スカウト4
「ねえ、一つ話があるんだけど、いいかな?」
「……なんでしょうか?」
「君、覚醒者らしいね」
この際だしここで話を仕掛けてしまう。
もしかしたらダイチの祖父が気を利かせてダイチに配膳させたのかもしれない。
「それは……」
ダイチの表情が固くなる。
「そんなに緊張しないで。覚醒者として活動することに興味ないかなって」
あまり無理矢理感が出ると反発されてしまうかもしれないのでちょっと声をかけてみた、みたいな雰囲気を出して誘ってみる。
マサキとしても強制してダイチを仲間に引き入れるつもりはない。
そんなことをしては心から信頼できる仲間にはなれないからだ。
「俺を……スカウトしに来たんですか?」
相変わらずダイチの表情は固い。
ただ少し瞳が揺れた。
「そこまで大それたことじゃないよ。俺たちは今のところ、三人で活動していてね。もう一人ぐらい仲間が欲しいと思ったんだ」
スカウトはスカウトであるが、大きなギルドの誘いみたいに思われても困る。
もうちょっと緩やかな、覚醒者チームとしてのお誘いだとちゃんと強調しておく。
「……申し訳ありません。俺にはここがあるんです。旅館、守ってかなきゃいけないんで」
目を見ている感じでは全く興味ないというわけでもなさそう。
ただダイチは深々と頭を下げて、キッパリと話を断ってしまった。
「そうか……変な話してごめんね」
「いいんです。自分みたいなの誘ってくれて嬉しいです」
ダイチの祖父には申し訳ないが、説得は難しそうだなと感じる。
「それじゃあ、ごゆっくりどうぞ」
「ごっはん!」
「食べていいよ。待たせてごめんな」
イリーシャはお預けをくらった犬のように目をキラキラさせている。
出された料理はかなり豪華で、手が込んでいる。
「誘えなさそうな感じしますね」
せっかくの料理を置いといてはもったいない。
マサキとレイも食べ始める。
「今時覚醒して、覚醒者としてやってない人の方が少ないもんな」
多くの人は覚醒したら覚醒者としての道を進もうとする。
能力的に足りなかったり、性格的に向かなかったりすることもあるけれど、覚醒者というだけで働き口があったりもする。
覚醒者にならないと決めている人には何かの決意があるもので、簡単についてくるはずがないことは予想していた。
「どーするの?」
「うーん、もう少し様子は見るけど、やらないという人の心を変えるのは難しい」
覚醒者をやらない理由を解消できればいいのだけど、ダイチの場合は旅館や祖父母が理由である。
とてもじゃないが解消なんてできない。
「まあ温泉旅行だと思ってくれてもいいよ」
誘ってやってくれとは言われているができないものはできないし、覚醒者はダイチだけではない。
仲良くなれないか試してみてダメそうなら違う人を引き込むことも考えようとマサキは考えたのだった。




