表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神様、あなたの推しを配信します~ダンジョンの中を配信するので俺にも世界を救えるように投げ銭ください~  作者: 犬型大


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/97

大雨のゲートブレイク2

「……俺、どうしたらいいんか分かんないんです」


「どういうこと?」


「俺……親いなくて。小さい頃に死んじゃって……おじいちゃんとおばあちゃんがここまで育ててくれました。旅館も忙しいのに、それでも時間割いてくれて……」


「いいおじいちゃんとおばあちゃんなんだな」


「はい。今度は俺が守っていきたいと思うんです。でも……おじいちゃんはこのままじゃダメだって」


 ダイチは温泉を見つめる。

 風が入るせいで水面は細かく波が立って揺れている。


「旅館や自分たちに囚われないでほしいって。広い世界を見て、お前の好きなことをやれっていうんです。でも俺のやりたいことって、おじいちゃんたちに恩返しがしたくて」


「恩返し以外でやってみたいことは?」


「……俺が覚醒者なの知ってますよね?」


「ああ」


「俺の両親も覚醒者でした。人を守る仕事で、誇らしいことなんだって言っていたことを覚えています。だから俺も覚醒者になって人を守るんだ……そんなふうに憧れていた時期があります」


 少しのぼせてしまいそうでマサキは上半身を温泉から出して座る。

 吹き付ける風が気持ちいい。


「今覚醒者になって……人を守る力がある。正直、興味はあります。俺も……父さんと母さんのようになれるのかなって」


 ダイチは目を閉じる。

 両親の姿は今でも忘れない。


 危険なことをしているとは知っていたが、ダイチの両親は人のために戦っていた。

 覚醒した今ではダイチも両親の背を追いかけたくある気持ちがどこかにあった。


「でも覚醒者になるとおじいちゃんとおばあちゃんを置いていくことになる。それに危ないことだから心配もかけちゃう」


 生みの親たる両親への思いとここまで育ててくれた祖父母への思いでダイチは揺れている。


「どうしたらいいのか」


「旅館がいいと思うよ」


「えっ?」


「このまま旅館にいればいいと思うよ」


 最終的に決めるのはダイチである。

 しかしマサキはマサキなりの結論を持ってダイチに思いを伝える。


「覚醒者……ふわっとした考えでやっている人もいるけど、やっぱり難しいし、危ないし、覚悟が必要な仕事だ。何かを天秤にかけて、揺れるぐらいの思いならこの世界に踏み込まないほうがいい」


 軽く考えて覚醒者になる人もいる。

 そんな人を批判するつもりはない。


 どいつもこいつも覚悟が必要だというと覚醒者だって足りなくなってしまう。

 軽い感じで入って長く続く人だっているのだ。


 でもやはり、覚醒者になるという覚悟や思いはほしい。

 全てのものを振り切って覚醒者になるぐらいの強い思いがなければ、やっていけないようなこともあるのだ。


 特にマサキはこれから待ち受ける戦いの厳しさを知っている。

 そしてマサキは厳しい戦いに身を投じようとしている。


 誰かに言われてとか、中途半端な覚悟で覚醒者の世界に踏み込むぐらいなら最初からやらないほうが幸せかもしれない。

 冷たい言い方にはなってしまったが、全てはダイチのためなのである。


「マサキさんは優しいんですね」


「今のどこに優しさがあったんだよ?」


「みんな……耳障りの良いことを言います。特に両親がいないとか聞くと……どこか配慮したように、俺の都合がいいような慰めにも似たことを口にするんです」


 ダイチが両親のいない事実を誰かに振りかざしたことはない。

 でも人は勝手にダイチに配慮する。


 好きにしたらいいとか、旅館を手伝うダイチを立派だとか本気でダイチのことを考えて意見してくれる人はいなかった。

 中途半端な覚悟なら来ない方がいい。


 そんなふうに真っ直ぐに言われたのは初めてだった。


「マサキさんは……自分の選択を後悔したことないんです?」


「あるよ。たくさんある。でも後悔しても何も変わらないんだ。なら必要なところだけ反省して、前に進むしかない。過去に囚われちゃいけないんだよ」


「……難しい、ですね」


「俺にはやることがあるからな。後悔に立ち止まってる暇なんてないんだ」


「世界を救うってやつですか?」


「そっ」


 風を浴びて体が冷えてきたのでまたお湯に浸かる。


「俺を誘ったってことは……俺も世界を救うことになるんですか?」


「君が俺の仲間になりたいならね」


 不思議な人である。

 ダイチはマサキの笑顔を見ながらそう思った。


 ーーーーー


 ダイチの話に付き合っていたらだいぶ長風呂になってしまった。

 部屋に戻るとレイとイリーシャの方が先に帰っていた。


「飲む?」


「いや、飲んじゃっていいよ」


 部屋に備え付けてあるテレビで外の状況を確認する。

 どこかの川の水位が上がって洪水が起きているとか、災害情報が流れていた。


 イリーシャは買ってきたフルーツ牛乳を飲んでいる。

 今時ビンの牛乳やコーヒー牛乳なんかもあるのはなかなか珍しい。


 湯上がりに飲むとまた格別な味わいである。


「……この調子なら明日……明後日ぐらいも厳しいかもな」


 かなり雨の勢いは強そうだ。

 台風が去っても影響が残ることを考えるに、雨が止んだらすぐに出られるとも限らない。


 特に用事があるわけではないので多少延長しても大丈夫だが、こんなことになるとは想像もしていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