スカウト3
「もうここも古い。お前はお前で自由にしてもいいんだぞ?」
「そんな……まだやれるって!」
「ここらも過疎化は進んでいる。若い奴はみんな出ていく。ここらもまだモンスターに襲われていないが、いつゲートが発生したっておかしくない」
「そうなったら俺が戦うから……」
「こんなボロ宿守らずに、お前は自分の命を考えればいいんだ」
「どうしてそんなことを言うんだ!」
「ああ、ダイチ!」
この感じでは話し合いは平行線だなとマサキは思っていた。
同じような会話を繰り返してきたのか、ダイチの方が会話に耐えられず悔しそうな顔をして場を離れる。
「あっ……申し訳ありません」
運悪くこっそりと聞いていたマサキの方にダイチが来てしまった。
マサキとぶつかりかけてダイチは気まずそうに謝ると足早に立ち去っていってしまう。
「お聞きになられていましたか?」
「……あっと、すいません。盗み聞きするつもりは……」
ダイチの背中を眺めていると、いつの間にかダイチの祖父がそばに立っていた。
「いいんです。お客様がいらっしゃるのにこのような場所で話していた私たちが悪いのです」
話を聞いていたことは分かっているようだ。
「……若い人のご意見を聞きたい」
「俺でよければお答えしますよ」
「あの子……ダイチについてです。どこへ出しても恥かしくないぐらいに良い子に育ちました。ですが少しばかり……親離れができないといいましょうか」
ダイチの祖父は遠くを見るように目を細める。
「ダイチはここにいたいようですが、正直なところここはもう発展の目はないでしょう。大きなホテルが何とかやっていくぐらいで、古宿は押されて衰退していく。全体としては維持、あるいは緩やかな衰退を迎えている」
思っていたよりも冷静に自分の状況を客観視している。
マサキは驚きつつも黙ってダイチの祖父の話を聞く。
「やれるうちは全力でやろうと思っている。でもね、あの子までそれに付き合う必要はないと思っている」
「……どうなってほしいのですか?」
「年寄りの希望としては良い仕事でも見つけて、器量のいい嫁さん捕まえて……幸せに暮らしてくれればね」
「覚醒者……という道はどうですか?」
マサキの質問にダイチの祖父は意外そうな表情を浮かべた。
「あの子が覚醒者だって知っているのかい?」
「……ええ」
「まあ隠しているわけでもないからね……」
知らぬ客が、ダイチが覚醒者だと知っている。
ちょっとおかしな話ではあるものの、あり得ないことでもないのだろうと小さくため息をついた。
「……覚醒者か…………昔はあの子もそうなりたいと言っていたのだけどね。あの子の親は二人とも覚醒者で、そしてゲートの中で亡くなった」
祖父母に育てられている理由が何かまでは聞いていなかった。
両親が覚醒者で、そのせいで亡くなったというのは初耳である。
「あの子の両親がどうなったのかを考えるとあまり勧められないね」
「……そう、ですよね」
こうなったら祖父母の反対にもあいそうだなとマサキは苦笑いを浮かべる。
ただ身内にモンスターの犠牲になった人がいれば、気持ちも分からなくない。
「ただ……私は覚醒者でもいいと思ってる。あの子には力がある。両親が亡くなる前は自分も人助けをするのだと言っていた。今覚醒者になってあの子は力を持て余している。誰かのために力を発揮できる子なのに……私たちのせいであの子はここに縛られてしまっている」
ダイチの祖父は悲しげに首を振った。
「もし俺が彼をスカウトしたいと言ったらどうですか?」
「ダイチを?」
ダイチの祖父が驚いたようにマサキの目を見た。
本気の目をしているとダイチの祖父も感じた。
「……どうしてお客さんにこんなことを話してしまったのか。その理由が分かった気がするよ。お客さんはダイチのことを迎えにきたんだね。あの子が……羽ばたく時が来たんだね」
ダイチの祖父はどこまでも優しい目をしていた。
「あの子を連れ出してやっておくれ。ここは帰る場所であっても、あの子の居場所にしてはいけないんだ」
「まあ……本人の意思次第ですけどね」
「ふふふ、縁があるならきっと繋がる。そうかい……変な三人組だと思っていたけれど、お客さんも覚醒者だったのかい」
一瞬ダメそうかと思ったけれど、保護者である祖父の同意は得られそう。
あとは本人をどう説得するかである。
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「もう直接聞いてみたらどうですか?」
「うん、それしかない」
結局いい考えも浮かばず、ホカホカになって帰ってきたレイとイリーシャにも相談する。
余計なことを考えずに、ストレートに仲間になってほしいと言ってみればいいと二人は答えた。
「まあ……確かにそうか」
余計な言葉を尽くすぐらいならぶち当たって、砕けてみればいいと言われてマサキもそれもそうかと思った。
「失礼します。お食事、お持ちしました」
部屋でまったりとしていると食事が運ばれてきた。
「あっ、その……さっきは申し訳ありませんでした……」
料理を運んできたのはダイチで、マサキの顔を見て申し訳なさそうに頭を下げる。
先ほどぶつかりかけた時のことを言っているのだろう。




