31話
天気に恵まれ、日中は照明が必要ないほど室内がとても明るい。大きな窓からはキラキラと太陽が差し込み、その窓から見える庭園はすっかり秋の色に染まっていた。
室内は白と金の装飾で統一され、壁紙の模様も金色に輝いている。
とても広い部屋でバスケットボールの試合ができそうなくらいの余裕があるが、真ん中に丸テーブルが一つと椅子が2脚のみ設置されている。
そんな中、私は金の装飾が見事なティーカップを手に取り、一口お茶を含む。
「とても美味しいです」
「それは良かった。こちらもどうぞ、私のお気に入りです」
目の前には食べきれないほどのお菓子が並び、その中からオススメされたマカロンに似たお菓子をカシモラルに小皿へ取り分けてもらう。
「ありがとうございます、ディリエル王子殿下」
私は今、第五王子殿下の母君で現王陛下の側妃であるデカラビア御息所の離宮にあるサロンで、震えながら第五王子殿下とお茶を飲んでいる。
「そんなにかしこまらなくて大丈夫ですよ」
ディリエルがふわりと笑顔を向けてくれる。でもその笑顔が本心からなのか作り笑いなのか、私はまだ判断がつかない。
「殿下の寛大なお心に感謝いたします」
うん、うん。本当に。
実は私が王子の襲撃犯だった、なんてことは誰にも言っていない。
やつらの仲間でもなんでも無いし、たまたま偶然が重なって蹴り飛ばしてしまっただけなのだ。
いやいや、そもそもよ?王子様が1人でフラフラしてる方がおかしいじゃないか。なんて、公爵家の子である自分が1人で行動していた事は棚に上げてみる。
御息所の離宮に着いてすぐ、しれっと初対面の挨拶をしてみたけれど王子の側近も本人もいたって普通に対応してくれた。
「ハーゲンティ、今日は招待に応じてくださりありがとうございます。本当は公式の場で挨拶をしたかったのですが、ね?」
あんな事があったでしょう、とディリエルは力無く笑う。
私は冷や汗が背中を伝うのを感じながら、引きつらないように笑顔を作る。
「わたくしもあの日、ご挨拶ができるとばかり思っておりましたので、このような事態になってとても驚いております。今日という機会をもうけていただきありがとうございます」
帰 り た い。
合ってる?受け答えできてる?もうやだぁと心の中でグズる。
せっかくすすめてもらったのでマカロンのような物を口に入れる。緊張しているせいか味をあまり感じない。
しばらく味のしないお菓子を食べながら「すっかり秋ですね」「冷えますね」なんて、当たり障りのない会話を続ける。
ディリエルは終始、穏やかに笑っている。
このまま何事もなく終わりの時間になってほしい、そう願いながらカップに残ったお茶を一口で飲み切った。
「茶葉を変えましょう。少し渋みがあるのですが、お菓子を食べた後に飲むのが好きなのです」
「甘いものと相性が良いお茶ですか。それは楽しみです」
これを飲んだらお開きかなと考えながら私は自分のカップに新しいお茶が注がれる様子をじっと見ていた。その間にどんどん机の上からお菓子が下げられた。
カップがお茶で満たされ、ディリエルが最初の一口を飲む。
「ハーゲンティ、側近を全員下がらせてください」
次は自分がお茶を飲む番だと伸ばしていた手が、カップにたどり着く前に止まる。
ゆっくりディリエルと視線を合わせる。かわらず微笑んでいる。
側近を下がらせるなんて、側近と離れるなと叱られたばかりだというのに。どうやって断ろうか。私の視線は泳ぐ。
すぐ後ろに控えているカシモラルがもどかしそうにしている。
「そんなに警戒しないでください。私の側近たちにも同じように指示します」
それは、もっとダメなのでは?
私は首をかしげる。
「わたくしの側近たちが心配するでしょう。護衛だけでも残せませんか?」
ディリエルは目を伏せて首を横に振る。
「金の髪を持つ者同士でしかできないお話をしましょう、ハーゲンティ」
ゴクリ
私ののどが鳴った。




