毒にも負けず5
「くっ……!」
紫色に変色した氷の壁が壊れてポイズントマトヘッドスケアクロウが、マサキに突っ込んでくる。
「気持ち悪い姿しやがって!」
薄目で遠くから見れば千手観音や阿修羅のようにも見えるかもしれない。
だが近くでよく見ると安っぽいカカシのよう。
良くてハロウィンの人形だ。
「瞬間拘束!」
マサキはポイズントマトヘッドスケアクロウの姿が見えたタイミングで、瞬間拘束を使った。
そして同時に剣を投げる。
見た目上ポイズントマトヘッドスケアクロウは強くなさそうだが、実際マサキよりもはるかに強い。
正面から戦っても一人じゃ勝てる相手ではないのだ。
一発入れるのがせいぜい。
あまりに力の差があるので瞬間拘束も、本当に瞬間しか拘束できない。
しかしマサキだって力のある相手を拘束し続けてきた。
相手が強くてほとんど拘束できないことも分かっているし、経験から一瞬の隙さえあれば攻撃を叩き込める。
「よし!」
槍のように真っ直ぐ飛んでいった槍は、正面に向いたトマトの頭に突き刺さった。
「……お飾りじゃないのか」
動きを見ていた限りでは、四つのうち一つを正面の頭としてポイズントマトヘッドスケアクロウは動いていた。
他の頭は見た目だけの存在で、正面となる頭を潰せばなんとかなるかもしれないと淡い期待を抱いていた。
確かにちょっとだけ動きは止まった。
しかしポイズントマトヘッドスケアクロウの頭が回転する。
別の頭が正面を向き、再び動き出してしまう。
そんな予感があったことは否めないが、足止めできた時間としては短すぎる。
「回避に集中して……」
武器は投げてしまった。
ただあったところで、剣を使って攻撃しているような余裕もない。
回避に専念すればもう少し時間を稼げるだろうとマサキは身構える。
「なっ……!」
もう一回か二回ぐらいなら瞬間拘束も使える。
危険な攻撃はなんとなくかわせるだろうと思っていたら、ポイズントマトヘッドスケアクロウはマサキの横を通り過ぎていく。
無視された、と気づいた時にはポイズントマトヘッドスケアクロウはもうカズキとイリーシャに迫っていた。
「イリーシャ! 後ろ、気をつけろ!」
「……! はっ!」
イリーシャがマサキの呼びかけに反応する。
走りながら振り向いて、氷を飛ばす。
ポイズントマトヘッドスケアクロウは枝のように細い腕で氷を叩き落とした。
全部は叩き落とせなかったものの、直撃してもさほどダメージにはなっていない。
「瞬間拘束……うっ!」
マサキはポイズントマトヘッドスケアクロウを追いかけて、瞬間拘束を発動させる。
しかし、走りながらで距離もあるし、一回目から時間も経っておらず拘束の時間は一瞬だけだった。
もはや拘束したというより、身じろぎしたのと変わりない。
「カズキさん!」
ポイズントマトヘッドスケアクロウが紫色のトマトの頭から紫色の液体を吐き出した。
狙いは、カズキであった。
やはりマーレイを狙っているのかもしれない。
「……これだけは!」
紫色の怪しい液体が降ってくる中で、カズキはアタッシュケースを抱きかかえるようにして守る。
そんなもの投げ捨ててしまえ。
マサキはそう叫びたかったけれどもう遅かった。
命さえあればまたチャレンジできる。
多少の時間がかかっても準備すればいい。
だがカズキは頭の中でカスミの悲しそうな顔、そして治療が成功したら浮かべるだろう笑った顔を思い浮かべてしまった。
「ああああっ!」
アタッシュケースを守るために差し出した無防備な背中に紫色の液体が降りかかる。
「くそっ……」
助けようにもマサキにできることはない。
あまりにも力が不足している。
「……イリーシャ! そのアタッシュケースを俺に投げろ!」
まだカズキが死んだとは限らない。
必死に考えて、一つだけマサキにもできることがあった。
イリーシャがうつ伏せに倒れるカズキの持つアタッシュケースを取って、勢いをつけてマサキに向かって投げる。
少し距離が足りなくてマサキの前にアタッシュケースは落ちる。
「こっち来いよ……」
ポイズントマトヘッドスケアクロウは執拗にカズキを狙った。
それはきっとマーレイを持っているから。
ならばマーレイを持っている人が代わればどうなるだろうか。
マサキがアタッシュケースを手に取ると、ポイズントマトヘッドスケアクロウの動きが止まった。
そしてゆっくりとマサキの方を振り向いた。
「追いかけっこなんて子供の時以来だな」
遠くからササヤマたちがきているのも見えている。
まだ、希望はある。
「こっちだ!」
ポイズントマトヘッドスケアクロウがマサキに向かい、マサキはポイズントマトヘッドスケアクロウから逃げる。
命懸けの追いかけっこが始まった。
「イリーシャ、カズキさんを頼む!」
せめて。
仮に死んでいるとしても、せめて死体だけでも回収しなければならない。
ほんの一瞬イリーシャはためらいを見せる。
正直な話ではイリーシャにとってはカズキよりもマサキの方が大事だ。
マサキの方がポイズントマトヘッドスケアクロウにやられるのは嫌なのだ。
だからマサキを手助けに行きたいと思った。
「……んしょ」
それでもマサキのお願いだから。
イリーシャはカズキの装備を引っ張っていく。
カズキの装備は背中部分が毒で溶けて大きな穴が空いているほどだった。
「無事でね……」
イリーシャはカズキを引きずりながらマサキの無事を願う。




