20.七階 〜治癒と対話と和解の兆し〜
次いで『きゅ』という鳴き声
なかなか振り下ろされない剣の気配
恐る恐る目を開けると
ナイラの前には
これまでに助けてきた
モンスターたちが
彼女をかばうように
立ちはだかっていた
コインや兎では
どうにもならないが
元のサイズの三分の一くらいに縮んだ
スフィンクスもいるのを見ると
少し安堵したナイラだ
同じ神獣同士
話になるだろう
すると神獣の二人は
ナイラには分からない言葉で
何やら話し始めた
交渉が決裂したのは
ラミアの方が
牙を剥き出しにしたことで知れた
だが
戦闘の後で
まだ本調子ではなかったせいか
ラミアはスフィンクスの一撃を
まともに食らい
ぐったりと床に伏した
彼女の周囲には
見る間に血溜まりが広がっていく
ナイラは今回も
常と同じように駆け寄って
ラミアの傷に手をかざした
自身の傷も癒していないうちから
他を救うのは順番が違うかもしれないが
重症度から考えると他に選択肢はない
気を失っていたラミアはされるがまま
治療を受けていたが
やがて意識を取り戻すと
切れ切れの声で問うた
「そなた……誓いがそのように大事か
なぜ殺そうと襲いかかるものまで救う」
始めは喋らないように言うつもりだったが
ラミアにとってそれがひどく大切な
問いかけのようだと見て取ると
ナイラは答えようと口を開いた
だがラミアは
ナイラからの回答を待たずに
言葉を続ける
「この迷宮におれば最後は生きるか死ぬかじゃ
妾は必ずもう一度
いな何度でもそなたを襲うぞ
殺されるまで続けるか」
「良いですよ
いつでも来てください
……いえやっぱり止めてください
まだ死にたくないです」
そう
助けずに
息絶えるのを待つべきかもしれない
それほど今このラミアの怪我は重い
だがそれでは間接的に
この女性を殺したのと同じことになってしまう
ナイラは困り顔で笑って首を左右に振った
「狙わないでくださいよ
死にたくないから
貴女のことも助けるんですから」
「死にたくないなら
妾を見殺せ
それしかあるまい
偽善の施しなどいらん」
「誰かを殺したら
今度はそれを恨みに思う誰かに殺される
……と
思う
死んでほしくないんです
──私のためですよ」
「ほんに愚か者じゃ」
「すみません
よく言われます」
「ほ」
ほほほと笑うラミアは
目を伏せて言った
「この階にいる間は
襲わずにおいてやろうよ
ただし他の階で出会えば
──今度こそ殺すでな」
「……っ
はい
全力で逃げます
ありがとうございます」
「ふっ
ほほ
礼を言うか」
彼女から浴びせられる
二回目の『愚か者』発言は
ナイラには
一回目よりも柔らかに感じられた




