フラワーパークゲート1
「同化現象前に来るのは初めてだな」
マサキは四国を訪れていた。
回帰前にも四国を訪れたことはあるのだけど、それはフラワーパークゲートと同化してしまった後のことだった。
同化前の四国に訪れたのはこれが初めてのことである。
「んしょ……」
大きなスーツケースを抱えたイリーシャと降り立ったのは高知空港。
同化現象の時には機能不全に陥っていたが、今はまだ普通に稼働している。
「マサキさーん!」
空港を出るとカズキが手を振って待っていた。
「わざわざありがとうございます」
「いえ、俺のためでもありますからね」
マサキとイリーシャは車に荷物を乗せて、乗り込む。
カズキは助手席に座って、運転手が車を走らせる。
「ゲート近くの町のホテルを貸し切っているので、そちらに向かいます」
マサキは窓の外を眺めながら回帰前のことを思い出す。
色々なものが採れるからゲートが放置された結果に、四国はフラワーパークゲートと同化する。
フラワーパークの範囲は拡大を続け、今ある町の多くは放棄されて住めなくなってしまう。
ただ人とはたくましいもので、住み慣れた土地を離れず集まってフラワーパークゲートの脅威に耐え抜いた町もあった。
そうした町はフラワーパークゲートで採取できる薬草で産業を築いた。
薬草そのものだけでなく、モンスターの討伐やそのために訪れる覚醒者なども利用して、意外と大きな都市を新たに形成していたのである。
今はまだゲートがブレイクすら起こしていない。
比較的モンスターによる損害も少なくて、町並みや道の様子も綺麗に見えた。
「着いたら荷物を置いて昼食でも食べながらチームの紹介をします」
「人は集まったんですか?」
「……二人だけ。マサキさんたちを含め、私も入れて五人ですね」
カズキは困った顔をする。
「それも含めてあとでお話しします」
ーーーーー
「今回の助っ人となる方ですね。私は宇山健と申します。よろしくお願いします」
ホテルに着いた圭たちは部屋に荷物を置いて、ホテルにあるレストランに集まった。
そこには十名ほどの覚醒者たちがいた。
覚醒者たちは全員ヤマガミグループに雇われた人たちである。
リーダーのウヤマとマサキは握手を交わして席につく。
「今回の目的はフラワーパークゲート内に生えているマーレイという薬草の採取だ」
ウヤマがそのまま作戦の説明に入る。
「現在ではゲートに入って一時間ほど移動したところにマーレイが生えているとの報告を受けている。我々はそこを目指して移動する。ただしマーレイが生えているエリアの前で我々は待機。採取部隊のみが進入する形となっている」
マサキがフラワーパークゲートはどうだというのを受けて、マーレイがあるかどうか調査した。
その結果、フラワーパークゲートにもマーレイがあることが分かったのだ。
「マーレイがあるのは毒地だ。そのために毒耐性のない我々は入ることができない」
マーレイを見つけたのなら採取すればいい。
しかしそう簡単にいかない理由があった。
マーレイが生えているのは、毒がある場所であったのだ。
空気や地面、生えている植物に毒が含まれている。
だから圭とイリーシャが呼ばれた。
圭とイリーシャは、以前カスミを助けた時に毒耐性の小を手に入れていた。
毒耐性を持っている人はあまり多くない。
マサキの瞬間拘束もスキルで毒耐性も一つのスキルだが、毒耐性のような常時発動型のパッシブスキルは後天的に身につけられるものもある。
ただ身につけられることがあるというだけで、誰でも持っているものではない。
毒耐性持ち覚醒者を探すのもなかなか骨が折れるのだ。
カズキが来たのもそのためである。
回帰前には毒王と呼ばれるほどの覚醒者だったカズキは、毒に対して完全な抵抗を持っている。
どんな毒もカズキには効かず、回帰前のカズキがお酒で酔うこともできないとボヤいていたことをマサキは覚えていた。
カズキとヤマガミグループで見つけた二人の覚醒者のみでは、流石に人数的な不安があるからマサキとイリーシャも入れて五人体制でマーレイを採取することになった。
「毒耐性アーティファクトは人気が高いから……」
ウヤマは小さくため息をつく。
毒耐性スキル持ちでなくとも、アーティファクトや薬で防ぐという手段もある。
しかし毒耐性のアーティファクトはあまり市場に出てこない。
なぜならお金持ちなんかの間で人気だからである。
毒耐性はモンスター由来のものだけではなく、一般的なものに対しても効果を発揮する。
着けていれば毒耐性をつけて身を守ってくれるのだから、お金持ちはこぞって毒耐性アーティファクトを手に入れようとするのだ。
「低い効果のものを四人に配り、毒耐性ポーションも飲んでいただきます」
なんとかかき集めた毒耐性アーティファクトもあるけれど、効果はあまり高くない。
そこでマサキたち完全な毒耐性を持たない四人に持たせて、毒への耐性を高める作戦だった。
ついでに毒耐性効果のあるポーションも飲めば毒に対する備えは万全である。




