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悪役やるならこんな風に  作者: リボン会長


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26話

 

「お説教からですよ、ハーゲンティ様」

「はひぃ」


 涙目になりながらプリプリ怒っているのはチャクスだ。私の護衛騎士は2人とも感情が豊かでよろしい。


「チャクス、それは屋敷に戻ってからにしましょう。ここは人目が多過ぎます」


 ムルムルに止められたチャクスは、口をもにょもにょさせてから一つ息を吐いて頷いた。

 私たち3人は今、王宮内にある小さめの応接室でバティンが迎えにくるのを待っている。もちろん王宮の官吏である側仕官と騎士の監視付きで、だ。


「2人には心配をかけましたね、申しわけ……」


 私が謝罪の言葉を口にしかけたところでムルムルが手を上げて制止した。ちらとムルムルの顔へ視線を向けると首を横に振って念押しされた。今はごめんなさいをしてはいけないようだ。

 今度は私が口をもにょもにょさせてから頷いた。


コンコン


 ノック音が響いた。


「失礼いたします。私はディリエル第五王子殿下の書陵官。ヴァサーゴと申します」


 ヴァサーゴと名乗った二十歳前後に見える男性を先頭に数人が部屋に入ってきた。元からこの部屋にいた官吏たちは全員部屋から出され、第五王子の側近たちと私たちだけになる。


「魔法道具が設置されていないか、部屋の中を調べる時間をいただけますか?」

「どうぞ」


 ヴァサーゴと騎士2人がカーテンをめくったり、クッションをひっくり返している。王子の側近まで出てきて、こんなに厳重になるなんて一体何が起こったのだろう。マルティムの誘拐だけじゃないのだろうか。

 そういえば第五王子と第六王子の間で継承争いをしていると言っていた。それに関係しているのだろうか。

 不安が込み上げてくる。


「お待たせいたしました。この部屋には何も仕掛けられていません」


 私たちは3人揃って息をのむ。

 マルティムの件だけでもかなり大事(おおごと)だというのに、それ以上に大きな問題が起きていることを察する。


「まずは、侯爵家のマルティム様のご容態からお知らせいたします」


 その言葉に私は思わず身を乗り出す。


「無事でございます。意識もお戻りになりました。兄君のオリアクス様と帰宅の準備を進めていらっしゃいます」


 視界がにじむ。私はやり切ったのだ。家に戻ったあと、どんなに怒られたって平気だ。


「それは、とても良い知らせです。ありがとうございます」

 

 私はお礼を言い、自分の側近に笑顔を向ける。2人も笑顔を返してくれる。


「このような事件が起き、1週間王宮の閉鎖が決まりました。本日の社交を含め中止でございます」


 私はうんうんと聞いているとムルムルが手を上げた。


「発言の許可をいただけますか?」

「許可します」

「ありがとうございます。わたくしはハーゲンティ様の側仕え、ムルムルと申します」


 側近って、許可なしに話しちゃいけないの!?

 思い返せばお茶会でも耳打ちでアドバイスくらいだったかもしれない。お話はしていなかった。観察力ってどうやったら身につくのだろう。

 なんて、少し落ち込んでいる間にヴァサーゴとムルムルの話が進む。


「マルティム様は上級貴族とはいえ侯爵家です。学校へ通う年齢でもありません。ウハイタリの序列を考えても対応が少々大袈裟に感じます」


 ムルムルの言葉に胸が痛む。命に価値があるかのようで、いや、きっとあるのだ。一生理解できないし、したくもないけれど。身分の上下、序列。清華の彼への対応を私が間違えたのは記憶に新しい。

