大事なもののため5
「モンスターの数は少ないですね」
「まあゲートの外に出てる分は少なくなるからな」
何回か戦いはあったものの、フロッグマンは一体ずつしか出てこなくて戦いは楽だった。
岩山は近づいてみると思っていたよりも大きい。
巨大な岩石を適当に積み重ねたような見た目で、中に空洞があるようだった。
「あれがボス?」
「そうだな」
岩山の中の空洞を覗いてみると、それなりの広さがあってど真ん中にある平たい岩の上にややずんぐりとした体型のフロッグマンがいた。
丸い体型をしているとちょっとナマズみたいな顔だとマサキは思った。
「他には三匹……」
普通のフロッグマンも三体ほど見えている。
一体ずつなら対して問題にもならない相手だが、ボスも含めて四体となると相手するのは辛い。
「まだ力の余裕もあるし一気に勝負仕掛けるか?」
瞬間拘束を使えるような余裕はある。
四体同時に拘束することも可能だ。
フロッグマンについては比較的長めに拘束できる。
岩山の外から飛び込んで拘束して倒すということはできる。
ただやはりボスフロッグマンが心配だ。
どれぐらい拘束していられるのか分からない。
ボスの能力は大体普通のモンスターよりも一つ上になる。
フロッグマンを基準にして考えれば拘束しておくこともそれほど難しくないが、たまに効きが悪かったり拘束時間が短い相手もいる。
大体力の強い相手になると拘束しておける時間が短くなる傾向にあって、ボスフロッグマンの能力によっては飛び込むことにリスクが付きまとう。
「フロッグマンは動く気配がないな」
フロッグマンかボスフロッグマンの方がふらっと外に出てきてくれたらありがたいのだけど、動くような感じは見受けられない。
「……やるか」
こうしている間にも旅館は危機にさらされている。
フロッグマンが動くのを待つなんて時間の余裕はない。
まだ相手にバレていない今が動くチャンスである。
「俺があいつらの動きをスキルで止める。その間にまずボスじゃない普通のフロッグマンから倒すんだ」
理想はボスを先に倒してしまうことである。
ただ倒せない可能性、倒せなかった場合を考えねばならない。
もし仮に瞬間拘束で拘束している間に倒せなかった場合、手負いで怒るボスと三体のフロッグマンを相手にしなければならなくなる。
結局四体を相手にしてしまうことになるのは、かなりリスクが高い。
それならば最初から普通のフロッグマンに狙いを絞り、ボスフロッグマンとだけ戦う方が安全である。
「トラは一番遠くのやつを、レイレイはその次を、俺は一番近いやつをやる」
速さや攻撃手段から、先に攻撃する相手を指定しておく。
魔法が使えるイリーシャは一番遠くのフロッグマンを狙い、マサキとレイではレイの方が素早いので奥の方を倒してもらう。
「俺はどうしたら……」
「難しいかもしれないけど状況を見て動いてほしい」
ダイチが攻撃に参加できるならフロッグマンを任せてボスを狙うのだけど、攻撃に関してダイチはまだ何もしたことがない。
モンスターと対峙するという壁の次はモンスターを攻撃するという壁もある。
命を奪えない、モンスターを攻撃できないということから覚醒者を諦める人もいる。
今の状況でダイチに何かを任せるわけにはいかなかった。
「……俺よりもレイレイについていくような感じで動いてくれ」
レイの方がボスフロッグマンに近いフロッグマンを倒すことになる。
万が一を考えるとレイのそばにいてもらうべきだろう。
「いくぞ!」
マサキたちは岩山の中に飛び出していく。
「まだだ……」
物音にフロッグマンたちが気づいてマサキたちの方を振り返る。
「…………いまだ!」
できる限り拘束しておく時間を長くするために、相手が動き出すギリギリを狙って瞬間拘束を発動させる。
ボスも含めた四体全員の動きが止まる。
流石にボスも含めた四体ではちょっと多いのか一瞬頭にズキンとした痛みが走るが、これぐらいどうってことはない。
「やっ!」
イリーシャが氷の塊を飛ばす。
動かない的に当てるぐらいなら簡単で、フロッグマンは氷が直撃して頭を大きくへこませて倒れる。
「くっ……速い!」
レイも加速してフロッグマンを狙う。
ダイチを置き去りにしてフロッグマンと距離を詰めたレイは、ナイフをフロッグマンの眉間に突き立てた。
「よしっ!」
レイがナイフを振り下ろすのとほぼ同時に、マサキもフロッグマンの首を刎ね飛ばす。
「……くっ!?」
ここまで順調。
あとはボスフロッグマンだけと思った時だった。
「レイレイ、気をつけろ!」
ボスフロッグマンの拘束が破られた。
思っていたよりもボスフロッグマンの力が強くて無理矢理拘束を突破したのである。
ボスフロッグマンが狙うのは当然一番近いレイだ。
「うっ……!」
マサキの声に反応して逃げようとしたレイだが、ナイフが思ったよりも深く刺さってフロッグマンから抜けない。
ナイフの回収なんて後ですればいいのだけど、まだ経験の浅いレイはどうするべきなのか判断に迷ってしまった。
「レイ!」
ボスフロッグマンが後ろに迫る。
両手を大きく上げ、レイに向かって振り下ろそうとしていた。




