嘘か誠か1
マサキはこれまでに計三回ゲートダンジョンでの様子を編集して公開していた。
新たな動画が公開されるたびに嘘の動画だろうということで盛り上がるが、三回目ともなると流石にそうした議論も下火になり始めていた。
嘘だと思ってみる人、本当だと思って見ている人、嘘を見抜いてやろうとする人、レイレイ目当ての人などなんとなく見てくれる人も固まってきている。
ここらでもう一つ刺激が欲しいと思っていたのだけど、ちょうどいい刺激が仲間に入ってくれた。
「トラです」
「ト、トラ?」
「うん。虎の仮面だから」
そのちょうどいい刺激とはイリーシャのことであった。
レイ一人よりも二人の方が画面が賑やかで、その上イリーシャも美人である。
仮面なので口元しか分からないけれどそれでも期待はしてもらえるだろう。
家具とか買いに行った時に最後に仮面も買いに行った。
ただパーティーグッズの仮面ではイリーシャに納得してもらえなくて結局ネット注文になった。
イリーシャが身につけているのは白い虎の仮面である。
何とうまいことレイと同じく口元が出ているタイプの仮面が売っていたのだ。
レイはレイレイと隠す気あるのかという感じだけど、イリーシャの方は仮面からトラと考える気あるのかという感じである。
「がおー」
まあなんだか可愛いからいいかとマサキは撮影しながら思った。
「新しい仲間が来てくれました。本人が気に入ってるのでトラちゃんと呼んであげてください」
マサキがデカスマホを構えながら軽く付け足して説明する。
「え、ええと……」
「今回攻略するのはトマトヘッド、です」
「あっ、私が読むのに」
マサキが出したカンペをイリーシャが読み上げる。
仕事を取られたとレイは少し拗ねたようにイリーシャのことを見る。
しょうがないとはいえ二人の息はバラバラである。
レイは初めての時恥ずかしそうにしていたがイリーシャは平気なのか淡々としている。
「トマトヘッドってなに?」
「文字通りトマトの頭を持ったモンスターだ。体はつたみたいなもので出来ていて、そんなに強くない。頭は回収して売れるから胴体を攻撃して倒すのが一番いいね」
ダンジョンの難易度そのものはF1クラスとなる。
F3のゴブリンのダンジョンよりは上であるけれどそれでもまだ下から数えた方が早い。
戦いにあまり緊張感は出ないけれど今回はイリーシャがいる。
「あまり考えすぎずにやっていこう」
トマトヘッドのダンジョンは肥やされた畑が広がっているような場所だった。
遠くからでもトマトヘッドが見えている。
人の頭ほどのトマトが絡まったようなつたの上に生えている奇妙なものが点々とあって、それがトマトヘッドなのである。
トマトに擬態しているつもりなのか、トマトヘッドの方からもマサキたちが見えているはずなのに動かない。
トマトヘッドはある程度まで近づかなきゃ動かないので見えていてもそれほど警戒することもないのだ。
「まずはイリ……トラの魔法で攻撃してみようか」
イリーシャのおかげで絵的な大激変が起こる。
マサキとレイは接近戦タイプでどちらも派手な攻撃はない。
レイのスキルが目覚めれば派手になるけど今のところ剣を振り回している絵だけなのである。
対して敵の方も弱い敵だと魔法も使わないので基本的に同じようなものが続く。
だがイリーシャは魔法使いである。
やはり魔法は見た目にも派手で分かりやすい。
またきっとCGだのなんだの言うやつが湧くんだろうなと思いながら、マサキはしっかりとイリーシャのことをカメラに収める。
「ふぅ……」
無表情なイリーシャは感情が分かりにくいが内心では少し緊張していた。
実際魔法を使って戦うことは初めてであるし、上手くやってマサキに褒められたいし、失敗してマサキにがっかりされたくない。
「……なに?」
「マサキに買ってもらった」
「………………」
「いや、指輪型のやつがいいって言うから……」
なぜかイリーシャはレイに手を見せつけた。
なにをしているのかと思ったら指輪を見せていたのである。
いつの間にか薬指に指輪をつけていて、イリーシャは鼻息荒く自慢げにその意図を答えた。
レイの顔が怖いなと思いつつ、指輪を買った経緯を説明してるだけなのになんだか言い訳くさくなるなとマサキは焦る。
これを生で配信していなくてよかったと頭の隅で思った。
「いく、よ」
指輪を自慢して少し落ち着いたイリーシャは改めてトマトヘッドに目を向ける。
奇妙な巨大トマトはイリーシャに気づいているのかも見た目からは分からない。
最初はモンスターだからとちょっと怖い気持ちもあったけれど、よく見るとデカいだけの変なトマトなので冷静になるとそんなに怖くもない。
「凍れ」
指輪に魔力を集めて放つ。
「おお……」
一瞬でトマトヘッドが冷やしトマトになってしまった。
イリーシャの魔法はトマトベッドを丸ごと巨大な氷の中に閉じ込めた。
イリーシャはESクラスの覚醒者であった。
最終的な潜在能力の才能だけで見るとレイと並び立つのだが、今の能力だけで見るとマサキとそんなに変わらないと判定されたのである。
だけどどこが同じランクなんだとマサキは思う。
「どう?」
「ああ、すごいよ」
ピシリと氷にヒビが入って、中のトマトベッドごと粉々に割れてしまった。




