嘘か誠か2
「ただこれだとトマトの回収はできないな」
「あっ……」
トマトヘッドは粉々になってしまった。
魔法で作り出した氷はすぐに魔力となって溶けてしまう。
トマトヘッドのトマトはバラバラになって地面でベチョリと悲惨な状態になっている。
これでは回収もできない。
「ごめんなさい……」
「いいって。そんなに回収にはこだわってないし、初めてなら力のコントロールも難しい。むしろしっかりと力を使えていたのだからいいさ」
これぐらい失敗にも当たらないとマサキは笑う。
魔法の威力が弱すぎて敵を倒すことに失敗するぐらいなら敵を倒してくれた方がよほどいい。
マサキが軽く頭を撫でてやるとイリーシャは小さく笑みを浮かべる。
「力の加減は少しずつ慣れていけばいい。焦ることはないさ。トマトはたくさんある」
見えているだけでもトマトヘッドは点々と畑に存在している。
脅威的なモンスターではなく食べられる。
しかもその上ブレイクを起こしても外に出てこないという管理のしやすさからブレイクを起こしてもそのまま放置されている。
難易度も低くて敵もわかりやすいのだけど稼ごうと思えばトマトヘッドのヘッドを傷つけず倒す必要がある。
そこが面倒で戦いやすさの割にゲートダンジョンの人気がない。
だからこそトマトヘッドの数も多く、自由に討伐することができる。
「のんびりやってこう」
誰にでも初心者という時期はある。
たとえ未来で氷の女帝と呼ばれるのだとしても、今はまだ覚醒者として右も左も分からないただのイリーシャなのである。
「んじゃ次はレイレイの番だな。先輩としていいとこ見せてやれ!」
「そうですね!」
これまでカメラを向けると恥ずかしそうにしていたレイだが、今はイリーシャへの対抗心で恥ずかしさはなりを潜めているようだ。
「見ていてください! 私の方が先輩なんですから!」
マサキとしてはレイの新たな一面を見た感じで面白いけど笑ったら怒られるんだろうなと撮影に徹する。
剣を構えたレイは一気にトマトヘッドに向かって駆け出す。
トマトヘッドの感知範囲内にレイが入ったことでトマトヘッドも動き出す。
トマトの頭を支えていたツタが動き出してレイに襲いかかる。
「はっ!」
「おー、ちゃんと戦えてるな」
レイも多少戦い慣れをしてきた。
ゴブリンなんかだと見た目が気持ち悪くて戦う気になれなかったが、トマトヘッドなら何も思わず戦うことができる。
ツタを切り裂き、最小限の動きでかわしながらトマトヘッド近づいて横に剣を振る。
「ふっ……やりました……あっ」
胴体、とでもいうべきなのだろうかトマトの頭を支えていたツタが切り裂かれてトマトが地面に落ちた。
その衝撃でトマトは潰れてしまった。
「……ごめんなさい……」
「初めては仕方ない」
自重もそこそこあるトマトだから慎重に扱わないと地面に落ちただけでも傷がついてしまったりする。
カッコよく決めたのに結局トマトをダメにしてしまったとレイは振り返る。
画面越しでも顔がしょんぼりしているのが分かる。
ただマサキはこうなることも想定していた。
本当にもろくてダメになりやすすぎる。
だからトマトヘッドは嫌われるのだ。
これで二人ともなんとなくトマトヘッドというものが分かっただろうと思う。
「魔石は回収しとこう」
トマトヘッドにも他のモンスターと同じく魔石がある。
潰れた頭を剣でほじくり返すと中から石が出てきた。
トマト汁で濡れた魔石を拭いて荷物の中に入れる。
「トマトヘッドを倒すだけならそんなに難しくない。むしろゴブリンよりも簡単かもしれない。でもトマトをちゃんと回収しようと思うと結構面倒だろ?」
「うん、めんどくさい」
「確かにちょっと大変ですね」
「まあでもどう倒すとか、力のコントロールを考えるのにはちょうどいい。とりあえず一人三つ綺麗にトマト回収することを目標に倒していこう」
今回トマトヘッドのゲートダンジョンを選んだのには理由がある。
危険が少ないこともそうだが倒し方を考えて、力をコントロールするということも戦う上では必要になってくる。
トマトヘッドとの戦いを通じて戦い方を考えることを学んでいこうと考えたのだ。
「こうして……こう!」
レイもイリーシャも色々とやり方を変えながらトマトヘッドのトマトを傷つけないように倒す方法を模索する。
イリーシャはトマトの頭以外を凍らせてからツタを氷の刃で切り裂いたり、中まで凍らないようにトマトの頭を凍らせてみたりとすぐに魔力を抑えるコントロールも身につけ始めていた。
レイもレイで一撃で終わりにせず転がり落ちるトマトの頭を受け止めたり、切る体勢を整えてトマトの頭が転がり落ちないように綺麗に水平に切ったりと工夫を凝らしていた。
「えい」
「よっと!」
最後にはレイとイリーシャで協力し、イリーシャがツタを切り裂いてレイが優しくトマトを受け止めるなんて連携まで見せるようになった。
やはり遠距離の攻撃ができる魔法系がいてくれると戦いは楽になるなとマサキは思った。




