生配信4
「じーっ、みっけた」
能力的にはダイチがタンクとして先頭を歩くべきである。
けれどもダイチはまだ経験が浅い。
それならマサキが前に、といきたいところだけど、マサキはカメラを持っている。
ということで今先頭を務めているのはレイである。
明確に一列にはなっていないものの、レイ、ダイチ、イリーシャ、マサキの順になっている。
周りに目を凝らしていたイリーシャが盛り上がった草を見つけた。
普通なら見逃しておかしくはないが、草の隙間に目が見えていた。
よく見てみるものだとマサキは感心する。
「それじゃあモンスターを見つけたので戦ってみたいと思います」
面倒だけど生配信なので、いちいち口に出して次の行動を伝える。
盾を持ったダイチが前に出て、レイと並ぶ。
ここもダイチ一人で前に出すのはまだ不安なのでレイと並ぶようにしていた。
そして二人に守られるように魔法タイプのイリーシャは後ろで隙を狙う。
マサキは剣に手をかけて、いつでも助けに行けるように備えておく。
[まだ素人感丸出し]
[慎重でいいね]
[もっとガンガンいけよ!]
グラスウルフがマサキたちに気づいているのか分からないが、草に擬態したまま動かない。
十分な実力があるなら擬態した状態のまま倒してしまうのだけど、リスクがあるのでここはそっと近づいていく。
相手が気づいていないならこのまま近づいて倒せるだろうし、気づいているならある程度近づいたところで相手も動くだろう。
消極的だとか、動きが悪いだとかマイナスなコメントもあるが、マサキたちが駆け出し覚醒者だと分かっているいつもの視聴者から応援のコメントが届く。
色々な意見があって面白いものだとマサキは思う。
「動いたよ! パンダ君!」
「は、はい!」
パンダとはダイチのことである。
パンダのお面をつけているからパンダ
見た目にも分かりやすい。
最初はアースと呼んでいたし、そう呼ぶつもりだったけど、可愛いからというレイとイリーシャのパンダになった。
アースだと名前に近い。
正直レイレイとマサさんというのも変えたいのだけど、もうそれで浸透してしまっている。
ここで変えると名前に近いということもバレてしまうかもしれないので、このまま押し通すしかないのだ。
グラスウルフは一メートルほどまで近づいたところで動き出した。
パッと飛び上がって、レイとダイチに襲いかかる。
「はっ!」
ダイチは盾を構えて腰を落とす。
飛びかかってきたグラスウルフを盾で受け止めて、グッと押し返す。
「いい感じだな」
配信に乗らないようにマサキは呟く。
ダイチも素人だったが、流石に何もせずにゲートで戦わせるようなことはしない。
マサキは回帰前弱かったのでなんでもやった。
剣も持つし槍も持つし、盾だって持った。
ほとんどサポート的な動きが多かったけれど、一通りの基礎的なことは知っている。
回帰前にダイチが覚醒者としてどう活動していたのかマサキは知らない。
レイのように動きを知っていたらそれに近い動きを教えればいいのだけど、ダイチの動きは知らないので基本的な盾の使い方から教えた。
あとはどう自分の力が伸びていくかで、自分なりの戦い方を見つければいいだろう。
「はあっ!」
押し返されたグラスウルフと距離を詰めて、レイが剣を振り下ろす。
剣はグラスウルフをかすめるも、飛び退いてかわされてしまう。
「えいっ」
しかしここでイリーシャが合わせる。
イリーシャはグラスウルフの着地点を予想して、魔法を放っていた。
着地と同時に魔法に襲い掛かられ、グラスウルフは氷に貫かれた。
「おっ、モンスターが倒れましたね」
頭からお腹まで貫かれたグラスウルフは動きを止め、そのままゆっくりと横に倒れる。
そしてグラスウルフの体がバラバラと解けてただの草になってしまう。
「ぶいぶい」
イリーシャがカメラに向かって指を二本立てる。
「おおお……」
グラスウルフとの戦いの最中は少しコメントも緩やかだった。
見ている方も戦いに集中していたのだろう。
だが戦いが終わってコメントがドパッと流れる。
[イミシュタルギルドと申します。よければご連絡を……]
[四菱工業です。是非ともお話をさせていただきたく……]
チラリと見えるコメントの中に企業やギルドのものも混ざり始めた。
生配信という衝撃は広がり続けているようだ。
視聴者の数も右肩上がりで増えている。
流石にモンスターと戦う様子を見ればウソだとも言いにくくなったようだった。
疑いのコメントはあるものの、コメントの多くは配信が本当であることを前提にどうやっているのだという方向にシフトしつつある。
「不思議……」
イリーシャはグラスウルフの死体を杖でツンツンとつついている。
先ほどまで固まってウルフの形を取っていたのに、今はつつくほどに草が解けて余計にバラバラになっていく。
中身も生身の肉体ではなく、草が詰まっている。
牙や爪も草を固めたもので、まさしく不思議生物である。
「石出てきた」
「モンスターの魔石だな」
イリーシャがグラスウルフをほじくるのを放置していると、草の中から青い水晶のような石が出てきた。
それは魔石といって、どのモンスターも持っている魔力の塊のようなものである。
魔力は今エネルギー源としても注目されていて、魔石はその燃料として買取がなされている。
草ばかりで売るところのないグラスウルフの中で唯一売れる素材であった。
普通の魔石だとモンスターごと持ち帰るか、モンスターの死体をバラして血まみれのものを取り出すが、グラスウルフその点で血も出ないので魔石の回収も楽々だ。




