27話
木っ端微塵
読み方:こっぱみじん
別表記:木端微塵、こっぱ微塵、木っ端みじん
非常に細かく、こなごなになって砕け散るさま。粉みじんになるさま。
※weblio辞書から引用
こっぱみじん
こっぱみじん
こっぱみじん
私はヴァサーゴから発せられた音を頭の中で反芻する。
なかなか理解できない。いや、したくない。
「な、なん、で」
やっと絞り出した言葉は「何で」だった。
「男たちが破裂したのです」
ヴァサーゴが資料と思われる木札を取り出し私たちの目の前に並べる。そこには場所と時間が4つずつ並んでいる。場所を見て、私は男たちが騎士に捕まった地点だと読み解く。しかしここに書かれた時間は4つともほぼ同時刻で違和感を覚える。
「使用されたと思われる魔法道具の解析をしたいのですが、それもろとも吹き飛んでいます」
ヴァサーゴは木札をトンと指先で叩く。
「別々の場所にいた4人が同時にです。男たちは拘束され、自ら魔法道具を起動できる状況にありませんでした。どうやって遠隔で起動したのか、それともあらかじめ起動する時間が決められていたのか。どちらも、見たことも聞いたこともございません」
忌々しい、といった様子のヴァサーゴ。
「なので、残念ですがリボンは諦めてください」
私はそれに対する答えとは少しズレたものを口からこぼす。
「……時限爆弾」
その場にいる全員がピリつく。
「時限、ふむ。ではこの魔法道具を仮に時限爆弾と呼ぶことにしましょう」
ヴァサーゴはさっそく木札にメモを取る。
「威力は……」
私はダイナマイトなどを想像して、一気に顔色が青くなる。
「威力はどのくらいでしょうか?わたくし、マルティムの救助があと少し遅れていたらと考えると」
爆発に巻き込まれて私もマルティムも側近たちも、一緒に死んでいたのではないか?
怖い想像をしてしまい落ち着く事ができず視線が泳ぐ。飛んでくる魔法の火の玉を、目の前で受けた時と同じくらい震えてきた。
ヴァサーゴは私の顔を少し覗き込んでから答える。
「こちらの被害報告はございません。時限爆弾が起動した時、男たちに直接触れる事なく距離も2〜3歩空けていたそうです。かすり傷の報告すら上がっていないので威力はさほど大きくは無いでしょう」
それを聞いて私の泳ぐ目は止まった。
「皆さん無事なんですね」
「最初から証拠隠滅のために時限爆弾を持たされていたのでしょうね」
私の声にかぶさってヴァサーゴが話し続ける。
この短時間にどんどんと嫌な気持ちになる情報が告げられる。
もう聞きたくない。もうこの部屋に居たくない。
私は顔をクシャリと歪める。
しばしの間、沈黙が流れた。
コンコン
ノック音が響く。
「失礼いたします。ウハイタリ家の馬車がご到着なさいました」
王宮の側仕官が、この重苦しい時間の終わりを告げる。
「時間切れ、か」
私はヴァサーゴのつぶやきをしっかり拾う。
腹は立つがこれ以上ここにいたく無いので、お開きの合図として受け取る。
「ハーゲンティ様」
席を離れる私をヴァサーゴが呼び止める。態度が悪いと思われても良いので構わず扉へ向かう。
「最後に一つ、噂の真偽を教えていただきたい」
私はまた「どれだけ勉強をサボったの?」なんて聞かれるのかと身構える。
「祈りの間で、聖獣様の声を聞いたというのは本当ですか?」
なーんだ、そっちか。
「はい、本当です」
一切振り返らず、視線を合わせず、立ち止まることなく答える。
「内容は……」
「それは質問二つ目ですよ」
私は廊下に繋がる扉を潜った。
マルティムたちは先に帰っていた。
顔だけでも見たかったが仕方がないので私たちも迎えの馬車にさっさと乗り込んで別邸に帰宅した。
「ヴァサーゴ様は、去り際にずっとハーゲンティ様の足元を見ておりました」
私の部屋の扉が閉まると早々にムルムルが言い出した。
