37話
どういう状況?
どうしよう、と私が視線を動かすより先にムルムルがさっと手を出してくれる。さすがだ。
ありがとうと伝え、その手を借りて立ち上がる。
少しだけ深く息を吸ってからチャクスに下がるように言う。
「チャクス、下がってください。警戒は必要ですが、王子たちです。殺気をしまいなさい」
はっ、とチャクスが短く返事をして私の横まで下がる。
次に私が考えなければならないことは、こちらから話しかけるか否かである。
当初の予定通りブルレッキから順番に王子たちの元へ向かっていれば何も問題はなかったが、王子たちがやってくる。しかもブルレッキを抜かし飛ばしてウハイタリに。
「走って逃げたら追いかけてくるかしら」
「試さないでくださいね」
ムルムルにしっかり止められる。
さて、この中でディリエルは唯一交流があるので真っ先に話しかけたいところだが、初対面かつ序列が高いヴァルファールとレラージュがいる。
初めましての挨拶が、先?だよね?
吹っ飛びかけていた挨拶の手順を手繰り寄せる。
王子たちの声が聞こえるほど近づいてきた。
「まぁ!異母兄様たちは席で待っていてよろしくてよ?」
「金の髪を持っているのだ。まずは私から声をかけてやることでだな」
ワイワイしながら、の表現で合っているだろうか。とにかく賑やかだ。
ディリエルは一歩下がって会話に入らず微笑んでいる。
個人的なお茶会で、ディリエルは大人しい性格だとは感じていたが、弟妹が声を弾ませているので余計に落ち着いた雰囲気があるように見える。
見えただけだった。
そろそろ声をかけるか、かけられるかという距離になってディリエルが一気に追い越しをかけて先頭に躍り出た。
競馬か!
「ごきげんよう、ハーゲンティ。先日はありがとう、とても有意義な時間を過ごせました」
「ごきげんようディリエル王子。こちらこそお声がけいただきありがとうございました。とても楽しかったです」
この王子たちは何をやっているんだと思ったが、ディリエルから声をかけてくれて内心ホッとした。
私とディリエルの様子を見てレラージュは即座に切り替えた。
私からは視線を外さず、ディリエルに猫撫で声で擦り寄る。
「ディリエル異母兄様ぁ?わたくしを紹介してくださらないのですかぁ?」
ディリエルはちょっとだけ眉を下げる。
紹介先の私はというと、レラージュ王女直近で見るとちょ~かわえぇ~~~、と違うことを考えていた。
いやだって、可愛い、綺麗、そう綺麗!それでいて私みたいな釣り上がった目じゃ無いのはポイント高い。コテで巻いているのかカールしている髪は揃っていて綺麗をさらに引き上げている。
「ハーゲンティ」
「ひょぁぃ」
ディリエルに対して変な声で返事をする。
あ、とディリエルが何かに気づいてレラージュが自分の腕に絡ませている手をポンポンとする。
「ハーゲンティに魔力を当てて魅了しているでしょう?すぐにやめてください」
レラージュは「あらバレちゃった」と言って私から視線を外した。
私はザブナッケにされていた事と重なってちょっと引いた。
それより、魔力当てられていることに全然気が付かなかった。
うーん、ファルファレルロが反応しなかったから危険なレベルではなかったってことかな?
「さすがは紫の瞳ですね」
レラージュが誤魔化すように私を褒めだす。
「魅了したくてもできませんでした。これが魔力量の差なのですね」
わたくしの瞳は青ですから、と言いながら長い髪を流す。
ザブナッケに精神干渉されていた時のように意識が朦朧とすることがなかったのは魔力量の差なのか。ザブナッケは緑だもんな、ふむふむ。
とはいえレラージュからの魔力干渉が止んだ後もやっぱり、レラージュは可愛かった。魅了なんてする必要はどこにも無い。
「おい、聞いていないぞ」
そこにヴァルファールが割り込んでくる。
「お前、いつの間にハーゲンティと交流を持ったのだ」
ヴァルファールがディリエルに突っかかり、レラージュはディリエルの後ろに隠れるように移動する。
えー、ここで喧嘩を始めないでよ。
空気の読み方を忘れた私はひざを折って挨拶をする。
私の側近たちも揃って会釈をする。
「ヴァルファール王子殿下、レラージュ王女殿下。ご挨拶が遅れてしまい申し訳のないことでございます。本日は無事にサロンが開かれ、こうして皆様にお会いすることができて光栄に存じます」
丁寧に、丁寧に心を込めて挨拶をすると、ヴァルファールの機嫌が良くなった。
「ふん。エリゴール女御の子、第六王子ヴァルファールだ」
とても勝気で強気でいらっしゃる。
自信がないよりはあったほうが良いけれど、すんごい上から目線だ。
私は明確に身分が下なので仕方がないのかもしれないけれど、ゆとりとかZとか言われていた身としては「親や先生からもこんな態度とられたことないのに!?」っていう衝撃を受ける。ひょえ~。
「わたくしはプルソン更衣の子、第四王女レラージュです」
なぜ異母兄様は紹介してくださらないの?とレラージュは小さく呟きながら視線だけディリエルへ向けた。
ディリエルは一度レラージュに視線を合わせたがすぐに外して私を見る。
「ハーゲンティ、他の公爵家との挨拶を終わらせてきます。ここで待っていてください」
周り中から大注目されている。やめて見ないで。
「はい、お待ちしております」
私は次来るときは弟妹を置いてディリエルだけで来てくれと祈りながら返事をした。
私の返事に満足したのか、ディリエルがヴァルファールとレラージュに次へ行くように促して離れた。
王子たち3人とその側近たちはブルレッキの席へ向かうようだ。
「びっくりしました」
「会場にいる方も、もれなく全員おどろいていると思われます」
ムルムルに言われて侯爵以下の子供達へ視線を向ければ、探り合いをしている雰囲気になっていた。
「事件にわたくしが首を突っ込んだという話があまり知られていないのでしょうか?」
「いいえ、ハーゲンティ様ではなく、ディリエル王子のことが伏せられているようです」
チャクスから答えが返ってきた。
「ケレブスは成人しているので、先に社交が再開しております。そこで得た情報です」
なるほど。
「ありがとうございます。助かります」
それにしても、あの大人しいディリエルが決まり事を破って真っ先に私の席に来たのは意外だった。
大人しそうはもちろん、周りの大人(側近)たちの意思に沿うように動いている印象が強かったため、異母兄妹たちに対抗して自ら行動を起こすとは予想できなかった。
あの異母弟妹は顔見た瞬間からやりそうではあったため意外性はなかった。
ま、たった1回のお茶会でその人の全ては分かんないよね。
「さて、ディリエル王子が戻ってくるまで、座って待ちましょうか」
待っていると約束をしたのだ。
早く来て欲しいような、なるべくゆっくりにして欲しいような、ハッキリしない心情で椅子に腰掛けた。




