43.八階 〜期間限定の新たな仲間と進む攻略路〜
■地下迷宮 八階 ナイラ 治癒術師Lv7 商人Lv3
その返事として
スフィンクスから返ってきたのは
深いため息がひとつだ
「罪作りな娘だ
レベル上げのために
重傷者を求めねばならん」
「いくらなんでも
それはないですよ!
スフィンクス様にも
本当はあんな深傷を負わせるつもり
なかったんです
口を閉じたら火が出てこない
だろうと思っただけで……!」
「そうであろうな
分かっておる」
ナイラに殺気がなかったために
口元への着地を許してしまったのだと
スフィンクスは語った
その大きな口からは
まだ少し煙が出ている
ナイラは動揺しきりに
スフィンクスの唇に触れて
軽めの治癒魔法をかけた
「──しかしどうしたものか」
「スフィンクス様
ご一緒に歩いていただけませんか?
この階にも探索者がいると思うんです
中には怪我をした……」
「驚いたではないか
まさか我に他の探索者を襲わせようと
しているのかと思うたわ」
「しませんよ!
さっきから人聞き悪いですね!」
「いや良い考えだぞ」
「し・ま・せ・ん」
可笑しそうに肩を揺らすスフィンクスの隣で
頬を膨らませるナイラは改めて説明した
「──で、怪我してる探索者の治療をして
経験を積もうと思うんです
今にして思えば最初から
そうしておけば良かった
いつの間にか魔物のみなさんの治療ばかりに
なっていたけれど本来の私は
探索者の──人間の味方です」
「で?
その探索者が人道に反して害意のない
連中まで殺していたら如何する
確かそれが袂をわかった原因であったな」
「──治します
この階層で怪我人を放置すれば
高確率で命を落とすでしょう
それではいずれにせよ
命の誓いには背いてしまいます」
「なるほど
臨機応変ということよの
では行くとしよう」
その気楽な即決に
ナイラは内心かなり驚いていた
鍛えるための戦闘訓練とは訳が違う
同行するということは
たとえ一時でも仲間になるということだ
誇り高い神獣が人間とパーティを組むか?
答えはノーだ
「よろしいんですか?」
念のため確認する
「良い
たまには良かろう
それに恩もあるでな」
それを聞いたナイラは
うれしそうに礼を告げて
スフィンクスと横並びで歩き始めた
* * *
「スフィンクス様って寝ないんですか?」
怪我をした探索者を求めて歩きながら
ナイラは色々な話をスフィンクスとしている
時々休憩もして茶を飲んでいるのだが
「人間は適宜休憩を取らねばならぬのだな
不便なものよ」
と首をふりふり言われたのだ
それで思い起こせば
四階のスフィンクスがいた広場は
寝床らしきものはなかったことに気付いて
ナイラは聞いてみたのだった
スフィンクスは否定の形に首を振った
「いや頻度は低いが寝てはおる
一年通じて……そうだな
三時間ほどであろうか」
「みじか!
探索者に襲われるからですか?」
「いや
この階ではそこそこあるが
四階では探索者は滅多に現れぬ
元より眠りを必要としないのだ」
ナイラは困ったような面持ちになって
自分のあごのあたりに手をやった
軽くうなってやや小さな声で言う
「大変失礼なことを申し上げるのですが
スフィンクス様が起きているそばで
私は寝ていてもよろしいでしょうか」
「自然なことであろう構わぬ
見張りもしてやろうぞ」
「本当ですか! 助かります
ありがとうございます!」
左右の手指を組み合わせて
ほくほく顔のそばに持ち上げたナイラ
遠慮のえの字もなく
相手の申し出を受け入れて笑う
苦笑したスフィンクスは
ナイラが呼び寄せた安眠テントの横に
一番慣れた体勢で座って告げた
「探索者の一行が通りかかったら
起こしてやろう
神獣たちは気にせず休め
言ってもあのヘビ女以外は
汝に喧嘩をふっかけたりはせぬであろう」
「あ……もしもラミア様が来られたら
逃げられるように索敵のれんを張ったまま
寝ます」
「なんと忙しい娘よ
そのような休みかたで
果たして回復できようものか?」
ナイラの口から
ん
という声が漏れる
痛いところをつかれた時の声だ
「私
そんなに失礼を働いたでしょうか」
「リュウ族の逆鱗に触れる理由は
礼を失するばかりではない
汝に非はなかろう
しかしそれ故
あやつの敵意は失せはせぬ
許されようとは思わぬことぞ」
「……寝ます
お見張り
ありがとうございます」
はい
とも
いいえ
とも
答えられなかったナイラだ
ただ寝るとだけ告げて
テントの中へ逃げてきてしまった
寝袋の中に収まって
すぐに寝付けない自分に苛立つ
明かりを消したので
何も見えなくなったテントの中で
ひとり昨日今日を振り返って
先ほどのスフィンクスの言葉を考える
みな自我のある存在だ
わけもなく気に入らない相手も
一生の中には一人や二人いるだろう
元よりすべての相手に
気に入られたいなどと
考えていたわけではない
殺したいほど憎まれてしまった
その理由は知りたいが
あの調子で会話にならないなら
それもあきらめるしかないだろう
逃げることしか
できないのだ
けれどそれもいつものこと
不特定多数の徘徊型モンスターからは
むしろ逃げてばかりだった
人語を解する相手とは
概ねいい関係を築いてこれたから
それができないと気付いて
少し物悲しいだけ
それだけだ
ナイラは自分の心の中の
もやもやした部分に決着をつけると
ようやく眠りについた