「ヴァサーゴ様とはどなたでしょう?」
あの場にいなかったカシモラルが当然の疑問を口にする。
「第五王子の書陵官ですって」
私は手をパタパタと振りながら答える。
「男性が女性の、それも足を見るなんて!」
カシモラルが怒りだす。
見られていた本人である私は、身だしなみチェック?それとも足フェチかな?くらいの感情しか湧いていない。人をジロジロと見ているのでキモいことに変わりはないが、スカートの中を覗かれたりめくられた訳ではないのでどうでもいい。
それよりもだ。
「あーあ、マルティムとボルフライになんと言えばいいでしょうか」
私はまだお揃いのリボンのことを考えていた。
頭を抱えて机に突っ伏す。
「それこそ、あの2人はとても聡明です。経緯をきちんとお話しすれば問題ないでしょう」
「そんな気はします。分かっています。でも説明しなければならないのが嫌なんです」
「そんなことですか」
カシモラルが天を仰ぐ。
私にとってはそんな事じゃないんだよ。重大な使命だよ。
「それにしても、なぜあのようにしつこくハーゲンティ様を疑ってきたのでしょうか?」
ムルムルが私の頭からリボンを外しながら言う。
警護で扉の前に立っているため口を閉じたまま、チャクスは首を縦にブンブン振っている。
そりゃぁ私も知りたいよ。
「チャクスが引き渡した犯人も王子様を襲った犯人と同時に爆発したようですし、わたくしを一度疑うのは、分からなくもないですよ?」
気分のいいものではないので頬杖をつきながら考えていることを言葉にする。
「ただ状況や、マルティムの様子を見てもらえればすぐに疑いは晴れそうなものですけれどね。こちらはムルムルに頼んでわざわざ王宮の官吏を現場へ案内したんです」
私はフンと鼻を鳴らし、ヴァサーゴとのやりとりを思い返す。
あれ?見せてもらったメモには犯人4人分の情報しかなかったような?
と首を捻ったがわざわざ王子様側の情報を犯人の仲間と疑われた私に教えるわけがないかと自己解決。
「理由は、その場にいたのがハーゲンティ様だったからでしょう」
カシモラルが言い辛そうに口を開いた。
私を含め子供3人は全く理解しておらず、お互いの顔を見合う。
「サーガの一節を覚えておいででしょうか?初代王ワイナモイネン様が光の聖獣アルラディ様より許可をいただく場面です」
私は口元に手をやりゆっくり思い出す。
「確か『特別に吾の色を纏うことを許可します。吾を含む、7柱の聖獣に祈りを捧げなさい』でしたか?」
「さようです。そして王の髪はアルラディ様の色である金に変わりました」
金。そう言われて私はなんとなく自分の髪をひと束掴む。
「金の髪を持つ者だけが王宮の祈りの間へ入ることができます。すなわち、王位を継げるのは金の髪を持つ者のみ」
私の口元が引きつる。
「未成年のうち金の髪を持つのは、第五王子、第六王子、そしてハーゲンティ様です」
自分に王位継承権があるだろうことは分かっていたさ。何せ公爵家だ。それに祖母と曽祖母が王女様だとバティンから聞いている。それでも自分の継承順位は下から数えた方が早いとばかり思っていた。
「わたくし、もしかして継承順位、高いのですか?」
社交出発前に教えられた第五王子と第六王子の継承権争いが頭をよぎる。
「わたくし、もしかして継承争いに参戦したと疑われていたのでしょうか?」
カシモラルが視線を落としながら答える。
「その可能性が高いでしょう」
私は白目をむく。
「ハーゲンティ様!?」
「お気を確かに」
側仕え2人が駆け寄って支えてくれる。
この国の主役になるために舞姫になる!公爵になる!
確かに私が決めた。
私が望んだ。
でも王様は望んでない。嫌だ。ありゃ主役じゃない。裏方だ。パンフレットにデカデカと名前が載るタイプの裏方だよ。
ショックと昼間の疲れのダブルパンチで、私の意識が飛んでいった。




