友人のお願い
「うう……痛いです」
「それで済んだんだから軽傷も軽傷ですよ」
マサキは軽くため息をついた。
思い切りポイズントマトヘッドスケアクロウの攻撃を受けたカズキだったが、死ぬどころかほとんど無傷であった。
ポイズントマトヘッドスケアクロウに何かの液体をかけられて、カズキの背中は装備ごと溶けて服に大きな穴が空いている。
しかしカズキの背中には何の傷もない。
毒による溶解液のようなものだったらしく、完全毒耐性を持つカズキには通じなかったのだ。
これが直接腕で殴られていたら結果は分からなかっただろう。
ただ転んで倒れた時に膝を擦りむいた。
正直な話、覚醒者としてはそんなもの怪我とも言えないようなレベルである。
ともあれ、小さい怪我で済んだ。
ポイズントマトヘッドスケアクロウとの戦闘で怪我をした人もいるが、死人は出なかった。
マーレイも持ち帰れた。
アタッシュケースの中ではちゃんと柔らかく固定していたので、投げ回されても無事だったのだ。
結果としてみれば大成功と言ってよかった。
今は病院にいる。
毒の満ちる空間にいたわけだし、激しい戦闘もあった。
念のため検査に訪れていたのである。
「マーレイがあれば薬が完成する……はずですよね?」
「ああ、そのはずだよ。前段階まではできてる……マーレイがあれば完成もすぐのはずだ」
「よかったな、イリーシャ」
「マサキもね」
ひとまず硬化症の治療薬が完成したら投与されるだろう人は二人いる。
カズキの妹のカスミとケンゴの妹のサラである。
イリーシャはカスミと友達になったし、マサキはサラといわゆる幼馴染のような関係である。
マサキはカスミとも顔見知りで、サラもカスミも治ってくれれば嬉しい。
「あとは帰って薬を完成させるだけ……あの忌々しい病気からカスミをようやく自由にしてあげられる……」
まだ薬も完成していないのにカズキはウルリと涙ぐんでいる。
マーレイさえ手に入れれば薬は完成したも同然。
あとは実際に投与してみて効果が現れることを期待するしかない。
カズキはもはや効果があることを確信していた。
「カズキさん、一つ…………お願いがあるんです」
「お願いですか?」
「ええ。薬を作り終わったらでいいんですけど……」
カズキに近づいたのはそもそもの理由がある。
硬化症の薬を開発してもらうことも、回帰前にあったようなカズキの闇落ちを防ぐことも目的ではあるが、それらはメインの目的に付随するオマケのようなものであった。
「やりますよ」
「えっ?」
まだお願いの内容も言っていない。
なのにカズキは笑顔を浮かべて受け入れる。
マサキはそれに驚いて目を丸くする。
「マサキさんのお願いならば……犯罪になること以外何でも聞きますよ」
カズキはマサキの目を見つめる。
今回の人生で出会った時には仕事に忙殺されて、ややこけたような印象のあったカズキもケンゴの下で働くようになって余裕ができた。
丸くなるほどではないが、不健康そうな印象は無くなった。
「マサキさんは二回、カスミの命を救ってくれました」
一回目は病院でのゲートブレイク、二回目は硬化症の薬についてである。
ただ二回目の薬に関しては、新たな研究機関を紹介してくれたり、病院も移してくれて、さらにはマーレイの採取まで手を貸してもらった。
一回にまとめたものの、細かくみていけばもっとたくさん救ってもらっと言えるかもしれない。
加えてカズキ自身としても、転院や再就職は心から感謝すべきことだった。
「マサキさんに会えてよかったと思っています。このご恩は絶対に返します。僕にできることなら何でも言ってください」
「……ありがとうございます」
「いえいえ、ありがとうという言葉はこちらが言うべきですよ」
「じゃあ遠慮なく。カズキさんにはあるものを研究してもらいたいんです」
「あるものとは?」
「今この場にはないんですけど、ゲートで採れた植物の実です」
カズキと会おうとしていた目的は、以前ゲートで確保していた実を加工してもらうことだった。
実は摂取すると覚醒者としての能力を上げてくれる。
一方でかなり凶悪な毒が含まれていて、そのまま摂取すると苦しんで死んでいくことになる。
無毒化してもらう必要がある。
そしてどこかに出回っているだろう実の解毒薬も、研究してもらおうと思っていた。
それは毒に耐性があり、研究者であるカズキぐらいにしか頼めないことだった。
マサキのお願いとあらば、ケンゴに働きかけて研究所も納得させられるだろう。
「ふむ……なるほどね」
「俺は強くならなきゃいけないんです。どうにかしてほしいんです」
「分かった。やってみるよ」
犯罪に抵触する行為ではない。
マサキのお願いなら断ることではないとカズキは頷いた。
「じゃあ、まずはサラとカスミちゃんを治してしまいましょうか」
「ああ、そうしようか」




