36話
今回の会場になっているサロンも美しい。
赤の装飾が多く、前回の会場は白の装飾だったなと思い出す。部屋ごとにテーマカラーがあるのかもしれないと考え、他のサロンも見てみたくなった。聖獣たちの色全てのサロンがあるなら残り5つだ。ウハイタリ領の者としてはギルティネの黄色のサロンにぜひ入らせてもらいたい。
案内された席まで歩く間、会場の煌びやかな装飾に視線を奪われすぎないよう自分と戦い続ける。
子供達は領地毎に集まっているが、前回とは違い公爵家は別席が用意されており少し寂しい。
え、てかこれって私を見張ろうって……ははは、まさかね!
私は軽く首を振って今の考えを押し退ける。
「ハーゲンティ様、いかがなさいましたか?」
よく気の付く子だ。
ピーコックグリーンの長い前髪の隙間から緑を帯びたグレーの瞳でこちらを覗いているのは新入り護衛官のグイソンだ。
「なんでもありません」
不審な物を発見したわけでは無いので私は笑顔で返す。
ちょっと注意力散漫になっていただけだ。気付かないでくれ。
グイソンは一つ頷いて前を向く。
ムルムルの手を借りて椅子に座る。
右にムルムル、左にチャクス、背後にグイソンとシトリーが並ぶ。
「もうじき開会ですね」
「ワルタハンガも揃ったようです」
チャクスとムルムルが教えてくれたので少し左に視線を向ける。
視界の端に、先ほどの私と同じように案内されてやってくる一行がいる。
ついでに右にも視線を振る。
自分が席に案内された時点ですでにブルレッキは席に着いていたがあまり意識をしていなかった。
「ブルレッキもワルタハンガも大所帯ですね?」
私はムルムルに小声で言う。
公爵家の子はブルレッキが男女1名ずつ、ワルタハンガが男児1名。そしてそれぞれの側近が私の側近の倍以上いる。ブルレッキは2人分だから、もうそこだけでパーティ会場みたいになっている。
「騎士の数が多いように見受けられます。事件の後ですし、どちらも護衛の側近を増やしたのかもしれませんね」
私も増やしたのに ※2人 こんなに差があるとは思わなかった。
いや、カシモラルから事前に最低限必要な人数を聞いていたのに増やさなかったのは私だ。全然足りていない。この場に連れて来られる側仕えが1人なのも見栄えうんぬんの前にムルムルの負担が大きい。
私は一生後悔と反省をし続ける運命のようだ。なんて、これはさすがに開き直りすぎか。
「こちらは少数精鋭です」
せめて気後れをしないようにと両手をグッと握りしめて口に出してみる。
「その通りでございます」
チャクスが元気に応えてくれる。
それを見てやれやれという表情をするムルムル。
見慣れた光景に私は力を抜いて笑う。
新入り2人が私の真後ろに立っていて表情が見れないのが残念だ。
パーパパパパー
トランペットに似た管楽器が鳴り響く。
会場にいる子供も大人も全員が口を閉じる。
開会の合図で、王子と王女の入場が始まった。
先頭は女御の子ヴァラファール第六王子、金髪に夢路色の瞳の8歳。
続いて更衣の子レラージュ第四王女、伽羅色の髪に阿波藍色の瞳の8歳。
最後に御息所の子ディリエル第五王子が入場する。
なんでか知らないが王の嫁さんは第一夫人や正妃側妃ではなく、序列の上から「中宮」「女御」「更衣」「御息所」「御匣殿」の呼び方が決まっている。今の王の嫁は4人なので御匣殿は空席だそうだ。どうでもいいけれど。
「ぁ」
ディリエルと目が合う。
手を振るのは目立つと思ったので、私はウィンクをしておいた。
ディリエルの口がパカっと開いてすぐに閉じられた。
「聖獣は君たちを愛し、世界は君たちを尊敬する」
お決まりの挨拶なのだろう、大袈裟な文句をヴァラファールが堂々と一段高いところに立って話し始める。
「皆様、本日はお忙しい中、王宮へお越しいただき誠にありがとうございます。他領との交流を深める素晴らしい機会となりますよう、心よりお祈り申し上げます。どうぞごゆっくりお楽しみください」
ワーという歓声とたくさんの拍手に会場が包まれる。
「はー、良かった。無事に始まりましたね」
私はムルムルに話しかける。
「ええ、気を抜いてはいけませんが、第一関門を抜けたとでも言いましょうか。安心しました」
チャクスの反応を見ようと私が左を向くのとほぼ同時に、チャクスは1歩前に出た。
何事かと思い視線を辿り私はおどろいた。
王子・王女の3人がこちらへ向かって来ている。
歩きから早歩き、まるで競歩と、どんどんスピードを上げて迫ってくる。
何がどうなっているのだ。聞いていないぞ。
周りの視線、独り占め。
おかしい、領地の序列順にブルレッキから王の子に挨拶に向かうのではなかったのか。
なんで王の子がこっちに来るの!?




