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地下迷宮ひとり歩き  作者: 夜朝


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36/60

35.七階 〜人として、商人として、探索者として〜

■地下迷宮 七階 ナイラ 治癒術師Lv5 商人Lv2


壁を一枚に絞れれば

後はじっくり探すだけなので

探索スキルに乏しいナイラでも

目当ての穴はすぐに見つけられた


壁の縁取りの金は

かなりくすんでいた


それに引き換え亀のほうは

まるで磨きたてのように

きらきらと輝いていた


本当にここなのかと

初見では戸惑ったが

思い切ってはめてみると

ぴったりな手応えがあった


安心したナイラの眼前で

金の縁取りに合わせて

壁がくり抜かれた


「亀さん

 あなたは置いていったほうが

 良いのでしょうか?

 それとも連れていったほうが?」


「ぬしが中にいる間はここにいる

 出たらまた

 われも連れてくれ」


「はい

 分かりました」


「貯蔵庫へは一本道だが

 壁はほぼトラップまみれだ

 壁には触れずに

 通路の真ん中を

 歩くようにするといい」


「う」


ナイラは苦々しい顔で

息を飲み込んだ


トラップが発動する前に

その存在を検知する能力は

職業として『盗賊』を自称する

彼らが特に優れているのだ


その性格は差こそあれ

根底に流れている共通事項は

自分を最優先にする生き方


一般的に治癒術師は

癒しの技を施すにあたって

自分を一番後回しにする


そういった考え方で

ウマが合わず

ナイラは同じ一行(パーティ)にいた

盗賊と何度か衝突していた


そのため盗賊がレクチャーすると

言った罠看破の技術を

身につけずじまいになってしまったのだ


あの時

我を張らずに教えてもらえば良かった


今となっては

どうしようもないことだ


ナイラは目を伏せて首を左右に振った


壁に埋め込んだ亀に向けて

笑顔で言う


「それじゃ行ってきます

 通路の真ん中ですよね?」


「ああ

 健闘を祈るぞ」


「ありがとうございます!」


 * * *


隠し通路の中は

ナイラにとって──

いや

人間にとって

快適な環境に保たれていた


温度

湿度


カビたような変な匂いもない


左右を見ると

見た目には何の変哲もない

壁が伸びている


穴が開いているわけでもなく

スイッチのようなものもなく

トラップだらけだと聞いていたが

何もないように見える

血などの汚れもまったくない


そういった意味では

他の通路のほうが

よほど汚れていた


ナイラは今

浮遊の羽根を使って

床の上二センチ程度の高さを

滑るように移動していた


落とし穴のトラップは

他の場所でも一般的で

浮遊の羽根は

足音を消すだけでなく

落とし穴対策にも一役買っている


ナイラはウイングスカンクに

脳内で礼を告げた


そうして隠し通路の突き当りまで

無事にたどり着くと

フクロウからもらった鍵で解錠した

扉にはフクロウの絵が打ち出された

鍵穴の他にも

ワニやカエル

タカの鍵穴などもあった


違う鍵もあるのかと

知的好奇心が疼いたが

ここは頭を左右に振って

打ち消した


さて

入る前に地図を確認する


確かにこの先に空間がある

だが地図には記されていない

ひとりでも踏破した者がいるなら

この共有マップには記載が

追加されるはずだ


何も描かれていないということは

ここに入るのはナイラが最初のひとりだと

いうことを意味する


「──っ」


そのことに気付いた途端

緊張がナイラの全存在内を駆け巡る


地図を小脇に挟んで両手で口元を覆った


見開いた両目の中で

真黒い瞳が右へ左へと動いていく

その動きが正面で止まった


「…………」


何を言ったらいいか分からない

いや

特に何か言うべきこともないのだろうが


ナイラは両の目を閉じた


すーっと深呼吸を

ひとつ

ふたつ


そうやって気持ちを入れ替えると

背筋をぴんと伸ばして地図をしまった


ドアを開くとそこは

おおよそ五メートル四方の部屋だった


小さい引き出しが

たくさんついたタンスや

大小様々な宝箱


宝飾品のストッカーは

いわゆる『見せる収納』というやつか

ペンダントやネックレスが

いくつものフックに引っかけられて

行儀良く並んでいる


整理整頓がきっちりしている

この部屋は何か持ち出したら

すぐに分かってしまいそうだ


しかし興味は尽きない


ナイラはタンスの引き出しを開けてみた


中には七色に揺らめいて光る

透き通った小石のようなものが

入っていた


「わぁ綺麗

 発光するオパールみたい

 何だろう?」


『鑑定眼』のスキルは

商人にとって必須の能力だ


ナイラも迷宮探索の合間に

鍛えてきたが

これは初めて見る道具で

正体がつかめなかった


無念さに打ちひしがれながら

引き出しを元に戻そうとして

手をかけた

ちょうどその時だった


「あれ?

 おまえ──ナイラじゃないか?」


「え? その声──」


背後からかかる声に振り向くと

そこにはナイラの商人としての

師匠・ヤムの姿があった


「ヤムさん! わぁ

 すごいすごいうれしい!

 また会えた!

 私ここまで来ましたよ!」


「ナイラ〜!

 よく頑張ったなぁ!

 六階であきらめるかと

 思ってたぜ!」


二人して手を取り合い

ぴょんぴょんと飛び跳ねて

ひとしきり再会の喜びを表す


だが

ナイラはふと険しい顔になり

ヤムに告げた


「……もしかしてヤムさん

 ここの貯蔵庫が目当てで……」


「おー

 まさかこんなに立派な

 お宝部屋があるなんてなぁ

 ……へへ」


「だめですよ!

 この部屋の鍵を持ってた

 フクロウさんが

 探索者や商人には許さないって

 言ってたんですから!

 持ち出しは禁止です!」


「なんでおまえは良いんだよ〜

 ひとりだけずるいぞナイラ」


「私も手をつけませんっ

 あくまでも一探索者の

 つもりでいますから!」

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― 新着の感想 ―
誰も入ったことがない部屋、ナイラとともに、なんだかこちらまで緊張しました。そして、なんとヤムさんまで入ってくるとは…。再会したものの、この後が気になりますね。 浮遊の羽根は、落とし穴対策にもなって、…
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