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地下迷宮ひとり歩き  作者: 夜朝


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46/60

45.八階 〜彼のその声が拒絶にも聞こえるから〜

■地下迷宮 八階 ナイラ 治癒術師Lv7→8 商人Lv3


理論としてはおかしくないが

実際に試した者の話は聞かない


もしも意図した通りにいかなかったら

死体が二つ転がることになる


(──でも

 でも!

 それでも時には

 必要なの)


先の見えない道に

あえて挑戦することも

長い人生の中では時には

意味のあることだと


ナイラは自身に言い聞かせて

彼の骸をそっと胸に抱いて両目を閉じた


そうして

それは

詠唱の最後のキーワードを

唱える一瞬前のこと


「そこまでせずともいい

 治癒術師」


「──?」


名を呼ばれて目を開けたナイラの横

そこに立っていたのはトヤだった


床に膝をついていたナイラからは

見上げる形だったトヤ


そのトヤはナイラの視線だけを受けて

話を続けた


「あの戦士がそこの体内に入るのを

 躊躇っているのは

 お前が使った魔法の中で

 光の要素が強すぎるせいだ」


トヤはナイラから

戦士の骸を引きはがし

床に寝かせた


そのかたわら説明も続ける


「今は七対三くらいだな?

 それを半々にしてみろ

 あいつが入ってくる」


ナイラはうなずいて

魔力にのせている

精霊力の量を調整した


するとトヤの言葉通り

戦士が自分の体内に

するりと入ってきたのだった


 ──これなら


ナイラはキーワードを唱えて

復活魔法を完成させた


寝かされた戦士の口元から

呼吸音が聞こえてくる


少し肌が温かくなったようだ


ここでは薄暗くて分かりづらいが

おそらく顔の色も土気色から

血色の良い色に変わっているだろう


固唾を飲んで見守っていた

戦士の仲間たちは

恐る恐るナイラの表情をうかがう


ナイラは笑顔で

深く強くうなずくのだった


「やった!!」


「ありがとう!」


ナイラは肩に入っていた力を抜いて

一度深呼吸をした


「良かったです

 ──私こそ貴重な経験を

 ありがとうございました」


「おめでとう

 計測管を見てみろ」


「計測管?」


トヤに言われてナイラは計測管を手に持つ


なんとそこでは蓄積した経験値を表すバーが

空になっている代わりに

現在のレベルを示す数字が

七から八へと変化していた


「やったぁやったぁ!

 トヤさんありがとうございました!」


瞳を輝かせてトヤに抱きつくナイラ


一瞬驚きに目を見開いたトヤだったが

すぐに穏やかな表情になり目を伏せた


「──良かったな」


トヤはナイラの背をぽんと叩いた


ナイラはその時ようやく

抱きしめ合うような体勢に

なっていたことに気付き

慌ててトヤから離れた


赤くなりながら

照れまじりの笑顔で礼を言う


トヤはそれへ重めの口調で返した


「しかし今回のような助言が

 そう何度も得られると思うな

 本来なら俺は消えゆく命を

 引き戻す手伝いなどせん」


「あ……そうですよね

 終属性なら余計に

 本当にありがとうございました」


そこへ声をかけてきたのは

復活したばかりの戦士だった


まだ死の淵から舞い戻っただけで

体力は無いに等しい


ここで敵対的なモンスターに遭ったら

もう一度絶命してしまうだろう


彼が言う


「ありがとうナイラ

 礼に地上まで送るぜ?

 おまえもそろそろ魔力の回復が

 追いつかなくなってきてんじゃないか?

 ここらで一回

 地上に戻ってこいよ」


魔力も体力もテントの中では

八割ほどしか回復しない


だから百%回復する

街の宿屋のベッドが恋しくなる日は

ナイラにも確かにあった


「──私は」


しかしナイラには

どうしても

彼らと行くのがためらわれた


主義主張が噛み合わないせいも

もちろんあるが

上ではなくむしろ

下に行きたかったのだ


たとえ偶然のたまものでも

ここまで来れたことに変わりはない


この迷宮の

最後の最奥


そこに何があるのかを

この目で確かめてみたいのだ


ここで地上に帰ってしまったら

もう二度とここまで

戻ってこれないのではないか


そう

ナイラには

自信がなかった


その時

口を挟んだのは

トヤだった


「こいつはこの迷宮に

 部屋を持つことになった

 回復のことは心配無用だ

 貴様らだけで帰れ」


「トヤさん?

 私まだ──」


「頷いておけ

 悪いようにはしない」


「おいふざけんなよテメェ!」


復活したばかりで

体調が本調子ではない戦士が

トヤにつかみかかる


トヤはうっとうしそうに眉をしかめて

片手で足元のおぼつかない戦士を払いのけた


「死にたがりの戦士か

 これでは仲間も苦労だろう

 失敗覚悟で術をかけた治癒術師にも

 申し訳ないと思わんのか」


「誰が死にたがりだ

 死ぬのはテメェ──」


「やめてよタック!

 本調子じゃないくせに

 ケンカなんてふっかけないで!」


魔法使いの少女が

死にかけの戦士にしがみついて

必死に引き止めた


戦士とトヤとの間にできた空間に

ナイラが進み出る


ナイラは顔こそ戦士に向けていたが

立っている場所はトヤのそばだった


「──そうですよ

 やめてくださいタックさん

 私はあなたが勝っても負けても

 あなたと地上には行きません」


「ナイラ……」


戦士の悔しそうな

哀しそうな様子を見ていられず

ナイラは顔をそむけた


するとトヤが

マントを広げて

ナイラを抱くように包み込んだ


「なら俺と来るんだな

 このまま案内しよう」


「待ってください私まだ──」


言いながらナイラは

トヤの腕の中から抜け出た


持ち上げたマントの裾に

頬ずりしたナイラは

そのままの体勢で言う


「今はまだ

 あなたと一緒には行けません

 まず先に最奥まで行きたいんです

 ──だめですか?」


「……ふん」


トヤはつまらなさそうに

鼻を鳴らした


ナイラの手から自身のマントを

そっと抜き取ると

彼女からも距離を取る


「機会はそう何度もあると思うなよ

 部屋は置いておくが──

 もうお前を迎えにくることはない」


「トヤさん!」


トヤは言うだけ言うと

闇に(もぐ)って消えてしまった


床にへたり込んで涙ぐむナイラの

背に小さい手を添えたのは

魔法使いの少女だった


「ねぇナイラ……あのひと結局

 ナイラの何なの?」


「何……何って……」


改めて聞かれると

明確な答えを出せないナイラだ


ひねくれ者で

冷たくて

いつも偉そうで


でも


ピンチの時には必ず

助けてくれる人


「私の──好きなひと、です」

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― 新着の感想 ―
自らの命まで賭して戦士を助けようとするナイラの前に現れたトヤさん。いつも不意に現れては、強い印象を残す彼が、今回もやってきて、そのなりゆきに引き込まれました。何と的確なアドバイス…!そして、何と残念な…
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