今、思い出しても腹が立つ
「オセロをしましょう」
聖女様が不意にそう言った。
付き人の僕は面食らう。
「今からですか?」
「ええ」
「何故ですか?」
「やりたいからです」
顔を赤くする。
生憎僕はオセロのルールを知らない。
それを伝えると聖女様は微笑む。
「大丈夫ですよ。今、ルールを教えます。いいですか? まず盤面には白と黒の駒が四枚あります」
「ありゃ、反対側は別の色なんですね」
「そうです。そして二枚で挟むと反対になります」
「なるほど! 最後、どちらの色が多いかで競うんですね?」
「その通りです」
聖女様は微笑む。
「それじゃ、始めましょうか。お先にどうぞ」
「はい」
僕の黒が聖女様の白を一枚染める。
聖女様の白が僕の黒を裏返す。
繰り返す中で、ふと聖女様が意図の読めない場所に駒を置いた。
「聖女様。そこでは何も変わりませんよ」
「ええ。ハンデですよ」
「ハンデですか」
ハンデか。
悔しいけれど、経験者の聖女様と初心者の僕では無駄な手を打たれるくらいで丁度良いのかもしれない。
「パスでも良いのですけれど、流石にそれでは失礼な気もしましてね」
「はは。ありがとうございます」
聖女様は慈悲深い。
何せ、意味のないパスを四回もしたのだから。
――四隅に置かれた駒が決して反対に出来ないことに気づいたのは三戦目だった。
あのクソ女が。
幼い頃の実話です。
「それじゃ、私はここに置くだけ」じゃねえよ。
ちくしょう。




