05. 夜空 -Under the Dying Night
05. 夜空 -Under the Dying Night
海と川の境い目――その曖昧な場所に、二人は腰を下ろした。潮の匂いがかすかに香っている。
夜空には観覧車の灯りが浮かんでいた。
ゆっくりと回るその輪が、時間の感覚を狂わせる。
このまま時間が止まればいいと、二人は心のどこかで思う。
川沿いの小さなスーパーで、割引シールのついた弁当を買った。
橋の下で腰を下ろし、蓋を開けると、冷えた唐揚げの匂いがふわりと立つ。
「これ、ちょっと味濃い」
慎がそうこぼすと、大成が笑う。
「それがいいんじゃん!汗かきまくりの俺らのための弁当って感じ」
「なんだよそれ、汚い」
慎もつられて笑う。
ほんの少しの日常が、こんなにも愛しい。
食べ終えると、二人は空の弁当をまとめて袋に押し込み、レジャーシートとバスタオルを広げて寝床を作る。
芝の匂いが立ちのぼり、夜風が髪を撫でた。
「……ここ、静かだね」
大成の声はいつもより低い。
「うん」
二人は寝転がり、夜空を仰ぐ。
街の光が空をうすく染め、雲の切れ間からのぞく星はあまりにも僅かだ。
それでも大成にとって、こんな風に夜空を誰かと見上げるのは初めてだった。
「……星って、動いてるのかな」
ぽつりと大成が言う。
「大成……俺たちが動いてるんだよ」
慎は笑って大成の腕を小突く。
「マジか…」
「ねえ、慎兄」
「ん?」
そう言って、慎の方へ体を向けた。
互いの吐息がかすかに触れる距離。
――もう、躊躇しない。
大成は慎の上に覆い被さると、頬に唇をつける。
「…大成」
「慎兄、俺……」
もう、後には退けない。
何かがまるで変わってしまうとしても、大成には今、慎が必要だと思えた。
慎が目を伏せる。
――自分が悪い。慎はそう思った。
自分が楽になるために大成をこんな風にしてしまった。
動画を見せて大成の気持ちを試した。
自分を堕とす事で、自分の汚れが誤魔化せるような気がしていた。
だからいつも、こうなる。
「大成……」
慎は大成の背に手を回すと、優しく撫でる。
「ごめん……俺が全部悪かった。
俺、やっぱり……大成のお兄さんでいたい」
大成の背が上下する。震えるような息。
「やだよ…なんでだよ…!」
声が震える。
「大成、キスしよう」
慎は、大成をそっと押し戻すと、その唇に、貪るように吸いついた。
「ん…っ」
舌を絡ませ、唾液を含ませる。
二人の熱い吐息が喉の奥で混ざり合う。
「慎兄……ダメなの?」
大成が堪らず、縋るように慎を見下ろしている。
慎は大成の腰に足を絡ませる。
身体が密着し、固くなった大成のものが下腹部に当たっている。
「大成、動いて」
耳元で囁くと、大成はそのまま服越しに兄の上で腰を振った。
……
「大成、怒ってる?」
仰向けのまま、隣で背中を向けて転がる大成へ問い掛ける。
「………別に」
「……ごめん。もうすぐお金なくなるし、明日、戻ろうか」
慎の言葉に、大成は思わず振り返る。
そんなこと、絶対に嫌だ。
「慎兄、やだよ」
慎の胸の上で啜り泣く。
「……帰りたくない、帰りたくないよ」
慎は大成の肩越しに、もう一度夜空を仰ぐ。
「俺も、帰りたくないな」




