生配信5
「パンダ君、どう?」
「ま、まだ緊張していますけど……戦えそうです」
ダイチの動きは硬い。
どうしてもそれはしょうがないが、盾主体の戦い方は安定性も高くて怪我をしにくい。
このままでも大丈夫だろうとマサキは判断した。
仲間を気にしながら動くということはレイとイリーシャにとってもいい経験になる。
「うーん流石に神の試練は来ないか」
生配信で期待していることはいくつかある。
その中の一つで、神の試練をマサキは期待したりしていた。
病院でのものや黒瀬旅館で出たものがそうだ。
何かしらクリアすることを条件に報酬を得られるクエストが急に現れたりするのだ。
「まあ、ピンチでもないしな」
神の試練もポンポン出るものではない。
本当に稀に出てくるようなものだ。
ただマサキの記憶では、生配信が広まった頃ぐらいから神の試練というものも時折聞くようになった気がしていた。
神様は配信じゃなきゃゲートの中の様子を見られない、なんて話を聞いた覚えもあるのでちょっとだけ期待していた。
ただ同時に状況的に差し迫っていたり、ピンチの時に神の試練が出ていたなんて話もある。
今はどう見てもピンチではない。
神の試練が出なくてもしょうがないかとマサキは思った。
「まあ今回は軽い手慣らしだしな」
弱いモンスターを倒して、ダイチを中心として経験を積んでいく場である。
ただそれだけでもなく、見る側としても手慣らしになる。
これまで見たくとも見れなかったコンテンツであり注目度は高い。
しかし配信しているのは命懸けの戦いである。
今回は血を見なくて済むようにしているが、本来ならモンスターのグロい映像が流れることも珍しくない。
下手すれば配信している側が死んでしまう光景を見ることだってないとは言い切れないのだ。
死ぬつもりなんてないが、どんな事故が起こるのかは予想ができない。
比較的刺激の少ない配信から始めて、見る側にも耐性をつけてもらう。
少しずつ刺激を引き上げ、配信のファンになってもらえば今後始まる大配信時代でもついてきてくれるだろうという思惑がある。
「どう、アース君?」
「まだまだ緊張はしていますけど、行けそうです」
「そろそろ攻撃の方にも参加してもらおうか」
ダイチの加入で単純に戦うだけでなく、成長を見守るというところでも見応えが出てきた。
「マサさんも戦ったらどうですか?」
「俺か? 俺が戦って見てる方はつまんないだろ」
[ゲートサバイバー(1000円):マサさんのちょっといいとこ見てみたい]
「ん……」
会話を聞かれていたのか流れていく投げ銭のコメントが目に入った。
マサキのファンは決して多くはないと思う。
それはマサキ自身も自覚しているし、これまであまり表に出ないようにしてきたのだから当然だ。
しかしそれでも実はマサキのファンもいくらかいたりする。
淡々とした謎のゲート配信者は男女に一定の評価がある。
レイやイリーシャを見たいという声の方が大きいので、マサキのファンの存在は目立たないのだった。
「持ってる」
イリーシャがマサキからスマホを受け取る。
「ちょっと重い……」
「気をつけろよ?」
スマホとシンバルを合わせると意外と重量がある。
イリーシャが見た目通りの少女だったら、きっと長いこと持っていられなかっただろう。
覚醒者で多少見た目よりも力があるので長時間でなければ持っていられるのだ。
「俺が前に出てフォローするからアース君も攻撃を!」
「は、はい!」
盾を構えながらでも攻撃する時の安定性を考えれば殴打武器がいいのだけど、弱い力でも相手に傷をつけられる剣なんかもメリットは大きい。
今日のダイチは剣を持っている。
マサキが三体のグラスウルフの前に出る。
グラスウルフはどこからか唸るような声を出してマサキを威嚇する。
ただやはり植物のためなのか、感じる圧力は弱めだなとマサキは感じていた。
三体でもマサキは大きな問題はない。
しかしダイチは三体も敵がいると攻撃に迷ってしまう。
「す、すごい……」
マサキは飛びかかってきたグラスウルフを軽くかわして剣を振る。
横から大きく切り裂かれて、グラスウルフはバラバラと解けて草に戻る。
一連の動きに無駄がなく、ダイチは思わず感心したような声を漏らしてしまう。
「カッコいいね」
イリーシャはマサキを主に映している。
レイを! なんてコメントは完全に無視で、イリーシャの独断と偏見でまさきにカメラを向けている。
[まあ、動きは悪くない]
[結構こなれた感じ?]
[レイレイの戦いが見たいなぁ]
「私はマサ……を映すよ」
流れていくコメントにも負けず、イリーシャは返す。
イリーシャがカメラを持つと、ボソッとした声が近くに聞こえて意外と悪くないなんて声がいくつか上がっていることに気づくのは後のことである。
「アース君!」
残るは二体。
レイに一体を相手してもらい、マサキはもう一体の足を軽く切る。
グラスウルフの動きが鈍ったところでダイチにバトンタッチする。
「はぁっ!」
ダイチは剣を振り下ろす。
盾を構えたままコンパクトに剣を振るのが理想だけど、ダイチは体を開くようにしていた。
気にはなるけれど、最初なんてそんなものである。




