覚醒した日3
マサキはレイと戦友だった。
レイは優れたアタッカーでマサキの瞬間拘束に合わせて素早く鋭い攻撃を繰り出して相手を倒してくれていた。
より終末に近い時期になると一撃の重たい人がマサキに合わせることになったけれど、レイはマサキを守るために一緒にいることも多かった。
「武蔵原女子大」
だからそれなりにレイとは会話があった。
共通点というか会話の中でマサキとレイは同じ町に住んでいて、年齢も同年代で覚醒した時期も割と近かったことを知っていた。
マサキが覚醒した時はまだレイは覚醒していない。
しかし少し後にはレイも覚醒する。
そして覚醒前のレイは大学生であった。
女子大学の学生で経済学を専攻しているなんてことを言っていたのを覚えている。
何気ない会話だったのにこんなところで役に立つとは思いもしなかった。
動き出すなら早めにとマサキは動き出した。
まず銀行に行ってみると先ほど電話したばかりなのにもうお金が振り込まれていた。
ケイゴには本当に感謝である。
次に向かったのはスマートフォンのショップだった。
「本当にこちらでよろしいのですか?」
「はい、これで」
そこでマサキはスマホを買い替えた。
ただマサキが購入したスマホに販売員も困惑する。
「まあ知らなかったら俺も困惑するわ」
スマホの箱を抱えて一度家に戻った。
そして家で早速スマホを取り出す。
今現在画面が大きくなっていく流れにあるが、それでも薄かったり軽くて扱いやすいことをアピールするようなスマホが多い。
しかしマサキが選んだのはゴツくてデカい不人気のスマホだった。
そのくせ高い。
まず買う人もいないものでそんなものをサラッと買っていこうとするマサキに販売員も驚きを隠せていなかった。
手に取ると結構ズシリと重さがかかる。
扱いにくさがあって不人気であるのもうなずける。
このスマホの売り文句は丈夫さ。
とことんまでスマホの頑丈さや丈夫さを売りにしているのだ。
落としても壊れず水やなんかにも強い。
モンスターやゲートの中で採られた素材が使われているらしくて本当に丈夫なのである。
しかしある程度の丈夫ささえ有れば他の人はそこまで本気の丈夫さはいらない。
だから不人気なのである。
けれどもマサキにはこのスマホが必要なのだ。
「こんなもんが最初とはな」
現在世界は過渡期にある。
政府主導のゲート攻略は終わりを迎えて民間会社や一般の覚醒者がゲート攻略の主権を握りつつある。
当然ゲートの配信もあま。行われていない。
そのうちに技術が進化してリアルタイムでゲートの中の状況を撮影して外で見れるようになり、さらに生配信まで出来るようになってくる。
だがそれはまだもう少し先の話である。
今はまだ生で配信するのはほとんど不可能。
金が有れば出来るけどそんな金用意できないし、機材も手に入れるのは難しい。
ゲートの中の配信が難しい理由はゲートの中に入る時に電子機器がダメになってしまうからである。
そのために政府はゲートから採れる素材を使って特殊なカメラを作って中の様子を撮影していた。
精密機械のスマホなんてゲートに持ち込めば1発でただの重しになる。
しかしこの時はまだ誰も知らなかった。
「このクソ重いスマートじゃないスマートフォンがゲートを通っても壊れないなんてな」
これに気がついたのはとあるユーチューバーだった。
山やなんかを冒険するような配信者で、そのために防水防塵にも優れたスマホとしてデカスマホを選んだ。
ある時彼はゲートを通る時どんな景色が映るのかに興味を持ってスマホが壊れること覚悟で配信しながらゲートを通ったのだ。
けれどデカスマホは壊れなかった。
電波は入らなかったので配信は出来なかったけれどゲートを通ってもデカスマホは無事であった。
そのことが広まってからデカスマホは売れに売れた。
次世代型のゲートに持ち込めるスマホが発売されるまでデカスマホは買いたくても買えないほどの人気商品となった。
「本当はもう一台ぐらい確保したいけど……」
ただデカスマホは高いのだ。
いくら返すつもりで親友にお金を借りるとしても使うか分からない予備のスマホの分まで貸してくれとは言えない。
「しかし重いな」
映画なんかで胸に入れていたものが銃弾を防いで助かったなんてことがあるけれど、デカスマホなら弾丸を何発でも防いでくれそうだ。
「まあスマホはスマホから」
マサキはスマホを起動させる。
高いだけあって画面なんかは綺麗だ。
死ぬ直前に持っていたスマホはもう画面もバキバキでくすんでいたので余計に綺麗に見える。
特に連絡を取りたい人もいないけどケンゴの連絡先を失うのは痛いので一応データを移しておく。
「えーと……これだ、これ」
そして1番大切なアプリを探す。
フェネストラという開かれた窓のようなアイコンのアプリを探してインストールする。
「オイっ!」
一通り必要なことを終えて次に行こうと思った。
玄関のドアが激しく叩かれてマサキは怪訝そうな顔をした。
ドアの向こうから聞こえてくる声には聞き覚えがある。
居留守を使おうかとも考えたけどこのままドアの前に居座られては外出もできず面倒だ。
無視していれば大人しく引き下がるとも思えないのでどこかでしっかりと対応せねばならない。
マサキがドアを開けるとそこに金髪の男性が立っていた。
耳にはピアスを開け、眉毛は細く剃ってある。
いかにも柄が悪いヤンキーがドアの前に立っていた。




