35話
続々と豪華な馬車が集まってくる。
門を通り、橋を渡り、また門番に止められて。
これを何度か繰り返し目的地の目の前までやってきた。
馬車が止まり、護衛官のチャクスが扉の横に立つ。
新しく増えた男児の護衛2人のうち年上9歳のグイソンが馬車の扉を開けてくれる。
側仕官のムルムルが私をエスコートをして馬車から降りるのを手伝ってくれる。
「しっかりやりなさい」
「はい、お母様」
という気合十分な声や、
「いってらっしゃいませ、お嬢様」
「行って参ります」
といった少し緊張を感じる声があちらこちらから聞こえる。
私も今からその中に混ざるのだ。
そっと、頭につけたお揃いのリボンを撫でる。マルティムのリボンが無くなってしまったので今日付けてくるか何度も悩んだ。
「お気をつけて、いってらっしゃいませ。ハーゲンティ様」
「行って参ります」
私は馬車に残るカシモラルに笑顔を返す。
子供の社交、再開日。
10歳以下の子供たちが再び王宮に集まった。
防犯の見直し等をした上で、今回は同じ建物内にある別の会場を使用すると通達があった。
「招待状を確認いたします」
「こちらでございます」
こういったやり取りは側仕官のお仕事なので、ムルムルが5人分を提示する。
案内役の王宮の側仕官が奥からやってくる。
「ハーゲンティ様と側近の方々はこちらでございます」
他の子供達と別の入り口へ案内される。
招待状にそのような記述はなかったので不審に思い、私たち女子3人は一度顔を見合わせる。
社交再開日で警戒心が高まっているため、ムルムルは私を下がらせようとするし、チャクスは私の一歩前に出る。
側仕官は少し困った顔になって説明をしてくれる。
「国王陛下からの命令です。急遽、公爵家の方々は会が始まる直前まで別室で待機をしていただく事になりました。……我々も二度目の襲撃を警戒しているのです」
最後は小声で付け足された。
ムルムルが「案内していただきましょう」と耳打ちをしたので、私は小さく頷いて王宮の側仕えに返事をする。
「わたくしたちは従います」
「では参りましょう」
少し細い廊下を案内される。メインで使われている通路ではないのだろう、明かりが少ない。案内をしてくれている側仕官はランタンのような物を持っている。
これも魔法道具だろうか?
私は好奇心に負けてチラチラと視線を動かす。
なかなかランタンを見ることができず諦めたくらいで、扉が10ほど並ぶさらに細い廊下に出た。
並ぶ扉の取手のうち、一つに黄色の布が巻き付けてあり、ここまで案内してくれた側仕官が布を外してから扉を開いた。
「このお部屋が待機室でございます」
入る直前に周りの扉を確認する。
一つ空けて隣、紫の布が残っている。
「時間になり次第お迎えにあがります。それまで決してお部屋を出ないでください。扉の護衛もお部屋の中でお願いいたします」
「案内ご苦労様でした。迎えに来ていただけることも承知いたしました。お待ちしております」
私が言い切ったかどうかくらいのタイミングで扉が閉められる。
またまた女子3人顔を見合わせる。
「ヤな感じ」
「ハーゲンティ様」
「失礼いたしました」
ムルムルはだいぶ私を分かってきたな、ふふふ。
笑って誤魔化す。
ソファーなどに仕掛けがないが確認し終えたグイソンが扉の前に立つ。
「ありがとう」
私はお礼を述べてソファーに座る。
チャクスとシトリーは私の背後にまわった。
「他の公爵家とまとめて一部屋にされなかったので、その点は良かったですね」
部屋の中に自分たちしかいないので、私は少し肩の力を抜く。
「ええ、お部屋も綺麗ですね。最初に別室待機を言われた時はいったいどこへ連れて行かれるのかと構えてしまいました」
ムルムルが座った私のスカートを整えながら話す。
「紫の布が取手に残っていたので、ワルタハンガ家がまだいらしていないのでしょうか?」
「きっとそうでしょうね」
私は今日参加する公爵家のメンバーを思い出す。
10歳以下がいる公爵家はブルレッキ、ウハイタリ、ワルタハンガ。
ブルレッキには同い年の女子がいるらしい。楽しみだ。
「うん、楽しみ」
「ハーゲンティ様。楽しみとおっしゃいますが、笑顔が足りていませんよ?」
あはは、と大口を開けそうになって変な声を出しながら無理矢理ホホホと笑う。
「楽しみなのは本当です。ただあの日、事件が起きていなければとっくに顔を合わせていたはずの人たちなのだと考えるとなんだか複雑な気分になってしまいます」
どの領地もお互い警戒しているだろうことは、自分の側近たちを見れば一目瞭然。
今回どれだけ交流ができるのだろうか。
かなりハードルが上がった初めての公の社交にドキドキとヒヤヒヤを抱きながら、時間が来るのを待った。




