第七のラッパ、滅びの足音
日に一度、終末のラッパが鳴り響くと、世界から幾らかの大地が削れ、天へと昇る。
建物や木々、生き物たちを乗せたまま。冥府へ向かうワイルドハントの馬車の如き轟音とともに。
幾百回と見たこの光景も、これで見納めだ。
世界最後の大地は十平方メートル。立つのは俺一人。
ある日突然始まった、天上からの一方的な陣取りゲーム。仕掛けてきた相手の顔も名前も、目的も分からない。最後まで残った俺は、勝者を名乗ってよいだろうか。
天には何がある。先に行った者たち――例えば、アイツもいるだろうか。
思ううち、俺は天へ昇り始めた。
天国は、白く広大な空間だった。まるで巨大なセレモニーホールだ。扉も幾つか見える。
数百名と思しき老若男女が、皆一様に白い長衣を纏い、首に花輪を掛け、笑みを浮かべ、俺を取り囲んでいる。……知った顔も多い。
その輪の奥には、アイツもいた。周りの連中と同じ、薄っぺらい笑顔を貼り付けて。
群れの中から、初老の男が、俺に向かって進み出た。真綿のような声で、にこやかに語りかけてくる。首から覗く物騒なタトゥーが、声と表情に不似合いだ。
「おめでとうございます。最後まで地上に残られた貴方様は、人類最高の英雄でございます。天使の皆様も讃えておられますよ。天使の皆様は、本当に素晴らしい方々でございます」
皆が拍手をする。男が、俺に花輪を掛けようとする。
その手を、払いのけた。
俺は白い連中をかき分け、拍手を続けるアイツの前に立ち、いけすかない笑顔を引っ叩いた。アイツはまだ笑っている。
「忘れたのか。知っているだろう、俺は英雄じゃない。お前もだ」
まだ笑っている。引っ叩く。
「始めるぞ。俺もこっちへ来たんだ。天国があってよかった。最低な場所でよかった。心置きなく、壊せるぞ」
まだ笑っている。何度も、引っ叩く。
アイツは笑っている――ひどく邪悪な顔で。俺のよく知る、アイツの顔で。
俺も笑って、言ってやった。
「戻ったな。……行こうぜ。勝手に地上をめちゃくちゃして、人をコケにしておいて、英雄だと? 天使とやらに思い知らせてやる。天国に悪魔を――人類最悪の悪党どもを引き入れたら、どうなるかをな」
俺は幻視する。
突撃ラッパに従い、軍靴を響かせる地獄の軍勢の姿を。
その軍勢の最初の志願者は、ここにいる者たちになるだろう。何せ、ここは悪党部屋だ。地上から吸い上げられ、仕分けられた人間のうち、とびきりの罪人を集めた場所に違いない。どう見ても、俺やアイツと同類のろくでなしばかりが詰め込まれてやがる。
まずは、順番に頬をはたいて回るか。……人数が多いから、アイツと手分けして。