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味方

「フランスはどこ行くんだっけ?」

「パリだよ」

「おぉ~!かっこいい」

「パリってだけでなんかおしゃれな感じするよね」

「する」


 眞鍋はフランスではパリで暮らすようだ。その名前だけでおしゃれな印象を受ける。


「向こうでの暮らしはどうするの?」

「アパートを用意してくれてるからそこで生活するかな」

「新しい場所での暮らしか…いいな」

「三ヶ月で帰るけどね」


 短い期間とは言え、海外で暮らすのだ。理はそれが羨ましかった。自分は毎日家に缶詰めで、仕事漬けの日々を送っているからだ。


「髙平くんはまだ仕事忙しいの?」

「今は少し落ち着いたけど、上手くいかないことが多くて」

「そっか」

「自分なりには頑張ってるんだけどね」

「上手くいかないときって、苦しいよね」

「うん、苦しい」


 理は自分の苦しみをわかってくれる眞鍋の存在がとても嬉しかった。彼女は余計な口出しはせず、ただ彼の言葉に寄り添ってくれる。おそらく彼女も彼女なりの苦しみを何度も経験しているのだろう。理はそう感じた。


「私もこの先どこでどうなるのかわからないから不安」

「えっ?でも、これから留学なのに?」

「うん、帰ってきたときにどうしよっかなって」

「どうするの?」

「何か仕事をしながら地道に絵を描いていこうかな」

「なるほど」


 眞鍋の留学後の考えを聞き、理は彼女がどこまでも絵に本気であることが伝わってきた。自分で考え、模索しながらも、なんとかその道を切り開こうとしている。


「僕、応援してるからさ、頑張ってよ」

「ありがとう」

「僕も頑張らなきゃ」

「私も応援してる、でも無理しすぎちゃダメだよ」

「うん」

「今の髙平くん見てたら心配だからさ」


 二人は互いに背中を押す。それは紛れもなく、支え合いだった。直接何かを手伝うわけではない。ただ、負けそうになる心に手を当て、支えてあげる。二人は互いにとって完全に《《味方》》だった。


 わけのわからないアドバイスなんかしない。余計なサポートもしない。絶対にコントロールなんてしようとしない。ただ、相手の考えや思いを尊重し、寄り添ってあげる。二人は互いにそれがものすごく楽で、嬉しかった。


「そんなに心配?」

「だって見てたらわかるよ、大変なのかな?って」

「なんか前にも似たようこと言われたよ」

「そうなの?」

「レンタカー屋に勤めてた頃さ、山岡モータースってあったでしょ?」

「うん」

「あそこの社長の山岡さんからも同じようなこと言われた」


 理は久しぶりに山岡のことを思い出した。彼は理が人生を変えるきっかけになった人物だ。山岡との出会いが無ければ、理はダラダラとした人生を今も送っていたかもしれない。


「初めて山岡さんに会ったときもさ、『もうイヤだって顔に書いてるぞ』って言われたよ」

「昔は髙平くん、相当暗かったもんね」

「そんなに?」

「うん」


 自分が改めて他人からどう見られていたのかを知り、理は少しだけ恥ずかしくなった。


「でもさ、あの人、そのあとにさ、初対面なのに色々話してくれて」

「そのおかげで考え方が変わったんだよね」

「そうなんだ」

「あれが無かったらまだレンタカー屋でダラダラ仕事してたと思う」

「そっか」


 懐かしそうな表情の理を見て、眞鍋は山岡に嫉妬をした。彼がとても嬉しそうに山岡のことを話すからだ。


「いい出会いがあってよかったね」

「私なんかいなくてもいいじゃん」


 口を尖らせ、ブスッとした表情で眞鍋が言った。


「なんで?眞鍋さんも僕と一緒にいてよ」

「えっ?」

「へっ?」


 二人はここで初めて互いに「一緒にいたい」と思っていることを知った。少し間をおいて、眞鍋は理の目を見ながら聞いてくる。


「私のこと好き?」

「…好きだよ」

「私も好き」

「ありがとう」


 思いがけない展開だったが、二人は素直に自分の思いを伝える。


「付き合おっか」

「そうだね」

「じゃあカップルだ」

「そうだね」


 理と眞鍋は付き合うことになった。急な展開に二人とも驚いたが、互いに思い合い、支え合える関係であることはすでに知っていた。だから、二人が一緒になるのはごく自然なことだった。


「髙平くんって下の名前『理』だったっけ?」

「そうだよ、眞鍋さんは『友子』だっけ?」

「そうそう、じゃあこれからは『理』と『友子』ね」

「うん」


 二人はその後、夜まで一緒に過ごし、その日は何事もなく別れた。


 ―――次の日


 理は珍しく連休を取った。前の会社を辞めてから、二日続けて仕事を休むのは初めてのことだ。


「山岡さん元気にしてるかな」


 今日理が仕事を休みにしたのは山岡に会うため。昨日、友子との会話の中で久しぶりに山岡のことを思い出したからだ。彼は朝から山岡モータース目指して車を走らせた。


 山岡モータースに着くと、今日は休みなのかシャッターが閉まっている。駐車場に車を停め、外へ出ると、ちょうど山岡が会社の脇から歩いて出てきた。


「山岡さん」

「んっ?髙平くんか?久しぶりだな」

「お久しぶりです」

「今日は休みですか?」

「おぉ、そうだよ、どうしたの今日は?」

「いや、久しぶりになんか会いたくなって」

「じゃあ、中入る?」

「おじゃまします」


 そう言うと、山岡はシャッターの横にある事務所のドアを開ける。理に先に中へ入るよう伝えると、外にある自販機でコーヒーを二本買った。


「髙平くん、前より痩せたな?」

「それ、別の人からも言われました」

「会社辞めてどうしてたの?」

「今もwebライターの仕事をしてます」

「大変なのか?」

「なかなか上手くいかなくて」

「ひとりでやってると全部手探りだからな、ある程度大変なのは仕方ないな」

「そうですね」


 山岡は理にコーヒーを手渡すと、応接セットのひとり掛けソファーに座る。


「こっちおいでよ」


 理はコーヒーを受け取ると、山岡に言われるがまま、上座側のソファーに座った。


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