実の奪い合い8
「次には行かないんですか?」
木は全部で三本あるとマサキから聞いている。
ここまでで二本の木を燃やしたのだからあと一本残っているはずだ。
けれどマサキは木の方に向かうことはなくフラフラと森の中でモンスターを倒していた。
「最後の一本は少し特殊なんだ」
「そうなんですか?」
「ああ、今探しにいったって見つからないんだ」
マサキはオオカミのようなモンスターを切って倒す。
マサキの覚醒者能力からすると少しばかり格上な相手であるが前世から培った技術があればなんとか倒すことができた。
「それにモンスターを倒すのも大事だしな。特にレイはまだまだ強くなれるから」
マサキは伸びる可能性があまりないけれどレイはCSクラスである。
つまり今の能力がCクラスで潜在能力がSクラスということ。
潜在能力がSということはレイがモンスターを倒して成長していくと能力がSクラスになれる可能性があるのだ。
実のことも大切だがレイが成長することも大切である。
配信を通じて神様にアピールするためにもレイには是非とも強くなってほしい。
「レイ!」
「あっ! えいっ!」
マサキが手を伸ばす。
レイの後ろにオオカミのようなモンスターが気配を消して迫っていた。
マサキは瞬間拘束のスキルを発動させてオオカミのようなモンスターの動きを止め、レイはその間に剣でモンスターを切り裂いた。
「ご、ごめんなさい……」
「怪我がないならいいさ」
油断がないのが一番だ。
しかしレイはまだまだ経験が浅く、常日頃から周りに気を張り続けることは難しい。
こうしたものも経験がものを言う。
少しずつ慣れていけばいいのだとマサキは思う。
「ありがとうございます……」
マサキの大人な余裕にレイは少し顔を赤くする。
「モンスターが出なくなってきたな」
最初は探さずとも向こうから襲いかかってきていたモンスターが探しても見つからなくなってきた。
「1000体が近づいてきてるんだな」
1000体も見た時には途方もない数に思えたがやってみると案外あっという間である。
100人いるなら一人10体でいい。
貢献度というものがあってみんなが競い合うようにしてモンスターを倒していけば1000体いても倒せるのだ。
そもそもゲートに出現するモンスターもあまり強くはなかったからという理由もある。
「あと……91ですね」
レイが表示を開いて残りを確認する。
まさきの予想通り残りのモンスターは100も切っていた。
「こうなると残ってるモンスターは奥にいる強い奴ばかりだろうな」
浅いところにいる弱めのモンスターはすでに倒し尽くされて残るは奥にいる強めのモンスターだけである。
「モンスターを探さないようにしながら奥に向かおうか」
「モ、モンスターを探さないんですか?」
探すのかと思ったら探さないというのでレイは不思議そうに首を傾げる。
「自分の実力はちゃんと把握して動くべきだ」
マサキの能力は高くない。
今戦っているモンスターも能力的にギリギリなのでこれ以上強くなると戦うことは厳しい。
報酬は欲しいけれど無茶をして怪我をしては元も子もない。
回帰前に立ち向かった敵は今よりもはるかに強かったけれどその時には周りに強い人もいたしマサキも多少は強かった。
ここは戦いを避けておく方がいい。
だけど最後の一本のためには多少奥に行っておく必要もあった。
本当なら配信の一つでもしておきたいところなのだけど今はまだお手軽な配信方法も確立されていない。
ゲートに潜った100人の中の誰かとなると配信をしたのがマサキだと見つけられてしまう可能性もある。
バレてもいいのだけどもう一台ぐらいスマホを確保してからじゃないと不慮の事故などの時にスマホが品切れということになると困る。
ゲートに持ち込める重たくてデカいスマホは今のところ重たくてデカいだけだと思われているから売れないだけで、ゲートに持ち込めるとなればすぐに買えなくなってしまう。
配信したらきっと話題を集められるだろうが話題を集めるだけが良い方法というわけでもない。
「ここは他の人の戦いを見学しよう。見ることもまた学びだ」
強い人がどう動き、どう連携を取っているのか。
今後に活かせる学びがあるかもしれない。
基礎的な戦い方はマサキも教えてやれるが、最後にはレイがレイ自身の戦い方を作り上げていかねばならないのだ。
たまには見学することも悪くはない。
「それじゃあ行こう。あとはのんびり見学だ」




