毒王2
「アレを否定しなかったってことは本当なんだろうな……」
色々あった噂の中に毒王はかつて人を殺して逮捕されたことがあるというものがあった。
なかなかひどい噂である。
人間性は最悪だが人を殺すようなやつではないと思っていたマサキはふと噂について聞いてみたことがある。
カズキは否定も肯定もしなかった。
ただ無言でドロドロとした紫色の液体が入ったビンをマサキの前に置いただけである。
カズキの性格上根も葉もない噂なら否定したはずだ。
肯定もしなかったが、毒瓶を置いてそれ以上追及するなと釘を刺してきたのだ。
つまり噂は本当だったということになる。
色々と枝葉がついて殺人の噂にも種類があったのだけど、中でも有力だと言われていたものが一つある。
カズキには妹がいて、病弱だった妹は病院に入院していた。
ある時病院にゲートが出現してカズキが駆けつけた時には妹はモンスターに殺されてしまっていたのである。
ただそれが病院を守るはずの覚醒者がサボっていたために被害が拡大して、カズキの妹もそのせいで巻き込まれて死んでしまったというのだ。
カズキはそのことを知って、当時警備に当たっていた覚醒者ギルドを壊滅させた。
復讐を終えたカズキは大人しく逮捕されたが、毒耐性の能力と研究者であった知識を買われて釈放、以降は毒や薬の研究を行っている。
というのが噂の内容だった。
どこまでが本当なのか分からないが、一度だけカズキがクシャクシャになった写真を見ていたところを目撃したことがある。
人の事情に首を突っ込まないのが暗黙のルールだったので何も聞かなかったけれど、古い家族写真だと言われれば確かにそうも見えた。
仮に噂を本当のことだと仮定する。
するとカズキを見つけるためのヒントがいくつかあるのだ。
「入院するほどの重病……そして覚醒者が警護についているほどの病院ならかなり大きいはず」
マサキは大きな病院に絞ってみていく。
覚醒者を警護につけているような病院は決して多くない。
安心安全を売りにしているはずだ。
これだけでも三つの病院に絞り込めた。
「そして近くにモンスター素材を研究している場所があるはず」
カズキが駆けつけたというところからある程度離れていながらも駆けつけられるような距離にカズキはいたはず。
モンスターに関する研究をしていたはずなので、モンスターの研究をしていた施設なりが病院の近くにあるのだろうと踏んでいる。
モンスター研究をしている場所も多くはない。
「二カ所あるのか」
一つに絞れるかなと思ったのだが候補が最終的には二つになってしまった。
「地道な調査が必要だな」
どちらの病院も行って行けない距離ではない。
「イリーシャ」
「うい」
「病院に調査に行くぞ」
「りょーかい」
「…………おい、イリーシャ?」
「ん?」
イリーシャはいつの間にかプリンを食べていた。
「ん? じゃなくて……お前!」
「ぐにっ!」
イリーシャが食べているプリンの蓋にはマサキと書いてある。
「このプリン、俺んじゃねーか!」
「……美味しそうだったから」
「何を悪びれもなく!」
「マサキがイジメる!」
「お前が悪いんだ!」
マサキはイリーシャの頬をつねって引っ張る。
意外とモチモチとしたイリーシャの頬はよく伸びる。
「ちゃんとルールは決めただろ?」
「プリンの誘惑には勝てない」
「そういってこの間アイスも食べたろ?」
「アイスの誘惑にも勝てない」
共同生活も大変だ。
マサキは小さくため息をついたのだった。




