39話
公爵の子が、男爵の子の後ろに並んでいる。
開会すぐに王の子が公爵の子のもとへそろって向かった事と並ぶ珍事件が発生したと誰も彼もがひそひそしている。
う~ん、でもな。
「割り込みはしたくないです」
他の人を押しのける方が私の感覚では無作法になる。
それに私は会の最初にディリエルと話をしたのだ。順番を譲ってもらう必要なんてない。
伯爵以上と以下で差もあるらしく、このような場でもないと子爵・男爵は挨拶をする機会すらないそうだ。それを知っているとさらに「わたくしが先よ」なんて言えない。
私に後ろへ並ばれた男爵の子と新入り護衛2人は「え!?」という顔をしていたが、私の行動にそこそこ慣れているチャクスとムルムルは表情一つ変えず黙って一緒に並ぶ。
なんだか列の先に並んでいる子たちがみんな青ざめていくような気がする。
こらこら、私よりディリエルの方が上位者でしょうが。こっちを見てるんじゃないよ。
私は心の中で叫ぶ。
急に列のはけるスピードが早まった。
並んでいる子たちが挨拶だけして雑談などはせず早々に退席していく。
「わたくしは皆様に気を使わせてしまったようですね」
あちゃーと思ったがムルムルが「御心配には及びません」と言ってくれる。
「列の長さと残り時間から考えて、男爵位の方々は目通りかなわなかった可能性が極めて高いです。全員が挨拶できる状況ができたのですから、感謝こそすれ非難される覚えはありません」
まぁでもゆっくり話したかった人たちはそれができなくなった、いや、私が順番を譲ってもらっていたら挨拶もできなくなっていたのか。
やっぱこれで正解なのかも?
列が早く動いていても、そこそこ時間はかかる。
せっかくなので目の前に並ぶ男爵の子に話しかけてみた。
「ここで一緒になれたのも何かのご縁、いえ、聖獣様のお導きでしょう。少しお話をしませんか?」
男爵の子はビクっと肩を震わせてから、恐る恐るこちらを振り向く。
瞳の色とドレスの色を合わせたようで栗色がとても可愛い女の子だ。
紅樺色の髪はゆるく三つ編みにされ、左肩に流している。
そばかすが浮くほどの白い肌に赤系の髪はとても映える。
「お声がけいただき光栄です。カイアムヌ領、男爵の子サミジーナと申します。以後お見知りおきください」
一番後ろにいるからワルタハンガ領だと思っていたが、序列1位の領地だった。
「初めまして、ハーゲンティ・ウハイタリです」
形式通りに挨拶をし、ちょっとした会話をする。
「わたくし王宮へ来たのは初めてで、とても緊張しました。サミジーナは何度目ですか?」
「帰敬式が春でしたので、わたくしも今回が初めての社交です」
一緒ですねーと言って笑いあう。
「一つ伺いたいのだけれど」
「何でしょうか」
「その、気を悪くしないでね。一番後ろに並んでいたので、ワルタハンガだと思い込んでいました」
サミジーナは私の発言に引っかかることなく答えてくれた。
「御息所のご出身がカイアムヌなのです。なるべく初日に挨拶へ伺いなさいと父から言われました。きっと他領の方々も同じように言われているのでしょう」
なるほど、今後はわからないが初日の今日に限っては挨拶に並ぶ領地が絞られるのか。
「ありがとうございます」
「いいえ、とんでもないです。わたくしも質問よろしいでしょうか?」
「ええどうぞ」
「ハーゲンティ様は何がお好きですか?趣味などはございますか?」
噓を言っても仕方がないので少しぼかして、
「芸術が好きです」
と笑顔で答える。
「わたくしも、とくに舞が好きです。社交開会式で舞姫をこの目で拝見することができ、感激いたしました」
なんとサミジーナは舞が好きだと。かなり気が合いそうだ。
「わたくしも舞が好きです」
そこから舞姫のどこが良かったかで盛り上がった。
楽しい時間はあっという間で、サミジーナの挨拶の番がもう目の前に迫っていた。
