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6話

 

「休憩と言いながら、お勉強の時間になってしまいましたね」

「わたくしは気分転換になって丁度よかったです。お母様とお話しするために面会依頼を出す必要がある事を知らなかったのでとても助かりました」


 ナベリウス先生が帰った後、バティンの部屋へ突撃するつもりだった。危ない。カシモラルが止めてくれるとは思うが、忙しいのにこれ以上仕事を増やしたくない。


「親相手にも面会依頼が必要になるのは帰敬式後ですから、帰敬式を終えたばかりのハーゲンティ様が今まで知らなかったとしてもおかしくないですよ」


 これは学習の遅れのうちに入らないよとナベリウスが教えてくれる。


「さぁ、夕刻の鐘まで今日のおさらいをしましょう」

「はいナベリウス先生」


 しばらくしてカシモラルが戻ってきた。それを横目で見ながらカトラリーの使い方の練習を鐘が鳴るまで続けた。


「お疲れ様でした、ハーゲンティ様。夕食の前に湯浴みと着替えです」


 使用人が浴室から出て行くのが見えるので、お湯の用意をしてくれたのだろう。お風呂は嫌いではないけれど、1日に何度も入って、さらに着替えて、面倒だ。


「汚していないと思うのですが、着替えなければなりませんか」

「今お召しになっているのは昼用のドレスです。夜用にツヤのある生地を使ったドレスに着替える必要がございます」

「う、はい、お風呂へ行きます」


 生地の違い?金持ちめ。






 バティンへ出した面会以来の返事が届き、お茶会に向けての特訓終盤、私の部屋で話し合いを行うことになった。ついでに特訓の進捗確認がある。

 私は緊張しながらバティンが来るのを待った。


「どのくらい身についたのか、見せてください」

「はい、お母様」


 本来はバティンが上位者なのだが、今日は私の作法の確認のため下位者の役をやってくれるらしい。初対面の挨拶、少しの談笑、席への案内。


「いいでしょう、よくがんばりましたねハーゲンティ」


 私はほっとする。しかし、今日の本題はこれからだ。まだ気は抜けない。


「ありがとうございます、お母様。本日ご足労いただいた理由なのですが、お茶会のお客様の中で側近候補に挙げられる方がいるかを知りたいです」

「カシモラルから聞いております。一緒に確認をしましょう」


 そう言ってバティンは木札を何枚か側近から受け取り、私の目の前に広げてくれた。字の読み書きも一緒に教えてもらえてよかった。6割くらいは読めるようになっている。分からなかった単語は後でナベリウスに確認しよう。


「この方とこの方、2人は問題ございません。この先交流を重ね、あなたが側近に必要だと思ったら声をかけましょう」


 8人中2人、半分もいないことに驚いたが、今回は誰かが内緒で私の名前を使って人を集めたのだからありえるなと納得。そして交流を重ねてからと言うことは当日話が弾んだとしてもすぐに側近の話を出してはいけないと言うことだ。


「チャクスやムルムルと対応が異なるのですね」

「その2人は出仕先を探していることが最初から分かっていましたし、ムルムルは直轄地に住む同派閥です」


 ウハイタリ領地内の女性たちは第一夫人バティン派、第二夫人スコックス派、中立派の3つに大きく別れているそうだ。男女含めた派閥は出身地と親族が関わってくるので、この大きな3つの中でさらに細かく分類されているとのこと。


「ならチャクスは中立派なのですね」


 振り返って尋ねてみた。


「はい、わたくしの出身シャイターンは国境に位置しており、中心部から距離があるので自然と中立になります。その代わり隣接している土地の中では、同じく国境沿いの貴族たちと交流が増えるので、それが派閥に相当します」

「チャクス、ありがとうございます」


 なるほど、中立派の中の国境組、という分け方で覚えておこう。私はバティンへ向き直る。


「脱線してしまうのですが少し気になったので教えてください。チャクスの話に国境が出てきました、お隣の国とは仲が良いのですか」


 戦争とか起きたら嫌だなと思い聞いてみる。


「隣国はありません。国境壁の外は魔障の霧が充満し、常にあちらこちらから魔獣が生まれ、この国へ侵入してこようとしています」


 予想外の返答だった。


「魔獣討伐は貴族の重要なお仕事です。これらも少しずつ覚えていきましょうね」

「はい」


 カシモラルが言っていた軍務ってこれか。逃れられないと分かって内心ガックリした。


「話を戻しましょうか。今回のお茶会は6人がスコックス派で残り2人が中立です。6人からは足元を掬われないよう言動によく気をつけるのですよ。中立派もこちらの立ち回りによっては敵対しかねません。側近候補から外れたとしても邪険に扱ってはいけませんよ」

