病院を守れ5
「神の試練!」
「神の……試練?」
「ああ、神なのか、悪魔なのか、あるいはもっと他の存在なのか、この世界を見ている遙か上の存在がいるんだ。そんな存在が時として人に試練を与えることがあるんだ」
神の試練がなんなのか分かっていないイリーシャにマサキが説明する。
「乗り越えるべき試練と報酬を提示してくれる。やるやらないは自由だけど……無視すると怒る神様がいたり、無理難題を神様を押し付ける神様もいる。他にもこうして何か良いことをすると利益をくれる神様もいるんだ」
「……今回は良いことしたら毒耐性がもらえるってこと?」
「そういうことだな。病室に神様のお気に入りでもいるのかもしれない」
カズキの妹であるカスミに注目していて発生した可能性が高いなとマサキは思った。
理由は報酬だ。
小とはいえ、毒耐性が報酬である。
回帰前には毒王となるとカズキは神様の注目を受けている。
関係がないと考える方がおかしい。
病室を守れとなっているが、ざっくり言ってしまえばカスミを守れということだろうとマサキは思っていた。
「まあ都合がいいな。どの道ここを守るつもりなんだ。やることは変わらない」
マサキが消えろと念じると表示が消える。
元より病室にいる人たちは守るつもりなのだから、試練が出ようと何も変わりなかった。
「とりあえず電話頼むぞ」
「ん、分かった」
イリーシャが先ほどの番号に電話をかける。
「こちら石灰大学附属病院ゲート対策本部緊急連絡対応窓口です。どのような用件でしょうか?」
「電話繋がったよ」
「おっ、ありがと」
マサキは自分のスマホをイリーシャに渡して、イリーシャのスマホを受け取る。
「すいません。俺たち病院内にいる覚醒者なんです」
「病院内にいる覚醒者? ああ、先ほどからいくつか通報が入っている人たちですね」
「多分そうです」
マサキが話している横でイリーシャはスマホのカメラに向かって手を振ったりしている。
「状況はどうなっているのか説明できますか?」
「はい。今は魔力症病棟五階にいます。動けない入院患者を510号室に集めて守っています」
状況を簡潔に説明する。
「分かりました。今現在ゲート攻略および建物内のモンスターの討伐を行なっています。魔力症病棟の五階に人員を向かわせるようにいたします」
「一般病棟と魔力症病棟を繋ぐ南側の廊下は魔法で塞いでいます。別のところから来るようにお願いします」
「そのように伝えます。もう少し持ちこたえてください。状況の把握をしたいのでこのまま通話は繋いでおいてください」
「そうします。とりあえずもうちょい頑張れば助けが来るぞ」
「頑張るガオ」
[トラちゃん可愛い]
[早くトラちゃん助けろ]
[トラちゃんぺろぺろ]
「……すごいコメント流れてくな」
回帰前も配信していたことはあった。
しかしマサキが配信を始めたのはだいぶ遅く、有名どころの視聴者は固まっていた。
有名どころの配信者がいなくなった時、それは視聴者も大幅に減ってしまっていた。
見なくなったということもあるのだけど、それよりも世界が滅亡に近づいて人口を大きく数を減らしていたのだ。
見る余裕がある人が多いとこんなことにもなるのだなと驚いてしまう。
イリーシャ効果や状況の珍しさはあるだろうけど、それでもやはり見てくれている人は多い。
「来たよ」
「助けより先にモンスターか」
マサキが振り返ると三体の口裂けウルフが口を大きく開いてゆっくりと迫ってきていた。
「トラ、やっちゃえ!」
「ん!」
イリーシャが手を突き出す。
先の尖った鋭い氷が飛んでいく。
狭い廊下の中ではあまり素早さを活かせない。
氷を避けようとして口裂けウルフ同士がぶつかって、一体の口裂けウルフの喉に突き刺さる。
「はっ!」
イリーシャの魔法をてんやわんやでかわす口裂けウルフにマサキが迫る。
廊下の広さを考慮しつつ、コンパクトに剣を振る。
「瞬間拘束!」
口裂けウルフを切り倒したマサキに最後の口裂けウルフが飛びかかった。
マサキはスキルを発動させて口裂けウルフの動きを止める。
これぐらいの相手なら多少長めに拘束しておける。
動けなくなった口裂けウルフをマサキはしっかりと一刀両断して仕留めた。
[こいつも強いな]
[あれぐらいなら俺でも倒せるわ]
[トラちゃんにやらせろ]
[野郎は出なくていい]
[レイレイまだ?]
「……手厳しいな」
マサキが活躍してもあまり盛り上がらない。
それどころか引っ込めというコメントすらある。
ちょっとショックだけど、これぐらいで落ち込みはしない。
レイを待つコメントもあるので他の動画も見てくれている人がいるのだな、と改めて常連の視聴者が増えたことも確認する。
「なんだ!?」
ギャン! と口裂けウルフの声が聞こえて、マサキから見て左の角の方から右の角へすごい速度で口裂けウルフが飛んでいった。
見ていなかったら気づかなかっただろう。
「あんたたちが通報にあった覚醒者か? 何で仮面なんてつけてんだ? まあそれが趣味なら仕方ないか」
茶髪の男が角を曲がってきた。
マサキたちが仮面をつけていることに不思議そうな顔をしたが、あまり追及するつもりもないようだ。




