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悪役やるならこんな風に  作者: リボン会長


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33話

 

 しっかり覚えられていた。

 当たり前だ、金髪の子供はこの国に3人しかいないらしいのだから。


「申し訳のない事でございます!」


 知らなかったんだもん!知ってたら帽子かぶったりして髪の毛隠したもん!たぶん。

 前世のクセで深々と頭を下げる。


「それに敵対だなんて、そんな恐ろしい事自体が思いつきませんでした」


 私は恐々顔を上げる。

 ディリエルは「そうでしょうね」とつぶやくように言ってお茶を一口飲む。

 気まずい。

 いや、ヴァサーゴの事情聴取のような会を乗り切ったのだ。今日も無事に帰るぞ。


「そんなに怖い顔をしないでください」

「あ、え、失礼いたしました」


 意気込みすぎて(にら)みつけてしまったようだ。ただでさえつり気味の目なのだから、もっと気を付けなければならないというのに。

 慌てて両手で顔をはさむ。勢いが良すぎてパチンと鳴った。少し痛い。


「大丈夫です、心配しないでください。あの日ハーゲンティから蹴りをもらったことは誰にも言っていません」


 ディリエルと視線が合わない。


「本当は、ハーゲンティと会うのが怖かったのです」


 ディリエルは意味もなくカップにスプーンを入れてかき混ぜ始める。

 私は自分が誰彼構わず暴力を振るう人間だと思われたかと慌てて釈明をする。


「あ、あの、ディリエル王子!わたくし、あの日は本当に緊急事態で蹴り飛ばしてしまった事を謝罪いたします」


 慌てすぎて支離滅裂になっている事が自分でも分かる。恥ずかしい。


「でもその、友人を取り返すことに必死だったのです!」


 あ、これって「お前なんか眼中に無いよ」って意味に取られたりしないよね?

 何を言っても悪いようにしか受け取られないような気がしてくる。


「ヴァサーゴからの報告、ハーゲンティの側近に呼ばれて駆けつけた騎士たちの報告の通りのようですね」

「さようにございます」

「だからこそ、貴女という人が分かりません」


 ディリエルのかき混ぜていた手が止まる。視線はカップを覗き込んだままだ。

 私はディリエルの次の言葉に怯えながら同じくカップの中に視線を向ける。


「王位を継げるのは金の髪を持つ者だけ、なぜなら……」

「王宮の祈りの間へ入れるのが、アルラディ様の金をまとう者だけだから」


 ディリエルは小さく頷く。


「私も貴女も、最も守られなければならない存在です。王の子全員が金の髪では生まれません。侯爵家の子よりも自分の身の安全を優先すべきです」


 元々金髪は少数しか生まれない。王位を継ぐことができる者がいなくなれば国の結界、壁の維持だけでなくあらゆる循環が途切れ、あっという間に国が滅びてしまうそうだ。

 壁や結界の維持はほぼ公爵家が担っているが、修繕するには王だけが使える特別な魔法が必要になる。

 そしてなにより循環。水や空気、土、あらゆる生活に関わる土台とも言える部分を担っているのが王なのだと。


「結界や壁の話しか存じておりませんでした」

「各領地を流れている大きな川は、王宮の祈りの間から流れているのですよ」


 それは、王が倒れでもしたら川が干上がってしまうということだろうか?

 サーガで聖獣たちが壁を用意したと習ったが、深く考えたことはなかった。壁を実際に見たことがなかったから余計に自分が今住んでいる土地の話だと理解していなかった。

 壁に切り取られた国土、魔障の霧を防ぐ結界、その中で生命維持を行うには?

 王の魔力でこの国に住む人々の生活を支えているのは十分伝わった。前世の科学知識を一気に思い返し、なんだか息が苦しくなった。

 しかし、


「友人を助けるためとはいえ、わたくしは少々軽率でしたね」


 やっぱり王になんてなりたく無いね、という思いが強まっただけである。

 私はそこそこ反省しているという態度で反抗する。

 どんなに言われても、次があればまた飛び出すからだ。

 命の優先順位を分かりたくはないが分かっている。

 それでもやはりマルティムに守る価値がないと言われるのは悲しいし、守りたいと思い行動した私の心も傷ついた。

 それに、だ。


「では、ディリエル王子はあの日なぜ、お一人で廊下に出ていらっしゃったのですか?」


 言われっぱなしは(しゃく)なので、ちょっとばかし意地悪な質問をしてみる。

 金髪は守られる側であって守る側じゃ無いと言われたけれど、そっちはどうなんだいと。

 私は公爵の子で、ディリエルは王の子だ。いくら金髪といえどそれこそ優先順位が違う。

 ひねくれて受け取っているかもしれないが、私がディリエルの「予備」扱いされているのが少し気に入らない。


「わ、私ですか?」


 ディリエルの声がわずかに裏返る。

 まさか自分が詰められるとは微塵も考えていなかったのだろうか。

 考えなかったのでしょうね。

 身分差があり、真っ向から意見を言う人もいないでのしょう。

 まーそんなこと言っても私は王家の血が濃い目の公爵家なんでね。わりと近い親戚でしょうが。

 言わせてもらいます。


「ええ、金の髪の重要性を説いたディリエル王子のお考えをぜひお聞かせ願いたく存じます。わたくしは友人を取り返す目的があり、護衛も最初は一緒にいたのですよ?人手不足の結果、側近たちと離れてしまいましたが」


 友人を優先する私の考えがわからなくて怖いなんていうけれど、金髪の価値をイマイチ把握しきれていなかった私と理解しているのに一人で行動したディリエルでは、質が悪いのはディリエルだろう。

 私は片眉を上げて先を促す。


「身に、染みています」


 ディリエルはポツリと言った。

 

「ハーゲンティに偉そうに語ってしまいましたが、こんな事が起こるまで、私は周りから言われ続けてきた金の髪の重要性を理解していませんでした」


 ディリエルはそっと自分の髪に触れる。


「わたくしと同じですね。いい経験になりました。わたくしはもう同じ失敗はいたしません」


 かっこ悪いからね。

 ディリエルは少し視線が泳いだ後、私の顔を見て口を開く。


「なぜ私たちはこんなにも、自由がないのでしょうね」


 なんだか悲しそうな表情になっているが、自由に関しての答えは単純だ。


「それは子供だからではないでしょうか」


 ディリエルは目をパチクリさせている。

 私はだいぶ疲れてきたのでついつい頬杖をついてしまう。


「親の金で食べて、親の金で服を着て、親の金で勉強させてもらって、衣食住のすべてを頼っているのです。好き勝手に生きたいのなら自分で稼げるようになってさっさと家を出るしかないでしょう」


 言い切って手をパタパタさせる。

 怒って怒られて、しまいには悩みを聞かされて、お嬢様を取り繕う気がなくなった。


「私は金の髪です」

「もう一人金髪の王子がいらっしゃるとうかがってますよ」


 頬杖をついたままカップを手に取りお茶を飲む。


「ディリエル王子、本当は何が言いたいのですか?何が聞きたいのですか?」


 わざわざお説教をしたいがために私を呼び出したとは思えない。

 強めに質問をしたら、ディリエルはポロポロと涙をこぼし始めてしまった。


 あ、私の人生終わったわ。







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