人類の敵4
「弘法筆を選ばず……なんていうけど、強い人ほど装備も良いものを使ってる。俺たちは弘法……名人と呼べるような力もないし、良いもの持てるならその方がいい」
「まあ確かに装備のおかげで助かったなんて話はあるからね」
今の資金力で最上級の装備は望めない。
だが少しずつ良い装備に替えていくのもまた覚醒者として必要だ。
金もかかるし面倒だと装備の更新を怠れば、後々痛い目を見ることになる。
「急に現実感が出てきた感じはありますけど、装備を見てみるのも楽しそうですね」
「うん。もうお腹いっぱいだしね」
「マサキの提案なら」
「まあ、俺はなんでもいいよ」
みんなの賛同も得られた。
マサキたちは覚醒者協会で売っている装備を見にいくことにしたのだった。
ーーーーー
「よしっと、いいところ空いてたな」
マサキが運転して覚醒者協会までやってきた。
覚醒者協会は覚醒者にとって一種の役所みたいな機能もある。
だから平日の昼間でも意外と混んでいる。
それに装備品まで売っているのだから駐車場も空きが少ない。
良いタイミングで良い場所が空いた。
「……悲鳴?」
「なんでしょうか?」
車を降りたところで、女性の悲鳴のようなものが聞こえてきた。
割と近いところからのようで、マサキたちにも一気に緊張が走る。
「何かあったようだな」
続けて怒号のような声や叫び声が聞こえてくる。
何が起きたのかは分からないが、何かが起きている。
「……みんな、装備を。ケンゴは車にいてくれ」
「ああ、分かった」
もしかしたらゲートが出現した可能性がある。
たとえ町中だろうとゲートにはお構いなしなのだから。
そうなら覚醒者として何かできることがあるかもしれない。
マサキは車のトランクを開けて、それぞれ装備を身につける。
ダイチはモタモタとしているものの、レイとイリーシャは慣れたものでかなり手早い。
「これも着けろ」
「えっ、まさか配信するんですか?」
「そのまさかだよ」
マサキは荷物の中から仮面を取り出す。
配信の時に顔を隠すために使うものだ。
そんなものをつける理由は一つしかない。
配信するからである。
「これだけの騒ぎになってるんだから、ゲートならもうブレイクしてるってことだろ?」
「まあ、確かに……」
いまだに騒ぎの声が聞こえてくる。
ただゲートが出現しただけならもう騒ぎは収まっていてもおかしくないのに、まだ続いているということは何かの騒動が巻き起こっているのだ。
仮にゲートが出現していて騒ぎが続いているなら、ゲートがブレイクを起こしてモンスターが出ていてもおかしくない。
配信するのにも一定の理由があるとレイも納得する。
「行くぞ!」
マサキはいつものようにスマホをセットして配信を始める。
「緊急生配信です! たまたま近くで何か問題が起きたようなのでそこに向かっています」
移動しながら軽く状況を説明する。
二回の生配信でマサキのチャンネルは注目度が高く、あっという間に視聴者が増えていく。
「残念ながら今回はゲートの中じゃなくて外です」
コメントが流れていく。
今世界で最も注目されているチャンネルなんじゃないかと思えるほどである。
「……人が……人を襲ってますよ!?」
「ど、どういうことですか!」
逃げる人と逆行して騒ぎの中心に向かう。
するとそこにゲートはなかった。
何人かの人が地面に倒れている。
そしてその原因だと思われるのも人だった。
「イリーシャ、持っててくれ!」
「ん」
マサキはイリーシャにスマホを渡して剣を抜く。
「助けて!」
「やめろ!」
数人の男たちが武器を手に人に襲いかかっている。
今まさに女の子を手にかけようとしているところにマサキが割り込む。
「なんだ貴様!」
「お前こそ何をしてる!」
「ぐっ!」
マサキは男の腹を蹴飛ばす。
『きんきゅうくえすと!
ゆみかをまもって!
ほうしゅう:めがみのなみだ』
マサキたちの目の前に突然表示が現れた。
それは神の試練だった。
ただひらがなで非常に読みにくい。
マサキが蹴飛ばした男は怒りの表情を浮かべているし、悠長に試練を読んでいる暇もない。
「俺たちは新世界教だ!」
「新世界教だと?」
「そうだ! ゲート、モンスター! この世界は終わりに向かってる! 新たな支配者がこの世界を支配する時が来る!」
男は大きな声で己の思想を垂れ流し始めた。
「人は滅ぶ! だが今から従っておけば俺たちだけは助けてもらえるのさ!」
なんとも頭のネジが何本も抜け落ちたような話であるとマサキは思った。
世界にゲートやモンスターが現れると、そこに意味を見出すような人も現れた。
神の使い、神が下した試練、異世界からの侵略など色々な考えがある。
ただ騒ぎ立てるだけなら多少の外はあれど無視すればいい。
しかし妄想に取り憑かれて周りに害を与える人も時には出てきてしまう。
妄想に取り憑かれた人の中には、宗教じみたようなものまで現れて、人を集め己の思想を広めて、さらには従わない者を敵とみなした。
結果的にいわゆるテロのような行為を繰り返す組織が生まれてしまったのである。
「今日ここで起きたことは俺たちの忠誠心の表れだ!」
マサキの記憶では新世界教なる組織はだんだんと大きくなっていき、ゲートの攻略を邪魔する危険な相手となる。