私から終わりを告げる必要がある。
「そろそろサミジーナの順番ですね。とても良い時間が過ごせました。ありがとうございます」
「こちらこそありがとうございます」
サミジーナは公爵位の私と話したことで、イイ感じに肩の力が抜けたようだった。
他の子たちと違いガチガチに緊張することなくディリエルと無事に挨拶を済ませた。
次は私の番だ。
「ハーゲンティ、席で待っていてと伝えたのに」
「順番に並ぶのも面白いと思いまして」
びっくりしましたー?と笑って見せる。
「とても驚かされました」
ディリエルは頬を膨らませながらも嬉しそうにしている。
「サミジーナと話していましたね」
「はい、会の趣旨に則って社交を行いました」
「収穫はありましたか?」
私はニッと笑う。
「んふ、秘密です」
全くなかったわけではないが、ディリエルにとっては毎年の事で当たり前な情報と趣味の話だ。
「1番後ろに並ぶのもですが、同派閥でもない男爵の子に話しかけたことにも驚きました」
他派閥と言っても領地が違うので敵対はしていないだろうし、何より貴族同士だ。私から声をかけたのでサミジーナの無作法でもない。上級貴族とだけ仲良くとも言われてない。だって私の側近ムルムルは子爵の子だ。
私は声にこそ出さなかったが首はひねった。
「階級に差があると、ハーゲンティにそのつもりがなくても命令になる事があるのですよ」
心配をされていた。
「ご忠告痛み入ります」
サミジーナとの会話を振り返る。よし、命令になりそうな内容も言い方も無い。
ムルムルも問題ないと頷く。
「いえ、その……」
ディリエルの歯切れが悪い。
どうしたのだろうか。
続きを話し出すのか様子をうかがうため、私はしばらく黙っておく。
ディリエルは口先を少し尖らせる。
「……私がサミジーナより先にハーゲンティと仲良くなったのに」
これは、嫉妬?
前世でも今世でもなかなか見ないストレートな表現に、私の顔が赤くなる。
友人と呼べるかはさて置き、秘密を共有しているので仲良しの表現でも間違いではない。
ああ今の感情の昂りでファルファレルロが笑っている。もうやだ。
「サミジーナとはたまたま並んだだけ、そう、一期一会ですよ」
「イチゴイチエ?」
パパパパパー
閉会を知らせる管楽器が鳴る。
ナイスタイミング!と心の中で式部官にサムズアップする。
「もう時間か」
「次は伯爵以上の、あ、その前に交響楽団の演奏会でお会いできるかもしれませんね」
子供の社交回数はぐっと減ったが、演劇や演奏会などの催しは大人がメインなので休止明けは削られていない。そこに子供が居てもいいというスタンスだ。
私は演奏会に参加する事をこっそり伝える。
ディリエルも小声になって、
「予定を調整します」
と返してくれた。
別れ際に自分の予定を伝えるくらい、私はディリエルに心を開いていた。
この事には自分で自分に驚いた。
私たちは別れの挨拶を終え、会場を後にした。
別邸へ戻った私は、自室でお茶を飲みながらファルファレルロと戯れていた。
3人の王の子それぞれの印象など、自分の頭を整理するように話した。
話していくうちにディリエルとのやり取りをからかわれ始め、そのまま部屋の中で追いかけっこが始まった。
ドタバタしているとドアをノックされ、急いでファルファレルロを掴んで自分の中にしまった。
「どうぞ」
「失礼いたします」
入ってきたのはムルムルだった。
「ハーゲンティ様、バイェモンのことでお話がございます。側近を全員集めましたので、小会議室へのご移動を願えますか?」
「ええ、すぐに向かいます」
会議室にはカシモラルたちがすでに揃っており、すぐにバイェモンについての情報共有がされた。
「あははは!良い、良いです。そのお話を受けましょう」
その内容に私は大笑いをして了承した。




