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地下迷宮ひとり歩き  作者: 夜朝


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48/60

47.八階 〜湯治と命拾いの機会と絶体絶命〜

■地下迷宮 八階 ナイラ 治癒術師Lv8 商人Lv3


ナイラはきょろきょろと辺りを見回し

誰も居ないことを確認してから

まずは上衣を脱ぐ


するとスフィンクスと目が合った


「見ないでくださいよ」


「人間の肌に興味などないわ

 心配せずともよい」


「えー……スフィンクス様って男性ですよね?」


「そうだ

 男女の区別はある

 同族の女になら反応もしようが

 人間の小娘に用はない」


「ならいいか」


開き直ると強いナイラである


すぱぱと手早く服を脱いで

つま先から湯に浸かる


「くぅ〜」


「年寄りじみた声

 出しよって

 ……心地良いのか?」


「あれ

 スフィンクス様は

 入ったことないんですか?

 そのサイズならいけるでしょ」


通常の三分の一に縮んだスフィンクス


ナイラはそちらへ向けて首を傾げた


スフィンクスは首を振る


「いや

 入ったことはない

 必要ないでな」


「必要ない?

 でも戦闘でダメージを受けたら……」


「普段通りなれば寝れば治る

 我の身体は造りが汝らと異なる

 傷を受けても血は出ぬでな」


「あ

 日干しレンガ製です?」


「然様」


「そっかぁ

 それはお湯に浸かるわけにいかないですね」


「なんじゃ

 そなた甘やかされておるの

 よく水辺にハーリスがついてきたものよ」


「え?」


スフィンクスとのおしゃべりに夢中で

新たに近づいてきていた存在に

まったく気が付かなかったナイラだ


濃い湯気の向こう側から姿を現したのは

宝飾品をすべて取り去った生身のラミアだった


「!!!!」


ナイラは広い浴場の中で慌てて距離を取ろうとする


それを見たラミアはあきれた様子で吐息を漏らした


「やれ

 今更なんじゃ

 殺す気なら話しかける前にやっておるわ

 立札を見なんだのか」


「立札?」


周囲を見回すとスフィンクスが

一枚の立札をあごで指し示していた


何かの絵だと思っていたのだが

どうやら象形文字らしい


「あなた方の使われる文字ですか?

 私には読めません」


「なるほどのう

 やはり相応しくないようじゃ」


「何にですか?

 というか

 あの札は何が書いてあるんです?」


「知らぬ

 あの札はの

 『中立地帯・戦闘禁止』

 と書かれておるのじゃ」


「え!

 それはありがたい……」


ナイラが感心しきりに両手を合わせて札を拝むと

自身の手の甲に頬杖をついたラミアが言う


「ほんに知らなんだのか

 四階の湯治場ではいかがした?」


「四階にも温泉があることは

 地図で知ってはいたんですけど

 行かなかったんです」


「なぜじゃ」


「だって一人だと物騒かなって思って」


「……ああ

 確かにそれはあるかもしれぬの

 そなたらあの字が読めぬなら

 装備品すべて取り払って

 無防備な姿をさらすわけであるし」


考え深げにつぶやくラミア


彼女から敵対心が向けられていないように

感じられるのがうれしくて

ナイラは自分から少し距離を詰めた


「あの字が読めたら何か変わりますか?」


「うむ

 あれには先程の言葉に続いてこうあるのじゃ

 『他者の荷を盗みしもの厳罰に処す』」


「え!?

 そんな素敵な但し書きまで?」


「素敵かどうかは知らぬが……」


そこまできて

ナイラは首を傾げる


「厳罰ってどんなことなんでしょうね

 それに罰を下すのはどなたが?」


「それはマスターじゃな」


「十階にいるっていう?」


「そうじゃ

 あの方はどこにいても

 この迷宮内のすべてを把握しておられる」


「へえ……すごいんですね

 さすがラスボス」


ナイラは気付かなかったが

ラミアの視線がまとう温度が

わずかばかり下がった


ラミアはマスターを

慕っているのだった


魔物の恋心など知る由もなく

温泉に程よく温められたナイラは

テントで寝た後のような

心地よさを感じていた


だいぶ回復したようだ


「そろそろ」と断って

湯から上がろうとする


それを引き留めてラミアが問うた


「のう

 そなた

 十階を目指す心は変わらぬのか?

 同じ湯を浴びたよしみじゃ

 この先へ進まぬと言うならば

 殺しはせぬぞ」


「──」


ナイラは黙って湯から上がり

スフィンクスのそばに置いていた服を着こんだ


ナップザックを背負って

そしてごくりと息をのみ込み

言うのだ


「私もう八階には来ません

 ──さよなら!」


「待ちや!」


ナイラは走り出したはずだった


そう簡単にはいかなかった


ヘビの尻尾が追いかけてきて

ナイラの胴を締め上げたのだ


「ぁが……っ」


尻尾と言っても

その太さは一抱えはある


それに絡みつかれて息さえ苦しい


抜け出すなどもっての外だった


ラミアの吊り上がった目がナイラを映す


ナイラは途切れ途切れに乞うた


「は、な……し」


「ふん

 言うたであろう

 もし二度とこの迷宮に立ち入らぬならば

 その願い聞いてやらぬこともない」


「どう、して……?

 わた……じゅっかい」


「十階には行かせぬ!

 そなたはあの方には不要じゃ」


「……だ、れ?」


「黙れ!!」


ラミアは大きな長い牙を

剥き出しにすると

ナイラの首筋に突き立てた


「あああ……!!!!」


床から持ち上げられていた

ナイラの爪先に転送陣が現れたのは

その直後のことだった


存在感が薄れていくことへの不安と

またすぐに内側から戻ってくると

知っていることからくる安堵


血に塗れて転送された先には

七階の宝物庫など及びもつかない量の

財宝がひしめき合って輝いていた

ここからプロローグを読んでいただくとつながります

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― 新着の感想 ―
地下迷宮での湯治、疲れを癒すにはいいですが、魔物などがもし来たら…と思ったら、なんとラミアが…!でも、素敵な立札があるのですね。マスター、素晴らしいです。 同じ湯を浴びたよしみ、ラミアも優しくなって…
 戦闘禁止、窃盗禁止と明記してある温泉だけど、覗き行為が禁止されていないのは「この迷宮内のすべてを把握しておられる」マスターへの配慮なのか……(笑)。  そしてここからプロローグに繋がるんですね。休…
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