「気をつけます」


 そんな意地悪なことしないよと思ったが、自分が今6歳であることを思い出した。子供ばかりで集まるのだから親としては心配にもなるだろう。真剣な顔をして頷いておく。


「それにしても、なぜお母様とスコックス様で派閥が分かれているのですか。同じ家族なのにまるで足の引っ張り合いをしているように感じます」


 バティンが困った顔になって言葉を探す。見かねたカシモラルが説明をしてくれた。


「第二夫人とその子供は別の家族なのです」

「ではレライエは妹と呼べないのですか」

「ザブナッケ様の子であるレライエ様は異母妹いもうとと呼べます。そして義務と権利はハーゲンティ様とほぼ同等です。スコックス様の権利は限定的で、序列も領主一族の中で最下位なのでハーゲンティ様へ命令できる立場にないのです」


 だんだんとカシモラルの顔色が変わっていく。きっと帰敬式の日にスコックスの側仕えが私を連れ出したことを怒っているのだ。しかもブツブツと呪詛のように言葉が続く。席順や入室順をスコックスが守らないといったことが次々に出てくる。私も夕食時になんでと疑問に思ったが、スコックスが特殊ということがわかった。以前に困った人と言っていたが、本当に困った人のようだ。

 カシモラルの様子を見てバティンの表情が緩む。


「家族ではありませんが同じ領地を盛り立てる領主一族です。時には協力することもあるでしょう。ハーゲンティが公爵を目指すのなら家督を継ぐ資格のない第二夫人の子ではなく、弟のアイぺオスと競うことになります。まだまだ先の話と思うかもしれませんが、あなたが何を目指すかで選ぶ側近も変わっていきますよ」


 公爵か。それもこの国の主役を目指すルートのうちの一つだな、考えておこう。


「お父様はなぜスコックス様を自由にさせているのですか。一緒に領地を盛り立てたくてもこのように対立していては難しくなりそうですよね」


 私を使ってこんな嫌がらせをしてくるのだから、すでに相当仲が悪いのだろう。


「ザブナッケ様はお祖母様、お母様と続けて王女殿下が第一夫人に嫁いでいらっしゃったので、領地内の派閥意識が薄いのだと思われます。わたくしは領地内の貴族との繋がりを深めるために嫁いできました」


 ろ、ロイヤル~~~!そっか、公爵って、そうか。ちょっとワクワクしてきたな。


「お茶会の件については、まだ側近が1人もおらず、城の使用人をハーゲンティの代理人として動かせたからできたこと。側近が決まった今は不可能です。それよりも、領主一族の名を語ったことが問題です」


 確かに、なりすましだ。名誉毀損、侮辱、詐欺など色々な犯罪につながる。放っておくことはできない。


「これは重罪です。注意して終わりとはいきませんし、領主一族の名誉に関わります。この招待客一覧を見ればだいたいどなたか見当はつきますが、証拠がなければ罪に問えません。証拠を押さえたいのですが少々行き詰まっています」


 なかなか尻尾が掴めないのか、やるなスコックス。なんて思いながら、ザブナッケにスコックスを止めるか調査を手伝ってもらえないのかと尋ねる。


「ザブナッケ様には以前から注意してくださるようお願いしているのですが、スコックス様を規律で縛りたくないとおっしゃって……」


 ザブナッケお前かー!


 1番好き勝手を許しているのは公爵本人だった。私の中で実父の株がどんどん下がっていく。


「調査はこちらで行います。ハーゲンティはお茶会を無事に終えることに集中してください」

「承知いたしました、お母様。ですが」


 私はニッと笑ってみせる。


「わたくし、泣き寝入りはしない主義なんです」


 周りの空気がピリつく。

 犯罪者と同じ土俵に立つ気はないから単純なやり返しはしない。ただただ私自身が上を目指す、それだけだ。


「無事に終える、ではありません。完璧に成功させます」


 何より私はカッコつけたがりなのだ。ドヤ顔がしたいのだ。


「お母様、時間が許す限りお稽古に付き合っていただけますか」


 私はカッコいい自分を目指す。スコックスが好きに振るまおうが、嫌がらせをしてこようが、私は決して構ってやらないし、やり返さない。それが主役への道でもあるからだ。


「ええ、ハーゲンティ。では最初から通して見せて」






 バティンとナベリウス両方から合格をもらい、余裕を持ってお茶会当日を迎えた。



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