27. パンツ姿で再び登場
風間の口からまさかの言葉が反って来た。
「本当にお前の兄貴か?」
「な、何言ってるの、この人は兄よ、私の兄!」
代役頼んだ偽物です、なんて言える筈もないし、本物に合わせる訳にもいかず一ノ瀬さんを"兄"として、その場を押しきって乗り気ろうとした。
「それにしても似てないような・・・・・・」
風間って意外と鋭い。
「に、似てない兄妹なんていっぱいいるし!」
風間が目を細めてじぃ~と見つめ怪しんでいると一ノ瀬さんがフォローに入る。
「風間くんだね、身体の調子はどうだい?」
「大丈夫とは言えないですけど、動けないのは退屈です」
何とか片手を動かし左右に手を振った。
「二週間は安静だそうよ、義理兄さん」
「そうか、じゃあ安静にしていないとね」
一ノ瀬さんは腕時計をチラリと見る動作をした。余り長いするとボロが出るかも知れないという一ノ瀬さんから教わった"帰宅"の合図だった。
切りの良い所で帰ろうってコトね・・・・・・
自然な動作で合図を私に送るとは一ノ瀬さんって凄い。この人に代役を頼んで良かった。
「じゃあ元気な顔も見れたし、帰るよ。」
「何だ、もう帰るのか?」
「面会出来る時間も迫ってるし、また来るよ」
「つまんねーの」
ガッカリした風間に挨拶をして帰った。
部屋から出ると売店からの帰りなのか風間の母親が買い物袋を持っていた。
一ノ瀬さんは静かに頭を下げ、そのまま通り過ぎ病院から出た。私も頭を下げた後一ノ瀬さんの背中を追いかけ病院を出た。
駐車場に止めていた車に乗り込み私は一ノ瀬さんにお礼を言った。
「今日は有り難う一ノ瀬さん」
「構わないよ、また何かあったら連絡してくれ」
一ノ瀬さんの運転で家の前まで送って貰った。気づけば辺りは日が落ちて暗くなっていた。
「有り難うございました」
何度も頭を下げ手を振って見送った。
一ノ瀬さんの車が見えなくなると全身の力が抜け疲労感に襲われた。
「ふぅーーー、風間の件は何とか終わった」
そして疲れた。風呂に入って疲れを取ろう・・・・・・
自宅の鍵を開けようとすると開いてる・・・・・・
ドアノブを引くと扉は開いた。
え? はぁ? まさか強盗?!
急いで部屋の中に入ると部屋の電気が付いている。鞄を盾に部屋の安全確認をすると風呂場の扉が開いた。
「おぅ~お帰り」
ブフォっ!!
パンツ一丁、半裸の義理兄の姿を見て思わず吹いてしまった。
「イヤァァァーーーッ!!!」
堪らずカバンを投げつけた。
「おわっ、何すんだ!!」
投げつけたカバンをキャッチした。
「そっちこそ何してんのよ! ズボンぐらい履いてよ!!」
巨漢の筋肉ムキムキ男が湯上がりにパン一姿で登場しやがった!
「てか、何で鍵閉めないの?! 強盗か空き巣かと思ったじゃない!!」
無用心にも程がある。
まぁでも、部屋に侵入しても筋肉ムキムキの男がいたら逃げるだろうけど。
「悪いついクセで、服探したけど何処にも無くて・・・・・・」
探した・・・・・・、まさか!?
ハッと何かに気づき奥の部屋を見るとタンスや押し入れに締まっていた衣類が床に散らかっていた。
本当に強盗や空き巣に入られた様な有り様だった。綺麗に片付けたり収納していた衣類がーーー・・・・・・
油断した、生活力0、いや皆無な人間が何かをすると、現場が悲惨な光景になるコトを知っていたのに・・・・・・
「な、何なのよこれっ!!」
普段は使わない奥の部屋、物置きとして使っていた部屋が衣類で足場の踏み場もなく散らかっていた。この光景を見て私は発狂しかけた。
「中々見つからなくてなぁ~」
綺麗に片付けた他の衣類もグチャグチャになっていた。
余計な作業増やしやがって!
「それより、腹減ったから何か作ーーー」
「晩ご飯なら私が作るから義理兄さんは何もしないで!!」
これ以上余計な仕事増やされて堪るか! 料理なんて持っての他だ! また暗黒物質製造されてなるものか!!
散らかった衣類から適当に服を身繕い着せた。
「取り敢えず、これを着て!」
部屋の片付けは後に回し一旦、自分の部屋で私服に着替え、エプロンを付けキッチンに立った。冷蔵庫の中にある物を確認して調理を始めた。
野菜をカットしながらふと、義理兄に聞いてみた
。
「そういえば、仕事の方は大丈夫だったの?」
その後のコトが気になり聞いてみた。ひょんなコトから義理兄の職場見学をしてしまい、その最中に同僚さん? を一人、殴り飛ばした義理兄。
確か、ルーサーって言っていたけど、あの人大丈夫だったのかな?
「ああ、黒幕ーーー、上司に連絡取ろうとしたら音信不通で消息不明になった」
今、黒幕って言った? 音信不通で消息不明って、大丈夫なのその上司?
「文句の一つも言いたかったんだが、逃げた後だっようだ」
ズズっとお茶を飲んで話した。
「そ、そう~・・・・・・」
引いていると義理兄の方からも聞いて来た。
「お前の方は大丈夫だったのか、友達がどうとか?」
「ああ、うん、大丈夫、大丈夫」
ここで変なコト言って、自分が~とか何か言い出したら大変だ。
「一ノ瀬さんが一緒だったから」と言ったらブスッとた表情で音を立ててお茶を啜った。
そうこうしている内に一品出来た。副菜に汁物とサラダも用意した。
「でも大丈夫なの、帰って来て?」
「それなら残っていた奴らに任せた」
任せたっていうより押し付けて来たんだろうな~・・・・・・
「それに俺は今、有給消化中だ」
あんな職場でも有給なんて有るんだ・・・・・・
「折角の休みに仕事なんてしてられるか」
社会人が口にしてはいけない言葉を吐いた。
「あの腹黒上司、休みが開けたら締め上げてやる」
この人が言うと本当にしそうだ。
作った料理をつついていると義理兄から思わぬ言葉が来た。
「休みの間、暇だし何処か行くか?」
「え?!」
普通の家族だったら休みの日に遊びに連れて行って貰えるのは喜ぶ処なんだろうけど、正直余り~・・・・・・
そもそも高校生にもなって保護者同伴で出歩くのは少し恥ずかしい。それに何度か本人には遠巻きにオブラートに包んで言ったのに全然、分かっていないようだ。
何度でも言うよ、自分の体格をよく考えろ。
身長二メートルはある巨漢で服の上からでも分かるそのムキムキの筋肉の身体は目立つんだよ!
悪目立ちするんだよ!
「私もう高校生だよ、保護者と一緒なんて恥ずかしいよ」
「俺は別に構わんけど」
クソッ! やんわり断わろうと思ったのに、アンタは良くっても私は嫌なんだよ!
「休みなんだからゆっくりすれば?」
「動いている方が楽なんだよ」
それもう、仕事病だよ。
「というコトで今週の土日、開けとけよ」
「そんな急に決めないでよ!」
義理兄はごちそうさんと言って料理を全て平らげた。
急遽、義理兄とのお出かけが決まったのであった。
この義理兄と一緒にお出かけ? 私が?
想像しただけで憂鬱になる私とは反対に何故か上機嫌な義理兄だった。