみたいだし。


「自分で言うのもあれですが、自身は結構あります。ただ……」


 そう言って鞄から手紙を取り出し、渡してくる。

 差出人は例の先生だ。


「なになに、当然首席合格だろうな? ……マジか」

「マジ、です」


 師事した相手が悪かった。

 どうやら、ルナは首席合格を厳命されているようだ。

 成績によってクラスが変わるらしいので、一番上のクラスになれまでは理解できるが……。


「先生のお弟子さんは皆、首席らしいです」

「む、無茶苦茶エリートじゃないか」

「しかも、これ知らされたの昨日なんですよ? もう開き直ってやるしかないじゃないですか」


 余裕があるように見えたが、ある種の現実逃避だったらしい。

 ルナは俺の腕に抱きつき、首席とか無理ですよと泣き言を言う。


「まあまあ、罰があるわけじゃないし」

「……あるんですよ、罰」


 暗い顔をするルナ。

 流石にそれは横暴がすぎないかと言うと、


「弱みを見せてしまったのは私ですし……。それに、相談して助かった部分もありますし……。身から出た錆ではあるので……」

「よ、よくわからないが、俺が言ってやろうか?」

「兄さんが行ったら意味がないんです! むしろ、とにかく逃げ回ってください!」

「俺? 俺が何かされるの?」


 大切な家族を狙うのは確かに罰だが、ルナの反応からして暴力関係ではなさそうだ。


「兄さんに危害は及びません。ただ、私のメンタルがゴリゴリ削られるだけです」

「先生は何をするつもりなんだ……」


 要領を得ないがルナが嫌がっているのだけはわかる。


「俺にできることはあるか? 逃げはするけど」

「じゃ、じゃあ、何があっても私を嫌いにならないって約束してください!」

「そんなの当たり前だろ? 約束するまでもないって」

「……兄さんの未来を台無しにしてでもですか?」

「っ!」


 脳裏をよぎる忌まわしい光景。過去となった未来。

 あれ以上に悲惨な未来などないだろう。


「ルナのためなら俺の未来なんていくらでも捨てられる」

「兄さん……」

「だから、そんなに怯えるな。仮にルナが俺を殺したとしても恨まないから」

「そこは恨んでもらって構わないんですが……」


 私が兄さんを殺すとなると、恨んでもらうのが目的の一つでしょうしとルナは言う。


(…………あるんだ、可能性)


 俺から振っておいて何だが、背中に嫌な汗が流れる。

 絶対にありえませんとか言ってくれるかと思っていた。


「と、とにかく安心してくれ」

「凄く安心しました!」


 良い笑顔。

 この子、さっき俺を殺す可能性をきっちり考えていたのですよ。


「受験者の方かしら」


 気づけば正門へと着いていた。

 ルナの姿から受験者と判断したのか、制服を着た女性が声をかけてきた。

 長く綺麗な金髪、サファイアを彷彿とさせる瞳、整った顔立ちに柔和な笑みは、同性であるルナも見惚れていたので肩を突く。


「あ! は、はい!」

「受験票か、推薦書はある?」

「こ、これです」


 ルナが推薦書を渡すと、女性は少し驚いたように俺たちを見る。


「貴方がルナさんなのね」

「えっ? ど、どうして私の名前を……」

「私も貴方と同じだからよ」


 そう言ってウインクする。

 近くにいた生徒たちが胸を押さえて苦しむ。

 どうやら、かなりの人気者らしい。


「ハーヴェル先生から話は聞いてるわ。会える日を楽しみにしてたのよ」

「先輩も先生の……」

「愛弟子よ。在校生だと私一人だけだから寂しくて」


 これからよろしくねと差し出された手を、ルナはおずおずと掴む。


「色々と話したいことがあるけど、また今度時間がある時に、ね」


 ルナは、こくこくと頷く。

 美人を前にすっかりと落ち着きをなくしていた。

 ルナも負けていないと思うのだが、自分の容姿となると評価が難しいか。


「とりあえず落ち着け」

「う、うん」


 先輩から視線を逸らせ、平常心へと戻す。


「今はとにかく精一杯やることだけ考えな」

「ありがとうございます、兄さん」

「よし、じゃあ行ってこい」


 背中を軽く押す。


「案内するからついてきて」

「よろしくお願いします。……行ってきます」

「気をつけて。良い時間になったら迎えに来るからな」


 二人の姿が学園の中に入り、消えるまで見送る。

 やれやれと一息つく。


(びびったあ。まさか、いきなりあいつに会うなんてよ)


 あいつとはもちろん先輩ーーエレミナリア・ガーランドのことだ。

 愛称はエレーナ。公爵家の一人娘だ。

 王都で会いたくてない人物堂々の三位に入る彼女だが、まさかルナの先輩だったとは……。

 俺との相性は最悪で幾度となく対立した。


(……まあ、俺が悪いんだけどね)


 卒業後、魔法師団ではなく警備隊に所属した彼女は、もろもろの犯罪行為に手を染めていた俺を追ってきた。

 時には共闘することもあったが、基本的には敵対関係にある。

 今の俺は真っ白なので追われる謂れはないのだが、逃走が本能に染み付いていた。

 先程も逃げださないように必死に堪えていたぐらいだ。


(そういえば……)


 エレーナはとある事件で右手と左足を失い、警備隊を辞めることになる。

 その後のことは知らない。

 エレーナにいつも付いていた従者とも連絡が取れなくなり、交流は完全に途絶えたのだ。


(従者と言えばあいつに会うのも気まずいなあ)

「止まれ」


 素知らぬ顔で通り過ぎれば許されるかと思ったがそうは問屋がいかなかった。

 横を向くと、ポニーテールが目立つ黒髪の女性が立っている。

 ルナやエレーナと比べると頭ひとつ分ぐらい背が高く、発育を良い。

 片目を髪で隠しているのは、鍛錬のためと言っていただろうか。


「何か用か?」

「お嬢様がお呼びだ。来てもらおうか」


 ポニーテールの女性ーー卯月シグレは冷たい目で俺を睨むのだった。


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