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悪役やるならこんな風に  作者: リボン会長


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金の髪を持つ少年

 

「喉が渇きました」


 金髪に翡翠の瞳をした少年がポツリとこぼす。


「お茶をご用意いたします」


 側仕えの男性がすぐに動く。

 今日は王宮の社交で、10歳以下の子供だけが集まる日だ。開会ギリギリの時間に入場するため少し離れた場所の控室で待機中である。

 今年10歳を迎える金髪の少年は、もう子供の社交に飽きを感じていた。6歳で初めて参加した時のようなワクワクはとっくに薄れ、今では寄ってくる同年代たちからどう逃げるかに頭を悩ませている。


「今回初参加の名前をおさらいしておこうかな」


 少年は自分の書陵官から一覧にまとめてもらった資料へ目を通す。

 社交準備のため、側近は全て出払っている。普段は睡眠の時間さえ不寝番がつき、部屋に1人きりになることなんてない。

 1人でいることにソワソワしてしまい、独り言が妙に大きくなる。


「そうだった、今年は公爵家の子が2人増えるんだった」


 どちらも敵対派閥では無いことを確認し、少し肩の力を抜く。

 異母弟の派閥の男子たちからは「遊び」と称して連れ出され怪我を負うことが多くなった。

 かと言って同派閥の女子たちは、8歳ごろから猫撫で声で近づいてくる者が増えて正直気味が悪い。


「上手くやっていけるといいな」


 一覧に書かれた名前をなぞりながら、ふう、と息を吐く。

 少年の側仕えはまだ戻らない。

 部屋の中をぐるりと見渡す。

 本当に、ほんの少しだけ、魔が差してしまった。


 逃げるわけじゃない、大丈夫。


 ただ息抜きをするだけだと自分に言い聞かせ、少年は廊下につながる扉を開いた。


「誰も、いませんね?」


 1人で外出どころか廊下すら歩いたことがなかった少年は、おっかなびっくり最初の一歩を踏み出した。

 一歩出てしまえば、さきほどまで感じていた不安はどこへやら。不思議とどこまでも行けるような解放感に包まれた。


「は、はは……あはは」


 廊下を進むにつれて楽しくなってくる。

 常日頃、危険だから必ず側近を連れ歩くように言われていたが、なんてことはない。

 視界を誰にも邪魔されず、気になるカ所で自由に立ち止まれる。一度ゆっくり見てみたかった廊下の彫刻。飾られた花と花瓶。壁に掛けられた絵画。壊してしまうのが怖いのでさすがに触れることはしないが、細かなところまでじっくり見ることができて少年は早くも満足している。


「……うん、戻ろう」


 少年はまるで一生分の遊びを経験したかのような表情をしながら自分が歩いてきた道に視線を向ける。

 今頃側仕えが目を剥いているかもしれない。自分の軽率な行為で周囲に迷惑をかけることは最初からわかっていた。


「今日の夕食は罰として抜きになるかもしれないな」


 この、気の抜けた独り言もここまで。

 少年が控室に戻ろうと重心を傾け出したその時。


「ーーー!」

「ーー!ーーー!」


 少年が進むのをやめた廊下の先から言い争うような声が聞こえてくる。


ザバッ


 水の音まで聞こえてくる。

 一体何が起きているのだろうか。この付近に水道は無い。なら今の水の音は誰かが魔法を使ったということになる。


「王宮内で魔法、それも水を出すなんてお行儀が悪すぎます。注意しなくてはなりませんね」


 少年は自分が幼少期から乳母や教師に教えられたように、言い争いをしている人たちにも作法を教えなくてはならないと思った。

 長い廊下を進む。その間に静かになった。

 もう誰もいなくなっているかもしれないが、水がどうなったのか確認しておきたい少年は迷うことなく足を動かし続ける。

 曲がり角をためらうことなく曲がる。


 あ、ありえない。


 そこには金の髪を持つ少女がいた。


「えっ?君は一体」


 ここに、この城の廊下に、金髪の子供がいるのは少年と異母弟の2人しかありえない。

 驚き過ぎて「行儀が悪いですよ」「何をしていたのですか」といった言葉が一切出てこなかった。

 それどころか、不意を突かれてしまい少女に距離を詰められてしまった。

 少女の両の紫玉(しぎょく)に自分の顔が映っているのが良く見える。


ドカッ


 思い切り顔を蹴られた。


ボテっ


 少年は尻餅をつき、蹴られた左頬を手で押さえながら恐るおそる少女へ視線を向ける。

 少女は少年を睨みながら後ずさっている。その背後に同じくらいの年頃の少女と、大人の男が倒れているのが視界に入った。


「ふんっ」


 金髪の少女は気合を入れて赤髪の少女をおぶさり、男を残して走り去った。


「これが、嵐の如くってやつでしょうか?」


ドッドッドッ


 初めてのことだらけで頭の整理が追いつかない。感情は昂っているようで心臓がうるさい。


「殿下!」

「ディリエル王子!」


 側近たちが少年を探す声がする。

 護衛騎士の1人が自分の主人を見つけて駆け寄る。


「殿下、そのお顔の傷は!?」


 ディリエルはとっさに意識を失っている男を指さした。


「刺客か!?」


 騎士はディリエルを抱きかかえ男からすぐに距離を取る。

 他の騎士たちも合流し、男を取り囲む。

 側仕官、書陵官たちも合流する。側近総出で探していたのだろう、式部官や管理官もいる。


「ディリエル王子、ご無事で何よりです」

「心配をかけました。顔以外に怪我はありません」


 お茶を頼んでいた側仕えが真っ青な顔で手を伸ばし、ディリエルはその手を握る。

 驚きの連続で、色々とフワフワしている部分があったが、側仕えの手を握ったことでディリエルは現実感を取り戻していく。


「誘拐事件だ」

「ああ、男の仲間が近くにいるかもしれない」


 騎士を中心に側近たちが捜査を開始する。

 ディリエルはそれを横目で追いながらさきほどの嵐を思い出す。


 違う、私じゃない。きっと誘拐されたのは赤髪の女の子だ。


 金髪の少女には細かな返り血が飛んでいた。

 倒れている男は手足が変な方向に曲がっている。

 赤髪の少女が誘拐され、金髪の少女が追いかけて誘拐犯の男を制した。そこに自分が現れたから男の仲間と勘違いをされて蹴られた。

 確証なんてないが、ほぼほぼ正解だろう。でなければあんな形相で睨んでくるはずがない。


 女の子に睨まれるなんて、初めてだ。


 ディリエルはまだピリピリと感じる左頬をそっとなでる。


「殿下、一度控室に戻りましょう」

「はい」


 帰敬式前の子供をあやすように、側仕えがディリエルの手を握って歩く。


「大丈夫でございます。何も心配はいりません」


 側仕えの優しく穏やかな言葉に、ディリエルは黙ってうなずいた。

 ついさっき1人で歩いた廊下。飾られた花瓶。壁に掛けられた絵画。

 どれもこれも色あせて見える。

 落ち着きを取り戻したと思っていたが、また少しずつ心臓が痛み出した。

 つい、側仕えと繋いでいる手に力を入れてしまった。


「どこか痛みますか?」

「いいえ、大丈夫です」


 こんな時に金の髪に紫の瞳の少女を思い出す。

 ディリエルはビックリとは違う、胸の高鳴りを感じていた。








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