 だというのに、また私は間違えたようだ。


 その線引きの仕方は、私には難しいな。


「この話は内密に。と言いたいところですが、すでにどこからか噂が回り始めております」


 ヴァサーゴが眉間にシワを寄せながら教えてくれる。


「マルティム様の誘拐事件とほぼ同時刻に、ディリエル殿下への襲撃が起きました」

「それはっ!」


 私たち3人は驚きを隠せなかった。ムルムルは口元を抑えて震え、チャクスはキツく拳を握り、私は両手を組んで言葉の続きを待つ。


「ディリエル殿下襲撃のために、陽動としてマルティム様の誘拐があったのではないかと我々は推測しております」


 私は少し引っかかる。陽動ならもっと派手に動くのではないだろうか。社交パーティーも始まっていなかった。無関係とは私も思わないけれど、ちょっと無理がある気がする。


「ハーゲンティ様、包み隠さずお話しください」


 ん?と私が疑問に思うより先にムルムルが口を挟む。


「まさか、ハーゲンティ様をお疑いですか?」


 そんな、それこそまさかと思いムルムルを下がらせようとした。しかしヴァサーゴはそれに対して笑顔で答える。


「はい、そのまさかです」


ブチッ


 沸点の低い私はムルムルを止めるのをやめてヴァサーゴに向き直る。友人をわざと危ない目に合わせるような人間だと思われたのだ。


「聞こえなかったのでもう一度おっしゃってくださいませ」


 私は大声にならないよう抑えながら聞き返す。まぶたや口元がストレスで痙攣する。

 ヴァサーゴは私が怒っていることに気がついたようで、一瞬怯んだ顔をしたがすぐ笑顔に直った。


「私どもも公爵家の方へ疑いの目を向けなくてはならないこの状況を心苦しく思っております」


 腹が立つ。私がどんな思いでマルティムを助けに行ったと?どれだけ必死になって取り戻したと?

 どれだけ言葉を重ねても、きっと彼らには理解できない。

 なぜなら、彼らは第五王子の側近(味方)だからだ。


「お話ししていただけますね?」


 チャクスとムルムルが私の味方をし、こうして一緒に立ち向かってくれているように、ヴァサーゴは自分の主人のためにここにいる。

 分かっていてもやっぱり腹は立つ。


「構いませんが、はなから疑ってかかるのはやめてください」

「大変失礼いたしました。事実確認がしたいだけでございます。何が起きたのか、教えてください」


 私は、開会の時間が近づいたからお手水を済ませようとしたところから、チャクスと離れて男たちを1人で追いかけ始めた辺りまでを話す。


「公爵家の御息女がお一人で?騎士の訓練を始めているとはいえ、そのお年で挑むのは無謀ではございませんか」


 ヴァサーゴがここまで言って言葉を切る。私たち3人をゆっくり見渡す。


「ハーゲンティ様、この2人以外の側近はどちらで待機させていらっしゃいますか?」

「会場にはおりません」


 私は間髪いれずに答える。


「……ハーゲンティ様、危機感を持ってください」


 ヴァサーゴが急に子供を叱る大人の態度に変わる。分かってらぁい。私だって早急に側近増やす必要あるって思ってらぁい。


「その側近を増やすための社交でしょう?今日の催しを、そういう意味でも楽しみにしていたのですよ?わたくし」


 被害者は私ですという態度をとる。


「それは残念でしたね」


 眉尻を下げながらヴァサーゴが言う。


「それで、なぜ袋の中を見ていない状態でマルティム様だと分かったのでしょうか?」


 私は膝の上に置いた手に力が入る。まだ私を疑うのか。


「本当に偶然でした。お揃いのリボンが、あ」


 自分の頭に手を伸ばしたところで、マルティムのリボンは男の1人がポケットにしまったことを思い出す。どうにか取り戻せないだろうか。


「わたくしとマルティムの共通の友人が、お揃いになるよう作って贈ってくれたリボンです。男たちが担ぐ袋からこのリボンが落ちるのが見えました。リボンはマルティムの瞳の色をしています」


 ヴァサーゴの目をじっと見る。


「綺麗な、緑色のリボンです」


 ヴァサーゴは微動だにしない。


「男の1人がそのリボンをポケットに入れました。大切なものなのです。返していただけないでしょうか?」


 証拠品は返せないと言われてしまうかもしれないけれど、交渉くらいはしておきたい。

 隠さなければならないのは悪魔の書であるファルファレルロの存在だけ。他は嘘をつく必要も隠す必要もない。たぶん。

 なぜ今カシモラルが側にいないのだろう。子供3人では手に余る。ムルムルがいくらしっかりしているとはいえまだ7歳。チャクスは騎士。私の中身が23歳と言ってもダンサーなので社会経験なんて無いに等しい。

 バイェモンでもいい。書陵官を目指していると言っていたし、初対面の私(上位者)にも臆することなく話していた。ヴァサーゴとのやり取りを任せたい。


「……」

「返していただけないのなら理由をお聞かせください」


 ダメならダメで、マルティムとボルフライに説明したい。どう考えてもリボンを作ってくれたボルフライが一番悲しむ。

 疑いを晴らす方法なんて思い浮かばないし、監視カメラも無い。すでに私は悪い噂まみれなわけで、ここでもう一つレッテルが増えても構わないからリボンを返してほしいと気持ちが傾きだす。


「ハーゲンティ様」

「はい」


 さあ教えてください。前のめりだった姿勢を正す。


「リボンをお返しすることはできかねます」


 私は落胆する。

 肩の力を抜いて、長くゆっくり息をする。


「リボンは、いえ、男たちは木っ端微塵に弾け飛んでしまいました」

「へ?」


 私の間抜けな声がこだまする。








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