48.九階 〜ドラゴンのお宝は最上級品の予感〜
■地下迷宮 九階 ナイラ 治癒術師Lv8 商人Lv3
「傷を治したいのだろう
薬なら譲ってやるが」
「え
傷薬ですよ?
あと、さすがにそろそろ魔力も回復したくて」
「これらの宝に埋もれて回復薬があるはずだ
探し出せればお前に譲ろう
私には無用のもの故な」
「ドラゴン様
要らないんですか?
迷宮の深階層で回復薬って言ったら
エリクサのことですよね
体力も魔力も両方全回復する薬なら
ドラゴン様にも役に立つはずでは」
あまりにも太っ腹な申し出に
すっかり委縮してしまっているナイラだ
エリクサの素を貯蔵庫から持ち出さなかった
ナイラにとっては喉から手が出るほど欲しい代物
しかし価値が高すぎる
商人としてバランスの取れていない取引は
怖くてできなかった
「要らぬ
お前ならば光霊玉が描く回復陣が
見えるのではないか?
一寝入りすれば全回復よ」
「え? あ
あ──本当だすごい!
光の精霊だけで組んである
ドラゴン様
光属性なんですか」
改めて辺りを見回して
感嘆の声を上げるナイラだった
ナイラが使う治癒魔法は
光と闇を混ぜ合わせたもので
回復のためにはこれが基本的な仕組みだ
時に光のみであるとか闇のみであるとか
どちらか片方しか操れないものが生まれると
命の精霊の加護が半分だけ贈られることもある
「そうだ
それゆえエリクサは必要ない」
「なるほど
で?
やっぱり保冷の宝箱に?」
「ああ
お前の言う通りだ
一つ二つではないからな
箱も大き目だぞ
すぐに見つかるだろう」
エリクサは冷暗所に保管しないと
すぐに性質が変わってしまう
深階層に店開きしている商人は
保冷袋も売っている
ナイラはヤムから一袋買っていた
「そんなにたくさんあるんですね
箱が見つかったら二個いいですか?
今飲む分とは別に持ち歩く分もひとつ!」
「しっかりしているな治癒術師
──ふむ
これから言うクエストをクリアしたら
四個やろう
どうだ?」
「四個!?
やります
なんですか?」
「即断だな
いいのか?
聞いたらもう後戻りはできんぞ」
「やりますっ
やってみせますとも!」
両の手をぐっと握って気合を見せるナイラ
それが後悔につながる安請け合いだ
ということに気付くのは
ドラゴンの口から発せられた
クエストの内容を聞いた時だった
* * *
「いや……これ
でも──いやぁ……」
へろへろになりながらナイラがぼやく
彼女は今
くすんだ金貨の山の上に座り込んで
一枚一枚それを磨いているところだった
くすんだ金貨の中でも
ナイラが磨いているものは
ひときわ黒ずんでいる
ドラゴンの寝床に敷き詰められていた
光り輝く金貨は表面にあるものだけで
二、三センチ掘るとたちまち
薄汚れた金貨が姿を現した
ドラゴンのクエストはこうだ
『箱を探している間
指に触れた金貨をすべて磨くこと』
「で
でも
どの金貨が私の指に触れたのか
分かんなくないですか?」
「安心するといい
マーキングの魔法をかけてやろう」
「マーキング?」
「触れると対象物の色が変わる魔法だ
それをお前の指にかければ──そら」
ドラゴンが大きく太い指先を
ナイラの目の前に差し出してくる
そこにはきらりと光る
長くて太い爪が伸びていて
下手に触れれば
大怪我をしそうな迫力があった
ナイラはおそるおそる自分の指を差し出す
するとドラゴンは意外なほど繊細な動きで
彼女の指先をつつき「ぐるる」とうなった
たぶんドラゴン語なのだろうとナイラは考えた
「ぐる ぐるる るるる ぐぅ」
ちょっとかわいらしい魔法詠唱だ
思わず笑ってしまうナイラ
こほんと咳払いしたドラゴン
ナイラは笑いをかみ殺して
ドラゴンの魔法を受け入れた
光の輪が彼女の手首に左右一本ずつ現れた
それが指先へ向かって少しずつ移動していく
温かい
やがて光の輪が末端までたどり着くと
それらは熱だけをナイラの指先に残して霧散した
何事もないように見える自分の指先を見つめて
ナイラがじっと動かずにいると
ドラゴンが彼女をいざなった
いわく
触れてみろ
と
ナイラはうなずいてその場に屈み込むと
ひとつ金貨の山をかき分けた
「!」
くすんでいる金貨のうちの十数枚の色が
黒ずんだものに変わった
一度かき分けただけで十数枚
その枚数の多さにめまいがしたナイラだ
ドラゴンのほうは満足そうにうなずいている
「ふむ
成功だな」
「ど
ドラゴン様……
これちょっと」
「何だ
もう降参か?
エリクサやらぬぞ」
「ぐっ……やります」
反論の言葉を飲み込んで
ナイラが奥歯を噛み締めた
──おにょれこの悪竜め……
と内心では思ったが
そもそも前もって
本当に良いのかと念押しされた際に
即断で良いと答えてしまっている
一番悪いのは安請け合いした
ナイラのほうなのだ
ドラゴンは壁にある隙間から
淡い黄色の布巾を取り出し
ナイラへと差し出した
「この布巾を使えば
ひと拭いで綺麗になる
よくよく励むのだ」
それを受け取ったナイラは
半信半疑で手元の金貨を
ひと拭いしてみた
するとどうだろう
黒く煤けていた金貨が
出来上がった直後のような
真新しい輝きを放つではないか
その金貨と同じようなきらめきを
両の目に宿して
ドラゴンを見上げたナイラは
弾む声で言った
「すごいすごいドラゴン様!
これならクエストクリアできるかも!
ありがとうございます!!」
そんな風によろこんでいたのが
今から二時間前の話
今ナイラはぐったりと精彩のない表情で
重い手を動かしていた
「む
無理……」
ばたりと金貨の上に寝転がるナイラ
眉間に皺が寄っている




