生配信1
「ああ、帰ってきてくれてよかったよ」
四国から帰ったマサキたちはそのままカズキも所属する研究所に向かった。
研究所はサラたちが入院する病院とも近く、主にモンスター関連の研究を行っている。
連絡を受けていたケンゴが研究所で待ち構えていた。
「帰ってきてくれなきゃ俺の手に負えないところだった」
「何の話だよ?」
「サラとカスミちゃんさ。お前とカズキさん同時にいなくなったら俺じゃ慰められない。いや、一人でも多分無理だろうな」
ケンゴはわざとらしく肩をすくめる。
仮にマサキが死んだらサラは悲しむだろう。
しかも自分の薬を作るためなら余計に荒れるかもしれない。
カズキが死んだらカスミが悲しむ。
とてもじゃないがサラやカスミを慰めることなんてできない、とケンゴは思っていた。
マーレイのことも、もちろん嬉しい。
だがやはりみんな無事のことの方が嬉しくて、安心する。
「私は薬の方に行ってきます!」
「ああ、引き止めて悪いね」
カズキの方はソワソワとしていた。
マーレイが入ったアタッシュケースを抱えて、気が気でない様子だった。
その理由は簡単だ。
マーレイを手に入れたのだから早く薬を完成させたいということだったのだ。
挨拶もそこそこに研究所の奥に走り去る。
「まあ、妹を助けられるとなったら落ち着かないのも理解はできる。俺もサラの治療が待ち遠しいもんな……」
一応ケンゴはカズキの雇用主となる。
乱雑な態度など取るべきではないのだが、カズキを雇ったのは治療薬開発のためである。
今は治療薬のためにカズキは急いでいる。
そうでなくとも怒ることなどないが、今は余計に怒る必要をケンゴは感じていなかった。
「まあいいや。今日は出迎えのためだけに来たんじゃないからね」
「違うのか?」
「そんなに暇に見えるか?」
「少なくともフットワークは軽そうだなと思ってるよ」
マサキはケンゴが普段どんな仕事をしているのか知らない。
ヤマガミグループのボンボンとして遊んで暮らしているわけではないことは分かっているが、会社員という雰囲気も薄い。
非常に不思議な感じである。
ただマサキも気になるところはあるものの、特に追及するようなつもりはなかった。
何をしててもケンゴはケンゴだ。
ただ連絡を入れれば来てくれるし、かなり身軽に動き回っている感はあった。
「ふふ、俺の話はまた今度。マサキに伝えたいことがあってね」
「なんか送ってくれればよかっただろ」
「直接驚く顔が見たかったからね」
「……何を伝えたかったんだ?」
「お前に頼まれてた例のアレ、できたんだよ」
「本当か? 早かったな」
ケンゴの言う通り、マサキは驚いた顔をしてしまう。
「アレ?」
マサキの隣に立っているイリーシャは、アレと言うのが何なのか分からなくて首を傾げる。
「しかし驚いたよ。マスクマンがこんな近くにいたなんてな」
「マスクマン? 何だそれ?」
「知らないのかい? ゲートの中の様子を撮影する、謎のマスクを被った覚醒者……」
現在精密機械はゲートの中に持ち込めない。
正確には持ち込んでもいいのだけど、ゲートを通ると壊れてしまうという話だ。
一部の軍や国に認められた大型ギルドなんかが使うものは特別に作られていて、ゲートの中の様子を撮影できるようになっている。
ただ普通の人が軍用品なんか手に入れられるはずがない。
だがマサキはゲートの中の様子を撮影して動画サイトに上げていた。
マサキの動画に直接書き込む人はいなかったが、マサキたちが仮面を着けて動画を撮影してるところから裏でマスクマンと呼ばれていた。
「フェイク、CG、AI、ゲームの動画、そんなことを言う人もいれど、見る人が見ればあれは本物だって分かる。うちのマスクマンを探してたんだ。どうやってゲートの中を撮影してるんですかってね」
単に物珍しくて見ている人はそれでいいだろう。
しかしゲートに撮影機器を持ち込めないと知っている人からすれば、マサキがやっていることはとんでもないことである。
軍やギルドからカメラでも盗んだのか、あるいはマスクマンは国家関係者なのではないかという噂まで立っている。
もしくは、まだ誰も知らないゲートの撮影方法を知っているのなら、と興味を持った人も少なくない。
ヤマガミグループも興味を持っていた。
ただマサキたちは顔は出していないし、ゲートも珍しいものではなかった。
実は黒瀬旅館の時の配信動画は危なかったのだけど、ダイチの祖父母が旅館を閉めて旅行に行ってしまっていたために特定されなかったのだ。
「まさかマスクマンがマサキたちで……しかも撮影の秘密まで知れたんだからね。何があるのか分からないものだ」
マサキは動画を上げているのは自分だとケンゴに打ち明けていた。
ただそれはちゃんとした理由あってのものである。
「アレ、もう使えるのか?」
「実際には持って行ってみないと分からないところはあるらしいけど……行ける可能性が高いよ」
「じゃあ……今度試してみなきゃな」
「んー、なんの会話?」
「ケンゴにお願いしてた秘密兵器ができたんだ」
じーっと見つめるイリーシャにマサキは笑った。
もう一歩、進む時が来たのだ。
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