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自分の内側と外側

「で、何がそんなに大変なんだ?」


 山岡は理の言葉の真意を引き出そうとする。


「思ったような形で、仕事ができないんですよね」

「思ったような形って?」

「仕事量もそこそこに、それなりの収入を作るのが」

「それはな、たぶんその『思ったような形』ってのが、ぼやけているからじゃないか?」

「ぼやける?」

「そう、その『思ったような形』っていうのが明確になってないから、あいまいな行動につながってる」

「あぁ、なるほど、たしかにそうかもしれません」


 理は山岡の言葉に「的確だ」と感じる。


「でも、今はその仕事すらまたイヤになってる部分もあります」

「上手くいかないことが続くと、誰だってイヤになる」

「でも、それは一生懸命な証拠だよ」

「ただ、そんなにイヤだって言うんなら一度、自分のことを見つめ直したらいいんじゃないか?」

「どうせ自分なりに色んなやり方は試したんだろ?」

「はい」

「やり方ばっかり変えても上手くいかないんなら、自分のことを見つめ直すと、考え方や行動も変わってくるぞ」

「見つめ直すって?」

「自分を知るってことだよ」


 山岡はコーヒーをぐびっと飲んで続ける。


「結局な、自分の行動なんてものは自分の内側にあるものが、外側に出てきているだけなんだよ」

「だから、自分の内側にあるものをよく理解して、内側にあるものを使えば、自然と行動は自分の内側に沿ったものになる」

「その自分の内側にあるものっていうのは『本音』だったり、『自分が持ってる答え』や『考え方』だ」

「今、髙平くんがやってるのはな、自分の外側ばかりを見て、外側を中心にしてるから、それに対して内側が『イヤ』だと感じてるんだ」

「内側は無視して、自分の外側ばかりに行動を合わせてると、さすがに苦しくなる」

「まぁ、それでも自分で『やる』って決めたから、そんな状況でもなんとかやっていけるんだけどな」


 理はそう言う山岡の言葉に口を開く。


「でも、働かないといけないですよね」

「だからな、今の生活に必要な分は働きながら、自分の内側にもしっかり目を向けて、考え方や行動を変えていけばいいんじゃないかってことだよ」

「一気に目の前の現実を変えることは難しいけどな、それでも自分の内側を中心にすれば、自然と行動を変えていける」

「自分の内側を中心に行動するのが、自分をコントロールするってことだ」

「逆に外側を中心にしてるっていうのは、自分がコントロールされてるってことでもあるんだよ」

「『上手くいかない』って思ってるときほど、自分の中心が内側じゃなくて、外側になってることも多いからな」


 山岡の言葉がグサグサ突き刺さる。理は図星を言われ、イライラが募った。


「でも、外側は無視できないですよね?外側をコントロールなんてできないですよね?」

「あぁ、無視はできないし、コントロールするのは難しいよ」

「じゃあやっぱりいくら内側を中心にしたって、外側を変えることなんてできないんじゃ…」

「君の行動の積み重ねが、今の現実を作ってるのにか?」

「!?」

「外側をコントロールするのは難しい」

「けど、それでもこれまでの行動の結果が、今の君につながってるのは間違いだろ?」

「まぁ…たしかに」

「その行動を決めているのは自分の『内側』か『外側』しかないんだぞ」

「そして、それを決めているのは『自分自身』なんだよ」

「『内側』に行動を合わせるか、『外側』に行動を合わせるのかは、自分次第なんだ」

「自分次第だから、どこまでいっても全部自分の責任なんだよ」


 先ほどまでイライラしていた理だが、山岡の言葉に納得したのか、妙にスッキリした気分になった。


「自分の外側を無視できなかったり、コントロールできなかったりすることは多いもんな、大変だよな」

「山岡さんも大変って思うことあるんですか?」

「そんなのいくらでもあるよ!俺も偉そうに喋っちゃったけどな、実際上手くいくようなことばかりじゃない」

「そっか」

「そうだよ」


 理は山岡でも上手くいかないことがあるのを知り、どこか安心した。この世界を生きるのは大変だ。いくら自分で自分をちゃんとコントロールしているつもりでも、そう簡単にいかないのがこの世界。そして、それはみんな同じ。理はそれを改めて実感した。


「昔は色んなことに怒りをぶつけてたぞ」

「イライラすることも多かったからな」

「他人と衝突することなんか頻繁にあった」

「アハハ」


 山岡との会話は理にとっては楽しい時間だった。この人が話す言葉はなぜかよく理解できる。「似た者同士なのかな」と彼は考えた。


「そういえば山岡さん、初対面のときも、ものすごく僕に一生懸命話してくれましたよね」

「おぉ、そうだな、普段あんなこと絶対しないんだけどな」

「そうなんですか?」

「そうだよ、自分でもなんで髙平くんに声をかけたのかよくわからないな」


 山岡は首をかしげ、考えているような表情を浮かべる。


「僕、あのとき『もうイヤだって顔に書いてるぞ』って言われました」

「そりゃあ、髙平くんがほんとにそんな顔をしてたからだ、表情も暗かったし」

「アハハ」

「たぶん、君のことがなぜかほっとけなかったんだよ」

「そうなんですね」

「なんか、君を見て勝手に反応してた」

「おせっかいなの、わかってるくせにな」


 理は山岡が自分のことを「ほっとけなかった」と言ったことが少し嬉しかった。そこまで言ってくれる人が、あの当時周りにいなかったからだ。


「いや、僕は嬉しかったです」

「そうか?」

「でも、それはたぶん、山岡さんだったから話を聞けたんだと思います」

「他の人だったら、気分悪くして帰ってたかも…」

「ワハハ、それはそうだよな、俺だって他人からとやかく言われたら気分悪い」

「いや、実際、僕あのとき気分悪かったですよ、図星を突かれて」

「それは悪かった、でもあのときは君がどう思おうと、どうでもよかった」

「ほっとけなかったから」


 理は山岡との出会いに偶然じゃない何かを感じた。それが何かはわからなかったが、「こういうのを『いい出会い』って言うのかな」と感じていた。


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