32話
『金の髪を持つ者同士でしかできないお話をしましょう』
こんな事を言われて、この場に残ると強く言える人が一体どれだけいるだろう。知ってはいけない秘密を知り、聖獣たちの怒りを買うことは明白。この世界に天罰があることを貴族なら誰でも知っている。
カシモラルが私の肩にそっと手を置く。
はっとして「側近と相談させてくれ」と言おうとしたが間に合わなかった。先にディリエルが口を開く。
「ハーゲンティは祈りの間で聖獣様の声を聞いたのでしょう?他の者には話せないでしょうが、私となら少しお話しできるのではございませんか?」
絶対、他の話も出るだろ。
しかしお話しする内容まで提示され、これ以上ゴネるのは難しかった。
カシモラルも無理だと判断した。
「はい、金の髪を持たない者にこのお話はできません。側近たちを下げさせます」
私はカシモラルの手にそっと自分の手を重ねる。
「カシモラル、全員連れて部屋の外で待機をお願いいたします」
「かしこまりました」
カシモラルが私から離れるのを見て、ディリエルも側近たちに退出の指示を出す。
私とディリエルを残し、他に誰も残っていない事を確認したディリエルの護衛が最後にドアを閉めた。
広い広いサロンに、10歳と6歳の子供が2人だけになる。
何を質問されるのだろうと私は戦々恐々とする。
少しの沈黙がながれ、ディリエルが口火を切った。
「まずは、祈りの間のお話から」
「はい」
私は固い返事しかできなかった。
「公爵家の祈りの間は金の髪以外も入れるのでしょう?どうやって入るのですか?」
予想していた質問ではなかったため少しだけ肩の力が抜けた。
祈りの間に関する話は側近にも詳しく話したことはない。祓詞も祈りの間の中で教えてもらった。
先に王家のやり方を教えてもらえれば、同程度の情報量は出しても大丈夫ではないだろうか。質問に質問で返すのはあまりよろしくないが、私のコンプライアンス研修が終わっていないので下手なことは言えない。
「王宮の祈りの間は、金の髪以外入れないそうですね。ですが、国王陛下おひとりの魔力で結界の維持は難しいでしょう。王宮の方々はどのようにお祈りをするのですか?」
「王宮は祈りの間の手前に物見の間があり、妃と帰敬式を終えた王の子だけに許可が出て、物見の間に入れるようになります」
ディリエルの話を聞いて「許可」の箇所にもしかしてと思い問いかける。
「魔法のカギを受け取りましたか?」
ディリエルが一瞬、なんで知っているの?という顔をしたが、すぐ笑顔に戻って「はい」と答えてくれる。
「似ていますね。公爵家に物見の間はありませんが、祈りの間に入れるのは公爵とカギを受け取った第一夫人、帰敬式を終えた子です」
たぶん。
堂々と言い切ったが、だいたい合っていると思う。祈りの間に入るのが被らないようにするためかザブナッケが入った日の話は何度か聞いたが、第二夫人が祈りの間に入ったとは一度も聞いていない。
体の中がモゾりとした。
今の会話を聞いていたファルファレルロが私の中で笑い転げているのだろう。いつもそうだ。私の感情がファルファレルロに流れるだけでエスパーみたいに心の声で会話はできないので無視する。
「祓詞を覚えるのは大変だったでしょう」
ディリエルが私は大変でした、と口元に手を持っていく。
「大変でした。とても長く、さらに古い言葉で耳馴染みが無いですからね」
私は大袈裟に首を振ってみせる。
ふふふ、と笑い合いお互いお茶を一口ずつ飲む。
話題が変わる。
「それで、ハーゲンティは祈りの間で、聖獣様からどのようなお言葉を受け取ったのですか?」
そういえば、お母様との内合わせをすっかり忘れていたな。
ナベリウスと同じ問いをかけてくるディリエルからそっと視線を外す。
あの時さっさとバティンと話しておくべきだった。また今度を繰り返しているうちに忘れてしまった。
元々物覚えがいい方では無い。それはハーゲンティになっても変わらないようだ。スマホのリマインダー機能を多用していた私は急にITテクノロジーが恋しくなった。
「スマホがほしい」
「スマ、今なんと?」
あらやだ私の口ってゆるいのね。
「いえ、なんでもありません。聖獣様のお言葉ですが、殿下に開示はできかねます」
「私も金の髪を持っているのにですか?」
金髪かどうかの問題じゃない、それよりも王の耳に入れてはいけないのだ。国家転覆や王位簒奪を疑われること間違いなし。
ここまで考えてようやく思い至る。
私自身が金髪のため王位継承の順位が高いこと。
ディリエルと第六王子が王位を争っていること。
なら、ディリエルが知りたいのは……。
「ご安心ください。聖獣様はわたくしに次の王になれとはおっしゃいませんでした」
しっかり目を見てハッキリ言い切る。
「それにわたくし、側近や友人たちの前で公爵を目指すと宣言しました」
これだ、ディリエルやその側近たちが知りたかったことは。
正解だったようで、ディリエルがふうと息を吐き、笑顔が取れた。
笑顔が取れたといっても、無表情だったり怒った顔になったわけではない。きっと、今さっきまでの笑顔は無理をしていたのだろう。肩の力が抜けた自然な表情になったように見える。
「そうでしたか。でしたら、ハーゲンティが今すぐ私の敵に回ることはなさそうですね」
ああそんなまた、どう返事をしたらいいか困ってしまうことを言わないでくれ。
私の唇のはしが震える。
口の中が干からびたように感じてカップを手に取りお茶をゴクゴクと飲んでから返事をする。
「それはもちろんでございます」
社交前に「王の子らとあまり関わるな」と言われていたので、この回答で問題ないと信じたい。関わらないのだから、味方にも敵にもならないはずだ。
ディリエルは右手をそっと自分の左ほほに添える。
「なら私の顔を蹴った理由は、敵対ではなさそうですね」
ガチャン
大丈夫、カップは割れていない。
でも私の心は完全に割れた。
第五王子襲撃犯ハーゲンティ、開き直るしかないのか?




