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地下迷宮ひとり歩き  作者: 夜朝


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39/60

38.七階 〜平行線の議論と与えられた冷静になる時間〜

■地下迷宮 七階 ナイラ 治癒術師Lv5 商人Lv2


「おまえうまいことやってんなあナイラ

 それこの階層のボスが守ってるお宝だぞ

 おれの店でもまだ入荷してないんだ

 うらやましいぜ」


「売り物じゃないですよ

 というか

 ヤムさんはこれが何か知ってるんですか」


何なんです?


とナイラは問うのだが

ヤムは


何だと思う?


と愉快そうに笑って

教えてはくれない


「え〜何なんですか〜

 気になる」


「けっこう有名なんだぜそれ?

 でもお前が言ってたんだ

 ネタバレすんなってな

 おれがここで教えちゃ野暮だろ」


な?

とヤムが同意を求めた先はトヤだ


トヤは微かに笑って答えた


「お前商人だったか

 さすがに気がきくようだな」


「へへ

 お気に召したら

 今後はごひいきに」


「借りとまではいかないが

 こいつの師匠ということ

 覚えておこう」


「毎度?」


ナイラは高身長の男どもが

自分の頭上でやり取りしているのに

多少の居心地の悪さを感じながら

彼らの背後に回って

その広い背中を片手ずつで

ぽんと叩いた


「ほらほら

 もうここでの用事は済みました

 行きましょうふたりとも」


ナイラが二人を連れて貯蔵庫を出ると

トラップが満載だとされていた

隠し通路については

元仲間がどうやらひとつ残らず

罠を発動させたらしく

壁に矢が刺さっていたり

大きな球が落とし穴にはまっていたり

壁も床も──おそらくは天井も

濡れていたりした


そのためナイラたちが進む際には特に障害もなく

つつがなく通り抜けて金の亀を回収できた


その後ナイラは約束通りトヤが消費した魔力を

治癒魔法で回復させてから

今度は自分の消費分を取り戻すために

ヤムの店で魔力の回復薬を買い求めた


負けてやると言っていた言葉通り

ヤムが提示した金額は相場よりも

二割近く値引きされたものだった


ナイラはほくほく顔で

回復薬を追加で三本買った


トヤは二人で店を後にしてから

隣にいるナイラにこう言った


「俺の階層に来るか?」


「──もう少しだけ

 時間が欲しいです」


「準備するのはお前の部屋だぞ

 当人の意見があったほうが良かろう

 それとも気が変わったか」


「変わってないです

 もっとトヤさんのこと

 たくさん知れたら

 うれしいと思います

 でも──私

 十階まで

 いえ十階が無理でも

 行けるところまで

 行ってみたいんです」


「十階?」


トヤは気まずげに片手で口元を覆うと

そのままでナイラに問いかけた


「十階に何があるか知ってるのか」


「この迷宮のマスターがいることと──

 助けてあげてほしいと思われている

 誰かがいるってことだけ」


「助けてやってほしい?

 誰だそんなこと言ったのは」


「六階のウィンさんです」


「六階の……というと相手は獣か

 名なんぞ知らん」

 

「ひどっ

 自分から聞いてきたくせに

 その言い草!

 ウィンさんが悲しみますよ」


「事実だ

 それに誰とも分からない相手が

 俺の与り知らぬところで

 いくら泣こうが知ったことか」


「トヤさん!」


憤慨したナイラはトヤに詰め寄ると

その胸ぐらを両手でつかんで

下から睨み上げた


「以前から気になってたんです

 今回こそ言わせてもらいますよ!

 トヤさんは他人に冷たすぎです!」


だがナイラが真剣になればなるほど

トヤにはどこ吹く風

のれんに腕押しだった


彼はひょうひょうとした様子で

両目を伏せると

形ばかり降参するかに

両手をあげて返した


「は

 探索者らしくないな治癒術師

 おそらく奴らに聞いたら

 お前より俺に共感する連中のほうが

 多いだろうさ

 ──手を離せ」


「分かってくれない」


「分からんな

 正直なところ

 なぜお前はそんなに

 他者に肩入れできるのか

 不思議で仕方ない」


「……だってトヤさん

 私のことは何度か

 助けてくれたじゃないですか」


手を離したナイラは

トヤの乱れてしまった胸元を整えつつ

ふてくされて続けた


「最初はたぶん気まぐれだったのでしょう?

 繰り返すうちにそれが当たり前になった

 そうじゃないんですか?

 だから私のことあなたの階層に来るかって

 誘ってくれた──違います?」


「……終わりはくる

 何にでもな」


じわりとナイラの目尻にしずくがたまる


「人の関わりにも終わりが来るって

 そう言いたいんですか

 始まってもいないうちから

 そんなの寂しいです」


彼女の目元を見たトヤは

ぴくりと小さく反応して

身をこわばらせたが

次の瞬間には

それを振り切るかに目を瞑って

首を左右に振った


「まだ来てもいない終わりを考えて

 涙ぐんでいるようでは

 俺と共にいるに身がもたんぞ

 ──よく考えてから来い」


俺もよく考える


去り際そう告げてトヤはいつも通り

闇に溶けて去っていった


ひとり取り残されたナイラは

右手の親指を軽く噛みながら両目を伏せて

しばらくの間トヤの言ったことについて考えていた


 * * *


今までのところ

七階にいるモンスターは全員

話せばわかるタイプの

好意的なものたちばかりだった


さすがに下層レベルだけのことはある

みな知性が高くて無駄な労力を厭う

戦えば確実に勝てる戦闘でも

無闇に仕掛けてこない


ナイラはフクロウのところに戻って

貯蔵庫の鍵を返そうとした


けれどもフクロウは首を左右に振って

受け取ろうとしない


「その龍の眼も

 貯蔵庫にあったものでしょう

 他にも色々役立つものが置いてあります

 お好きに持ち出してくださって

 構わないのですよ」


「これはトヤさんにもらったんですよ

 私が持ち出したわけじゃないんです」


「良いからお持ちなさいませ

 ──そう

 十階までたどり着いて

 この迷宮の探索をやめる日が

 来るまで」

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― 新着の感想 ―
ヤムさんとトヤと、戸惑いながらやりとりするナイラの姿が想い浮かびます。トヤは地上嫌いなのもそうですが、人とのつながりにもドライな感じですね。闇に溶けるように去っていくのが印象的です。 元仲間が一つ残…
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