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演目3 開演

 

 しばらくすると、ハープシコードの音が少しずつ弱くなって、魚たちはゆらゆらと揺蕩っては波に溶けるようにしてだんだんと消えていく。

 その代わりに現れたのは、透明な羽の生えた妖精たちだ。

 色とりどりの花を衣装にして、小さな妖精が空中ブランコの周りをスイスイと飛び回る。


「あはは! あれじゃ空中ブランコの意味がないね!」


 笑いながらも、ぼくたちは手を叩いて大はしゃぎだ。

 カメリアの衣装を着けた妖精が、ブランコを揺らしたかと思うと、手を離して向こう側のブランコまで羽をパタパタさせて飛んでいく。

 チューリップの衣装の妖精たちは、白、赤、黄、紫と繋がって、ブランコなど関係なしに空中でぶらぶら揺れている。


 次に出てきたのは、テディベアのぬいぐるみたち。

 首にお揃いのリボンを着けて、ペコリと客席に揃ってお辞儀した。

 トコトコ可愛らしく歩いていって、丸盆の上に用意された輪に火を着けた。

 燃え上がる輪を前にしてもトコトコ可愛らしく歩くテディベアたちは、可愛らしくピョンピョンと飛び上がると、火のついた輪の中を勇猛にくぐり抜ける。


 一輪車に乗ってきたのは、キィキィと油切れの音がするロボットだ。

 操っている一輪車の動きは滑らかなのに、ロボットが動くたびにキィキィ鳴るのが可笑しくてたまらない。

 ロボットは、キィキィ音を立てながら、くるくる回ったり飛び跳ねたり宙返りしてみせたり、目まぐるしく動き回っていた。


 軍隊のように整列しながらも、どこかコミカルな動きをした骸骨たちのジャグリングも見事なものだった。

 脚や腕の骨を投げてお手玉したり、頭蓋骨を独楽のように回したり、骨盤で皿回ししたり、背骨を積んでダルマ落とししたり。

 ナイフ投げでは、全部のナイフが肋骨の隙間に刺さっていて、成功なんだか失敗なんだかわからなくておかしかった。


 天井から吊るされたロープに絡みついて、するすると上に登っていくのは、赤い模様のコーンスネークたち。

 よく見たら、ロープの方も白くて長い蛇だった。

 蛇たちは、空中一本綱渡りも難なくこなしていく。

 縦にも横にも蛇たちがしゅるしゅる絡み合って、赤と白のコントラストが美しい1本のロープのようになっていた。


 大きな水槽と一緒に丸盆に出てきたのは、月色の鱗を持った人魚だった。

 人魚が水槽の中をくるくる回りながら泳ぐと、キラキラした鱗が水中に舞う。

 水槽から顔だけだした人魚は、美しく笑いながらぼくとアクアに手を振った。

 躊躇いながらも手を振り返すと、人魚がぱしゃんと尾びれで水を叩く。

 飛び跳ねた水しぶきは月色の泡になって、ぼくとアクアの周りに月色のシャボン玉が飛んできた。






『さてさて皆様、お楽しみいただけておりますでしょうか』


 人魚と入れ替わりに、今度はシルクハットにステッキの小柄な紳士が登場した。

 格好からして、サーカスの団長なのだろう。

 団長は忙しなく鼻の下の立派なヒゲの先を、ちょいちょいと引っ張っている。 

 

 あの団長のヒゲも立派だと思うけど、父さんのヒゲの方がもっと立派だ。

 シルクハットもステッキも、父さんの方がよく似合ってるしカッコイイ。

 まあ、父さんよりも完璧で素敵な紳士なんて、この世に存在しないのだから仕方ないけどね。


『これより休憩を挟みまして、クライマックスのスペシャルステージへと皆様をご案内いたします』


 シルクハットを脱いだ団長が、客席に向かって恭しく頭を下げた、そのときだ。

 紳士の頭から、何かがするりと滑って落ちていったのだ。


「あっ!」


 ぼくとアクアが、小さく驚きの声をあげた。

 ピカピカでつるんとした団長の頭の天辺が、ぼくたちの方を向いている。


「ヒゲの紳士じゃなくて、ハゲの紳士だった……」


 ぼくが呟くと、アクアがぷすっと噴き出した。

 団長は慌てて床に落ちたカツラとシルクハットを拾い上げると、慌てて幕の中に走っていく。

 あんまり慌てていたからか、団長は幕の前でぺちゃんと転んでしまった。

 その拍子にズボンのお尻の部分がビリッと裂けたものだから、ぼくとアクアは同時にぶぶっと噴き出した。

 慌てた団長が両手でお尻を隠したら、今度はベストのボタンが弾け飛んだからたまらない。

 ぼくとアクアは、お腹を抱えて笑い転げることしかできなくなった。

 笑いすぎて息が苦しいくらいだ。


 真っ赤になった団長は逃げるように幕の内側に隠れて、どこか物悲しいような滑稽な音楽をハープシコードが奏で始めた。


「あははははっ! サーカスの団長はクラウンだったんだね!」


「ハゲの紳士……ハゲの紳士…………っ、ふふふふふっ」


 アクアはそのフレーズが気に入ったのか、何度も『ハゲの紳士』と繰り返しては、お腹を抱えて笑っている。

 ぼくたちは、2人しかいない桟敷席に遠慮なく転がって、いつまでもいつまでも笑い続けていた。



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