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依存

作者: 雉白書屋

 ある日、とある町の医者のもとに、一人の青年が訪れた。


「はい、今日はどうされましたか?」

「あの、スマートフォンから指が離れないんです……」


「ああ、ついつい夢中になってしまいますよね。私もよくゲームをやりますから、気持ちはわかりますよ」

「いえ、そういうことではなくて……」


「ああ、動画ですか? 最近の若い方はどんなのを見ているのかなあ。面白いのがあったら教えてください」

「いや、違うんです……」


「大丈夫。スマホ依存って言葉もありますが、ちょっと夢中になるくらいなら誰にでもありますよ。ちなみに、一日どれくらいスマホを触っていますか?」

「……二十四時間ですかね」


「ははは、それはすごいですね。もう指がスマホにくっついてしまうほど……え?」


 青年が無言で手を差し出すと、医者も黙らざるを得なかった。青年の親指が、まるで溶けた蝋のようにスマートフォンと一体化していたのだ。


「これは、いったいどうしてこんなことに……?」

「わかりません。気づいたらこうなってて、全然離れないんです。なんとかしてください! これじゃスマホがうまく操作できないんですよ!」


「気にするのはそこじゃないと思いますが……とりあえず、指を切り離してみましょうか。そこまで大掛かりな手術にはならないので、ここでも処置できますよ」


 手術は無事に終わり、青年は晴れやかな顔で病院を後にした。

 これからはスマホを触り過ぎないようにします! と言っていた青年だったが、翌週、再び病院を訪れた。今度は人差し指がスマートフォンにくっついていた。

 医者は呆れることもなく、にこやかに対応した。内心、こうなるのではないかと予想していたし、少し期待もしていた。珍しい症例なので、できるだけデータを集めたかったのだ。

 それからも青年はたびたび来院し、手術を繰り返した。スマートフォンだけでなく、スマートウォッチが腕に張り付いてしまったと泣きそうな顔で訪れるときは、医者の目が輝いた。また、イヤホンならまだしも、スピーカーとくっついたとやってきたこともあった。

 医者は次は掃除機とでもくっつくんじゃないかと冗談交じりに考えていたが、ある日を境に青年はぱったりと病院に姿を見せなくなった。

 気になった医者は、控えていた住所を頼りに青年の住むアパートを訪ねた。


「おっと、おや……?」


 医者は首を傾げた。インターホンを押してすぐにドアが開いたのだが、玄関には誰もいなかったのだ。


「あの、こんにちは……」


 医者は靴を脱ぎ、廊下を進みながら部屋の奥に向かって呼びかけた。


「いない……か。でも、なぜドアが勝手に……まさか最新式の自動ドア? ははは、そんなわけが――」


『先生、来てくれたんですね』


「えっ」


 突然、青年の声がした。だが、あたりを見回しても青年の姿はない。それに、まるでスピーカーを通したような機械的な音質だった。


『こちらからは会いに行けなかったので、うれしいです』


 しかし、スピーカーも見当たらない。その声は部屋の壁や床、天井――まるで空間そのものから響いてくるように、肌からも伝わってきた。そして、むわんとまとわりつくような生暖かさを感じたとき、医者は靴下越しの足に違和感を覚えた。


『ずっとずっと、会いたかったんですよ。先生はとても優しかったから……』


 その声は響き続けた。医者の体が部屋と癒着していくにつれて熱を帯び、ねっとりと……

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