大事なもののため6
「うわああああっ!」
普通に走っては間に合わない。
ダイチは地面を蹴って飛び込んだ。
レイとボスフロッグマンの間に飛び込みながらも、体を横に向けて腕をたたんで盾でガードする。
「ぐぅっ!?」
地に足をつけ余裕を持って受けるのと、余裕がなしの上に空中で受けるのとは全く違う。
ちゃんと踏ん張れなかったダイチは、ボスフロッグマンの攻撃を盾で受けきれずに肩を殴られた。
「瞬間拘束!」
本来なら連続使用は好ましくない。
しかし状況が状況なだけに、もう一度瞬間拘束でボスフロッグマンを拘束する。
「レイレイ! やれ!」
ダイチが地面を転がっていくが、今は気にしている場合じゃない。
攻撃を受けたが、空中で殴られてぶっ飛んでいったので見た目ほどのダメージはないだろうと見ていた。
まずはボスフロッグマンを倒すことが優先である。
「はああああっ!」
レイもハッとしてナイフを振り下ろす。
動けないボスフロッグマンの目にナイフが突き刺さる。
「トラ!」
「うん!」
ダメージで怯んでいるせいか、まだ拘束は解けていない。
イリーシャが全力の魔力で魔法を発動させる。
ボスフロッグマンの頭上に氷が生まれて、みるみると大きくなっていく。
「うっ……」
頭が大きく痛み、マサキの鼻から血が垂れる。
それでもまだスキルを解くわけにはいかないと歯を食いしばる。
「潰れろ」
ボスフロッグマンに氷の塊が落ちてくる。
視界の端で氷の塊を見ていたボスフロッグマンは、そのまま氷の下敷きになる。
ボスフロッグマンが死んだことでマサキの瞬間拘束は勝手に解除になる。
「はぁっ!」
地味で分かりにくい無茶をしたマサキは膝をつく。
マサキの瞬間拘束は他のスキルと違って使えなくなるよりも、頭や体に負担が襲いかかってくる方が早い。
普通は無理になったらスキルを使えなくなるのに、瞬間拘束は使えなくならずに無理をして使えてしまうのだ。
あまり他の人には分かりにくいダメージをマサキは負ってしまうのである。
「マサ……さん! 大丈夫ですか!」
「マサマサ大丈夫?」
「ああ、なんとかな……俺よりも、アースは?」
鼻血を拭いながらマサキは立ち上がった。
壁際に倒れるダイチに近づく。
「大丈夫かい?」
「……なんとか」
ダイチは無事だった。
正確には肩が思い切り腫れているのだけど、命があるなら無事と言っていい。
「無茶したね」
マサキが手を差し出す。
「これで……旅館守れましたかね?」
「守れたさ」
まだ油断はできない。
だがこれ以上フロッグマンがゲートから出ることはないし、一晩ならお客を守ってなんとかできるだろう。
ダイチはマサキの手を取って立ち上がる。
「覚醒者って……大変ですね」
「そうだな。大変だよ。でも……みんなを守れるのは俺たちしかいないからな。分かっただろ? 力は持ってるだけでもダメだって」
「…………はい。でも今は早く帰りたい。また露天風呂でも入りたいです」
「今日はお預けだな」
マサキはフッと笑う。
痛い目を見た割に、ダイチがそれによってショックを受けたような様子はない。
飛び込んでレイを守ったことといい、ダイチは精神的にも覚醒者向きのような感じがある。
「ふぅ……とりあえずここを出ようか」
外は相変わらず雨だろうか。
帰りのことを気が重い。
「これ、治療用のポーション」
「ありがとうございます」
怪我の回復を早めるポーションをダイチに渡す。
「少し……雨弱くなったかな?」
ゲートを出てみると雨足はほんの少しだけ弱くなっていた。
それでもびしょ濡れになることには変わりはないが、マサキたちはなんとかゲートを攻略したのだった。




