病院を守れ8
「あの人は……」
ヨレヨレの白衣とボサボサとした髪型、髭も数日剃ってなさそうな男にマサキは見覚えがあった。
「お願いですって!」
「だから……」
「待ってください。その人、通してあげてください」
マサキはにっこりと笑顔を浮かべて、困り顔の警察に声をかけた。
「ですが……」
「その人、関係者です」
「関係者……なんですか?」
警察が男のことを見た瞬間、マサキも男のことを見てウィンクする。
「そ、そうです。ちょっと身分証を忘れて……」
「俺が身分は保証しますので」
「……分かりました。それではお通りください」
「ありがとうございます」
警察がどけて男は中に入る。
「キサキカスミさんのお兄さんですね?」
「どうしてそれを……」
マサキが男のことを手助けしたのは同情からではない。
男がマサキの探していた人だったからだ。
回帰前に毒王と呼ばれていた強力な覚醒者のキサキカズキ、その人がマサキの目の前にいるのだった。
「妹さんに聞いたんですよ。行ってあげてください。きっと喜ぶと思います。病室に戻っているはずですので」
「……なんとお礼を」
「周りには俺が上手くいっときますから。早く」
カズキは口をキュッと結んで大きく頷くと病院の中に走っていく。
多少身なりとしては小汚さがあるが、病院の中に入ってしまえばきっと医者として見られて止められることないだろう。
「ウサミさん、こんなところに。少し質問に協力ください。ただの形式的なものです」
「ええ、もちろん」
「ではあちらに」
マサキとイリーシャは呼ばれて簡単な質問をされた。
なんで病院にいたのかとかその程度のもので、深く突っ込まれることもない。
ある程度予想していたのでマサキもイリーシャもスラスラと答えて終わりにした。
「お菓子もらった」
「よかったな」
取り調べが終わったマサキとイリーシャは帰ろうと止めた車に向かっていた。
「えーと、どこらへんに止めたかな……」
「すいません!」
「ん?」
今はみんな病院前に集まっている。
人の少ない駐車場を歩いていると後ろから声をかけられた。
「あなたは……」
「はぁ……キサキカズキです。先ほどは自己紹介もせず……」
後ろから走ってきたのはカズキであった。
急いでいたのか肩で息をしている。
「いいんですよ。どうかしましたか?」
「お礼が……したくて……」
息を切らせたカズキはポケットからメモ帳を取り出す。
「妹から聞きました。助けてくださったと。中にも入れていただけて、妹の無事を確認できました」
カズキはメモ帳に何か書き込む。
「是非ともお礼をさせてください。これ、私の連絡先です」
メモ帳のページを破り取るとマサキに差し出す。
そこには電話番号が書いてある。
「よければいつでも連絡ください」
「……じゃあ後ほど連絡します」
マサキはメモを受け取って笑顔を浮かべる。
普段ならお礼なんていらないと拒否するところだが、カズキが相手ならば別である。
人助けもあるが、カズキに会いたくて病院のゲート事件にも首を突っ込んだ。
連絡先をもらえるというのなら断る理由がなかった。
「本当にありがとうございました」
カズキは深々と頭を下げる。
「妹さんのそばにいてあげてください」
「……お優しいんですね。では失礼します!」
マサキがポンと肩に手を置いて微笑んでやるとカズキは感動したような目をする。
「まっ、いいことしたな」
「そうだね」
カズキと関わっているから病院にいた、という側面はある。
しかしマサキとイリーシャがいなかったらカスミは死んでいた。
過程はどうであれいいことをして気分はいい。
車を見つけ、まだちょっと怒ってるレイもなだめるために一緒に焼肉に行って無事を祝ったのだった。




