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地下迷宮ひとり歩き  作者: 夜朝


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51.九階 〜ドラゴンに聞いた様々な話〜

■地下迷宮 九階 ナイラ 治癒術師Lv8 商人Lv3


物を数える時のような仕草で

太い指を上下させると

ぐりっと

またナイラへ視線を向ける


ドラゴンから向けられた声の質は

親から子へ噛んで含めるような

一大事を伝える際のそれだった


「いいか

 よく聞くと良い

 なぜ所持していることを隠すのか──」


大事なことを聞かされようとしている


それにはさすがに気付けたので

ナイラは姿勢を正して

張ったテントの前に残っていた平地の上で正座した


はい

と短く答えてドラゴンからの続きの言葉を待つ


ドラゴンは彼女の態度に満足して胸を張ると

言葉を続けた


「一つや二つなら

 モンスターが落としていった物と

 思わせることもできるだろう

 しかし純正品を九つは多すぎる

 どうやって入手したのか

 探りを入れてくる者は必ずいるだろう

 ──私のことを言うのか?

 探索者たちは私のことを狩りにくるかもしれないな」


「そんな!! ドラゴン様を狩るなんて身の程知らずな!」


「いやこれまでにもいたぞ

 それはエリクサ目当てではなく

 この迷宮の踏破が目的の者たちだったが」


「先を許した探索者もいるのでしたね

 よくご無事で……」


「この迷宮に封じられた際に

 不死の加護を与えられているのだ

 他の神獣たち同様

 死ぬことはない

 後は先ほども言ったが

 回復陣の力でいくらでも治る」


難しい表情のまま

ナイラは顔を俯けた


口元に添えた右こぶしに

わずかだが力が込められる


言おうか

言うまいか


ナイラは迷った


大いに迷って

顔を上げた


その黒い瞳に宿っていたのは

微弱ながらも決意じみたもの


「あの──ドラゴン様

 それって」


「ふむ?

 『それって』何だ」


「そ

 それって……

 『加護』じゃなくて!

 『呪い』じゃないですか!?」


ナイラは言いたくなかったのだ


水をさすようなことだから


本人(竜)がプラスの方向で

納得していることならば

簡単な気持ちで悪しざまに

言い募るべきではない


べきではないけれど──


怖いのと悲しいのとで

涙ぐみながら

ナイラが絞り出した声は

震えていた


「神獣様たちは

 みんな話し相手を求めてましたよ

 それだけ長い時間が寂しいって

 そういうことだったんじゃないですか?」


「……」


ドラゴンからは返事がない


反応と言えば

ただ

その大きな顔を

ナイラのすぐそばに置いただけだ


彼女の身長の半分くらいはありそうな目を

そっと伏せてドラゴンは今

彼女の言葉に耳を傾けている


「ドラゴン様も──

 そうじゃないんですか?

 ひとりでいると寂しいから

 十階を目指してる探索者を時々召喚して

 話し相手にしてるんじゃないんですか?」


「いや」


「?」


ナイラがそこまで言ったところで

ドラゴンがやんわりとさえぎった


顔はナイラのそばに置いたまま

ゆっくりとまぶたを引き上げて後

その目を笑ませる


「探索者を召還したのはお前が初めてだ

 治癒術師・ナイラよ」


「え──」


なぜと問おうとしたナイラより先に

ドラゴンが語り出した


「お前に死なれては困ると判断したのでな

 今頃ターナは怒り狂っているだろうが

 なに

 あの小娘のりん気など何とでもなる」


「こむすめ……」


さすがの貫禄に思わず繰り返してしまったナイラだ


聞くべきことは他にもあったはずだが

それで話が逸れてしまった


ドラゴンはそれに気付かず話し続ける


「そう

 あの方は

 場の流れに任せるつもりが

 あったようだが

 いかんな

 一方的な争いの元凶は己であるというのに

 放置しては」


「わあっ」


ナイラは慌てて

上下するドラゴンの口にしがみついた


口を閉じる腕に力を籠めると同時

目もぎゅっと強くつむって必死に告げる


「待ってください

 そういうことは言わないでください

 何だか聞いてはいけないような気がします」


ふむ

とドラゴンは語るのをやめた


まぶたの開閉を繰り返すのは

うなずいているのと同じで

同意の意思表示なのかとナイラには感じられた


そっと腕を外すと

もうドラゴンは口を開かなかった


ほっと安堵してナイラが質問に回る


「私を死なせないほうが良いと思った

 理由は何なんですか?」


澄んだ薄水色の目の中で

濃密な蜂蜜を思わせる黄金色の瞳が動く


ドラゴンは一度

前方を見やって

それからナイラへ視線を合わせた


「ウィンやシャオドンと同じ理由だ

 助けてやってほしい相手が十階にいる」


「シャオドン?」


「五階中央にいた神獣のことだ

 麒麟といったほうが分かるのか?」


「あ──分かりました

 それで皆様がおっしゃる

 『助けてあげてほしい存在』

 って

 あの

 その

 たぶん──」


言葉を濁すナイラを

かたわらでずっと辛抱強く見守るドラゴン


急かされるでもなく

根気強くペースを合わせてくれることに感謝して

いつしかうつむいていたナイラは

意を決して顔を上げた


「──十階で

 ラスボスに捕まっているとか

 そういうことではなくて

 ラスボスご本人なんですね?」


できれば聞きたくなかったのだ


いや

もとい

知りたくなかったのだ


気付きたくなかったけれど

もうとっくの昔に分かっていた


保冷や不死の状態を付与できる

属性は『(おわり)』のみだ


さらに言えば八階も九階も統べていなかった彼の

支配下として残された可能性は十階だけ


十階を統治しているのはラスボスのみ


どうしてラスボスに助けが必要なのか

そこについては不明だが──

トヤがこの迷宮のラスボス

彼らの言うところのマスターであることは確かだ


ナイラが思い悩んでいるところへ

ドラゴンの答えが割って入ってきた


「そうだ

 あの方はもう長い間

 この迷宮にこもりきりでな

 いかに不死の存在とはいえ

 人間の身にはよろしくない

 定期的に六階に行って

 日光は浴びているようだが

 捨てきれない地上への恋慕を

 何とか形にしてやれる相手を

 私たちはずっと求めていたのだ」

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― 新着の感想 ―
十階にいるのは…、そしてラスボスは…やはり…!保冷や不死を司る者、けれどそれはドラゴンと同じように、「加護」か「呪い」か。そのことをナイラは、察していたのですね。 ドラゴンによって、エリクサのことか…
深いですね。不死が加護なのか呪いなのか。 近い問題として、長寿というのもある種の呪いかなーとか。医療の進歩で寿命が延びたら老後資金の呪縛が発生してライフプランがハードになるとか。人間の定格寿命は50年…
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