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大変な時期

 眞鍋と会った次の日からはもっとヤル気になった。彼女の絵に取り組む姿勢や完成した作品を見て、理は自然と背中を押されたからだ。仕事はその後も順調で、会社を辞めてから一ヶ月が経ち、二ヶ月が経った。


 ―――そして、三カ月目


 その日も彼は普段通り仕事をしていた。午前中の仕事を終え、昼食を食べようとしていたところに一本の連絡が入る。


「ん?」


 ノートPCを見ると、そこにはクライアントからの連絡が来ていた。理は気になって昼食前にその内容を確認してみる。


「来月から少し仕事量が減ります?へっ?」


 理は気になってクライアントになぜ仕事量が減るのかを聞いてみた。返事が来るまでの間、昼食を食べながら待つ。いくらかして担当者の人から返事が来た。どうやらクライアント側の都合で、以前のような仕事量を渡すことができなくなったようだ。ただ、それでも継続して仕事をくれることは約束してくれた。


 ――まずいな


 これまで毎月安定して仕事をもらえてはいたが、来月からはそれが無くなる。理は急激な不安に襲われた。


 ――とりあえずあとで他の仕事も探してみるか


 午後からの仕事を終えた夕方。お風呂と食事を済ませると、一息入れることなく理は他の仕事を探してみた。クラウドソーシングサービスには記事作成の案件は大量にあり、彼はその中から自分ができそうなものを探してみる。継続的に仕事をくれるところで、単価もそこそこの条件で絞ると、何件か目に留まるものがあった。


 ――ここに連絡を入れてみるか


 理はある案件を見つけ、応募してみることにした。そこは比較的メディアとしての規模は大きく、安定して仕事をもらえそうだった。仕事量は週に三記事ほどの依頼だったが、ひとまず自分の生活をどうにかしなければならない。四の五の言ってられないのだ。


 ―――その次の日


 理は今日も朝から仕事をしていた。あと少しで午前中の仕事が終わるというところで、応募していたクライアントからの連絡が来た。彼がその中身を確認してみると、「まずはテストライティングをしてくれ」とのこと。


 理はそれにOKと返事を送る。テストライティングとは、クライアントがライターのスキルを確認するための記事作成だ。夕方には仕事を終え、お風呂と食事を済ませたあとは、新しいクライアントのテストライティングに取り組む。


 文字数は少ないため、取り組みやすく、短時間のうちに完成。その日は完成したものをクライアントへ送り、終了した。


 ―――さらに次の日


 午前中の仕事を済ませ、昼食を終えたところでメールを確認してみる。そこには新しいクライアントからの連絡がすでに来ていた。おそらくテストライティングの結果だろう。理がその連絡の中身を確認すると、さっそく次の日から仕事をやってもらいたいとのことだった。


 理はひとまず安堵の表情を浮かべる。


 ――これでなんとか来月からもやっていけそうだ


 そう感じた彼は、椅子の背にもたれかかった。


「疲れた…」


 そうつぶやいた理はとても疲れていた。この二日ほど、仕事を得るため、気を張っていたからだ。自然と体の力が抜けていくのがわかる。


「力んでたのか…」


 理は自分ひとりでやる仕事の大変さをここで初めて痛感した。クライアント側は何も悪くない。ただ、自分がクライアントの仕事にあぐらをかいていただけ。勝手に「大丈夫」と安心していたのだ。


 それでも急に仕事量が減れば誰だって焦ってしまう。彼が疲れてしまうのも無理はない。だが、この社会で生きていくにはお金が必要だ。そんなに甘いものではない。彼は少し休憩したところで午後からの仕事に取りかかった。


 次の日は夕方まで仕事をしたあと、新しいクライアントの仕事を始める。初めてのところは勝手が違うということもあり、どうしても時間がかかってしまうが、なんとかその日のうちに最初の仕事を終えた。時計の針はすでに夜の十時を指していた。


 ―――そして、休日


 理は普段通り朝から起きるが、今日はとても体がダルイ。夜遅くまで仕事をしていたのだ。それは仕方がない。彼はゆっくりベッドから起き上がるとカーテンを開け、ソファーへ腰をおろしてタバコに火をつけた。


「はぁ~」


 自然とため息がこぼれる。ソファーが優しく体を包み込み、全身の力がドンドン抜けていった。窓からは朝日が入り、疲れ切った体を温める。彼はそれがとても心地よかった。


 その日は一日ボーっと過ごした。何も考えられず、ただのんびりと部屋で過ごす。久しぶりに忙しい一日を送ったのだ。その反動が心と体に出てしまうのは当然のことである。


 ――思ってたのと違う…


 理はそんなことを考えるが、それ以上頭が回らない。


 ――ダメだ、今日は頭が働かない


 彼はソファーから立ち上がると、思いきり背伸びをする。ダラダラしすぎるのに少し危機感を感じたからだ。パソコンデスクの椅子に腰を掛けると、ノートPCの電源を入れた。


「あっ?」


 パソコンを立ち上げると、新しいクライアントから連絡が来ている。理が中身を確認すると、そこには昨日やった仕事の修正依頼が。


「はぁ~」


 思わずため息がこぼれる。


 ――仕方ないな


 そう思いながら修正箇所を確認し、言われたとおり記事の修正に取りかかる。そこまで大した修正では無く、時間はさほどかからなかったが、それでも今の彼にとっては大変なことだった。とても疲れていたからだ。


 ――これから大変そうだな…


 理は仕事と言うものの大変さを改めて感じた。会社員としてではなく、個人で請けた仕事だ。その全責任は自分にしかない。逃げ場などはないのだ。彼は理想と現実のギャップの大きさを痛感した。


 最初は夢と希望を抱いて会社を辞め、仕事も順調に進んでいたが、今は少し状況が変わり、大変な時期。なんとかここを乗り切らないといけないのだ。


「明日からも頑張ろう…」


 理はそうつぶやき、その日は早めに寝ることにした。


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